表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮探索者の日常  作者: 飼育員B
第一章 中層探索者への道
8/89

第7話 依頼交渉

 正午を示す鐘が鳴る15分ほど前、レストラン【ジンデル】の一室でケンは交渉相手の到着を待っていた。

 この世界、と言うよりこの地方では招待された側は定刻より多少は遅れて到着するのが一般的なマナーであり、そもそも時計が普及していないため分刻みで行動するという習慣が無いことから、アルバート達が到着するのはもう少し後になるだろう。

 ケンが早い時間から準備万端待ち構えているのは今回の交渉に力を注いでいるからというよりも、この世界に来てから5年経ってもあまり変わらない日本人鈴木健一郎としての「時間前行動」習慣が取らせた行動だった。

 20年以上も決まりをなるべく守る標準的日本人として生きてきた事に加えて、その最後の8年間は社畜として理不尽な命令に対して嫌でも従わされていた性質がたった5年で無くなるはずがない、などというのはどうでもよい話か。


 ジンデルは一応高級店の範疇に入るがそれほど格式が高い店というわけではなく、味も値段相応と言ったレベルの店だ。しかし座席は全てきちんとした防音が施された個室になっており、店員も最低限の干渉しかしないように教育が施されているため、密談や商談の会場としてよく利用されている。

 また、高級店では珍しいことに入店の際に正装を要求されず、その上に武装解除も要求されないという特徴がある。

 武装したまま入店可能と言っても流石に金属製鎧や長柄武器(ポール・ウェポン)の類の持ち込みには難色を示されるだろうが。

 ちなみに、武装したまま入店可能な店としてはジンデルが最高級である。


 今回この店を会談場所として選んだのは席が個室になっていて秘密を保ちやすいというのも然ることながら、アルバート達がケンという正体不明の相手と会う場面で、危機回避の難易度が高くなる非武装を強制されるのは抵抗があるのではないかと考えた結果だ。

 ケンの側は敵意が無いことを暗に示すために防具は着けず、護身用の小型剣は手元ではなく入口脇のテーブルの上に置いている。着ている服も正装とまではいかないが、裕福な平民が祭日の礼拝用に準備しているのと同じような、比較的きっちりとした服装をしてきた。

 アルバート達に依頼を断られた場合でも、顔を繋いでおければ何かの時の助けになるかもしれず、そう考えれば万が一にも敵対するような事態は避けておきたい。

 この程度の事をしたからといって相手の心象が良くなると思っているわけではないが、少なくとも悪感情は持たれないだろう。


 正午を告げる鐘が鳴り終えた後、それほど間を置かずに扉がノックされ店員が待ち合わせ相手の到着を告げた。彼等もなかなか時間に律儀な(たち)のようだ。

 案内しても良いかという店員からの確認に対して許可を与えると、程なく四人の男女がケンの待つ部屋に入ってくる。

 ケンにとっては少々意外な事に、アルバート達はほとんど武装をしていなかった。


 アルバートはシンプルなシャツにグレーの乗馬パンツ(のようなもの)という、休日に避暑地で過ごす貴族のような出で立ちだった。ラフな格好だが、鍛えられた身体と整った容貌とが相まって非常に精悍な印象を受ける。武装も腰に帯びた小型剣以外には見当たらない。


 すぐ隣に立っているクレアは前日遭った時と同じデザインの白い神官衣姿だが、その下には鎧を着けておらず一見した限りでは何の武器も持っていない。

 サイズが合っていないのか何なのかメリハリの利いた体の線が丸見えで、当人は気付いていないのか気にしていないのか平然とした様子だが、神に仕える者がそれで良いのだろうか。


 ダーナは猫人族の民族衣装のようなものなのだろうか、あまり目にした事がない独特の紋様が描かれた、ゆったりとしながらも動きの邪魔にならないように考えられた服装で、腰には投擲にも使えそうな小ぶりなナイフのみ。

 茶とこげ茶のトラ縞模様の尻尾の先の方には青いリボンが結ばれ、いいアクセントとなっている。


 魔術師のエミリアは前日見たいかにも「魔女」といった印象を抱かせる真っ黒なローブではなく、淡い水色の涼しげなローブ姿だった。布地と同じ色の糸で目立たないように刺繍が施されているが、これは恐らく何らかの付与がされているのだろう。魔術発動補助のためのワンドは迷宮に入る時と同じものようだ。


 女性達は三者三様の美女揃いだが、一際目を引かれたのはエミリアだ。

 常に頭巾(フード)を被ったままで顔を見た者がいない、などと言われていたエミリアが部屋の天井に付けられた<持続光>の魔道具が放つ光の下に顔を曝している。

 シミ一つない白い肌に燃えるような赤い髪。彼女の小柄な体格に応じて小さな耳は猿人族の丸い耳で、森人(エルフ)族のように先が尖ったものではない。

 そんなケンの視線を感じたのか、エミリアがこちらに対して睨むような眼を向けていた。

「なにか?」

 エミリア不機嫌そうな声音を聞いて、ケンは慌てて取り繕う。

「いえ、エミリアさんのお顔を初めて拝見したもので、少々見惚れて……」


「実は森人族(エルフ)だとか魔人族だとか噂されている事は知っているけど私は間違いなく猿人族。外でいつもフードを被りっぱなしなのは単に私の肌が太陽の光に弱いからであって実は吸血鬼だとかアンデッドなどと事実無根の疑いをかけられるのはとても心外」

「申し訳ありません。私もあらぬ噂を鵜呑みにしてしまっていたようです。淑女(レディ)に対して不躾な視線を向けた事と合わせて深く謝罪いたします」

「分かってくれれば良い」

 つっけんどんな喋り方をしているが、それほど怒っていたわけでもないようだ。ケンの謝罪をひとつ頷いてあっさり受け入れると、あとはぼうっと宙を見ているようないつもの態度に戻る。

 安堵に胸を撫で下ろしながら、こういう場でのお定まりの挨拶をひと通り交わし、全員が席に着く。



「皆さん、コース料理ということでよろしいでしょうか。飲み物は何になさいますか?」

 アルバートとクレアの二人はワイン、残りの三人は水を選んだ。

 この辺りでは昼食時に軽く酒を飲むのは特におかしなことではない。

 年齢によって飲酒の可否を分ける法律はないが、体が完成していないうちからの飲酒はあまり良くない事とされているため、だいたい成人年齢とされる15歳以降から飲み始めるものとされているようだ。

 ケンが水なのは以前に酒のせいで大失敗をした苦い経験から以降酒を断っているためで、エミリアは体格的なものか好み的なものから避けているのだろう。ダーナが飲まないのはやはりブレーキ役だからだろうか。


 各人に飲み物が行き渡り、注文した料理が前菜から順に運ばれてくる。さすがに高級店だけあってケンが普段食べているような料理よりも格段に凝ったものが多い。

 出される料理が美味いのは良いのだが、依頼についての話を切り出すタイミングが難しい。さすがに最後の皿がだされるまで優に一時間はかかるコース料理を全て食べ終わってからというのは遅すぎるだろう。

 適切だったかは分からないが、スープの後、口直しのためのパンを置いた店員が部屋から出て行ったところで話を切り出した。


「さて、本日皆様をお招きした理由についてですが……」

「はい。私達に何かご依頼があるとか」

 ケンがそう話を切り出すと、すぐにダーナが応じた。

 彼女は姿を見せた瞬間からどこか落ち着かなげな様子を見せていたが、本題が始まった瞬間に何処か安堵したような、更に緊張が深くなったような不思議な反応を見せていた。アルバートとクレアは黙ってこちらを見ているだけで、エミリアに至っては我関せずといった様子でパンを口に運んでいる。

 ダーナ以外の三人が特に口を開く様子がなかったため、彼女が交渉役であると見定める。余計な心配ではあるが、感情がストレートに表情に出てしまうくらい正直な彼女に交渉役を任せるというのは、それでこのパーティは本当に良いのだろうか。


「ええ、その通りです。先日、幸運にも珍しい魔道具を手に入れる機会に恵まれまして。それを皆様に提供する代わりに、一つ依頼を請けて頂けないかと考えた次第です」

 昨日の昼過ぎからこれまで交渉の手順について色々と考えたが、アルバート達に対しては真正面からありのままに話をした方が良いだろうという結論に至った。

 ケンには口八丁で相手を良いように誘導する事などできそうにも無いし、相手のアルバート達にしてもあまり搦手は得意ではないだろうから丁々発止の交渉になど最初からなりそうにもない。

 それにこちらが騙そうと策を弄しても、アルバートにはあっさりと見抜かれてしまいそうだと思わせる怖さがある。

 嘘をついて悪印象を抱かれるくらいなら、馬鹿正直に全て話してしまった方いくらかマシだろう。


「珍しい魔道具ですか。それはどのようなものでしょうか」

「<水作成>が付与された金属製のコップ、という表現でおわかりになりますか」

 そう伝えるとダーナはかなり興味を引かれたようだった。

 エミリアは相変わらず話を聞いているのかどうかも分からない様子でパンを食んでいるが、他の二人も一見して分かりづらいが興味がありそうな様子をしている。


 迷宮内において安全な水と食料の確保というのはかなり重要である。

 どちらも迷宮の中で現地調達することも不可能ではないが、十分な量が確保できるとは限らない上に安全性に疑問符が付く代物であるため、迷宮に入る場合は自分達で持ち込むこのが探索者の常識だ。

 特に水は生命維持のために食料以上に欠かすことのできないものであるが、意外と嵩張る上に結構な重量になるため、大量に持ち込むことには困難が伴う。

 だから、ある程度の長期間に渡って迷宮内の探索を行う場合、水や食料の運搬を専門に行う荷運び人(ポーター)を雇う事がよく行われている。ポーターは戦闘に参加しないことが前提であるため、武器や防具の重量分だけ多く荷物を運ぶことができる上、雑用を任せることもできるというメリットがある。

 水系統の魔術を使える魔術師がパーティ内に居れば、水の持ち込みは魔術が使えなくなったいざという時のための最低限で済むようになるが、魔術を使える人間の絶対数が少ない上に、そういった有用な人材は有力ギルドやパーティにすぐさま囲い込まれてしまう。


「それは……かなり便利な物でしょうね。しかしなぜ、せっかく手に入れた物を手放してしまうのですか?」

「いえ、この<水作成>のコップについては誰かから購入したというものではなく、迷宮の中で偶然手に入れたものなのですよ」

 <水作成>の魔道具は戦えないポーターのように守ってやる必要もなく、パーティの一員として扱われる魔術師のように分け前を要求せず食料を消費することもない、という探索者にとって垂涎の逸品だ。


 そんなものを報酬にすると言われたことで、ダーナの場合は警戒心を抱いてしまったようだった。

 誰もが欲しがるような貴重で高価なものを報酬にぶら下げ、どこの誰とも知らない相手が名指しで仕事を持ってきたとなれば、背後に罠や悪だくみのがあるのではないかと疑われても仕方がない。

 だからこれは偶然手に入ったものであり、自分自身にとっても間違いなく有用なものではあるが、過去の探索時の状況を考えたところ水の分の重量が減ることで受ける恩恵があまりないのだと伝える。

 パーティの人数が多くなれば小さな利益でも積み重なって大きなものになるが、一人で探索している彼にとっては小さなままであるのだと説明すると、一応は納得したようだ。


「貴方が嘘を言っていると疑っている訳ではないのですが、その魔道具を見せていただくことはできませんか?」

「ええ、構いませんよ」

 当然そういった要求があるものと考えて抜かり無く準備している。

 <魔力遮断>布で作られた保管用の袋から<水作成>の魔道具である金属製のコップを取り出し、この魔道具についての外観や性能について詳細が書かれた鑑定書を見やすいように並べてテーブルの上に置く。

 すると、これまでケンの話に一切無関心だったエミリアが唐突に立ち上がったかと思うと、コップと鑑定書を手元に素早く引き寄せてじっくりと検分を始めた。

「も、もうっ、失礼でしょエミー! 仲間がごめんなさい!」

「いいえ、気にしていませんよ」

 多少あっけにとられたがケンにとっては怒る程のことでもない。何かが気になると他のことが目に入らなくなるタイプの人間は、プログラマ時代()の同僚の中にも何人か居たものだ。

 エミリアの行動にひどく恐縮した様子のダーナを見ると、むしろこちらが悪いことでもしてしまったかのような気分になる。


 実物と鑑定書をじっくりと見比べていたエミリアは、しばらくすると満足したように頷く。

「私が見た限りではこの子(・・・)とこの鑑定書に書かれている内容は一致している。この鑑定書を書いたバロウズって人は私も名前を聞いた事がある魔道具創作者でかなりのベテランだから分析内容は確かなはずだし<署名>が入ってるから偽造されたものでもない」

 基本的に無口なエミリアだが、口を開く時は立板に水を流したように流暢な喋り方をする。流暢と言ってもあまり感情を現さず、ほとんど抑揚がない独特の話し方だが。


「署名?」

「<署名>というのはですね……」

「<署名>というのは主に魔道具製作者が自分が作った魔道具であることを証明するために付与する魔術で一人ひとり固有のパターンがある。そこから派生して書類などの文書に<署名>をした場合後から変更を加えるとその瞬間に<署名>が消えるので改竄防止のためなんかにも使われていて」

 ひと呼吸。

「何らかの専門分野を修めた人が報告書に<署名>を使うというのはそこに書かれた内容を保証するいう意思表示になる」

「と、いうものです」

 自分が知っている内容よりよほど詳しい説明をされては出る幕がない。


 本物である事を示すため、エミリアから返してもらった魔道具を使って水を出し、そうして出した水を店のコップに移した後に飲み干して見せる。飲用として問題がなく、迷宮の中でも使えるということのアピールでもある。

 仮に魔道具によって生み出された水が不純物の一切含まれていない超純水だった場合、そのまま大量に飲むと体内への吸収性が良すぎるせいで腹を壊してしまうかもしれないが、塩でも溶かしてやれば何の問題もなくなるだろう。

 アルバートから空になったワイングラスを差し出されたので少しだけ注いでやると、特に躊躇う様子も見せずに飲み込み「ただの水か」などと呟いている。

 その後はエミリアが合言葉(コマンド・ワード)を唱えて水を出したり、それを手で掬って確認したりと忙しいが、コース料理の次の皿が運ばれてきた事で話は一時中断する。


「ところで、この<水作成>の魔道具なんていうかなり貴重なものを報酬にして、私達に依頼する事とは何でしょうか?」

 各人が魚料理を粗方腹に収め終わった後で、交渉再開となった。

「貴方達には、<転移>門の門番であるゴーレムを斃すのに協力して頂きたい」

「……それだけですか?」

「ええ、それだけです」

「依頼の内容に比べて報酬が高すぎるような気がしますが……」

「私にとっては信頼できる請負人というのは、そのくらい価値があるものです」

 そのあたりは価値観の違いだろう。ケンにとっては迷宮の中で安全が確保されるかどうかという事は優先順位として最も上に来る。確実性や信用といったものもそれなりに上位にくる概念だ。

 迷宮の中では自分と仲間以外には何も信頼できるものが何もない。信頼がおけない相手を安い報酬で雇って自分の近くに置くくらいなら、有り金全部出してでも信頼できる相手を選ぶ。


「それと、気を悪くしないで頂きたいのですが、探索者として自力では到達できない場所に行くために他者の助力を受けてはいけない、というような事が言われていると思いましたが……」

「ええ、そういった暗黙のルールがあるのは確かですが、それが必ずしも守られているかと言うと建前以上のものではありません。下層で活動しているポーターが数人集まったところで上層を突破するのも難しいでしょうし、大規模ギルドでは『見取り稽古』などと称してベテランが新人を引き連れて難所を突破するなんてことは良くある事です」

 何故こんな暗黙のルールがあるのかと誰かが問えば、他人の力を借りて壁を超えても自分の血肉にはならず、自分の実力以上の報酬を望むのは命を縮める行為だとかなんだとかそれらしい答えが返ってくるだろう。

 しかし、本当はどういうつもりなのかと言えば実に簡単な話で、単に「誰かが前に行った分だけ自分の取り分が減るからお前は後ろにいろ」という身勝手な理屈を押し付けたいだけだ。

 口先ではともかく、内心は誰も他人が迷宮で稼ぎを増やすこと望んでいない。


「それに<転移>門の番人部屋の扉の前までなら何度も行っていますから、仮にそれが暗黙ではなく正式なルールだったとしても違反ということにはならないはずですよ」

「えっ、それは本当ですか?!」

「ええ、前回迷宮に潜った時に手に入れた影豹の鉤爪が確かまだ宿に置いてあったと思いますが、それで証明になりますか?」

「本当なんですか……すごいですね……」

 皆が守っていないルールだから自分も破って良いのだ、という内容だけを強弁するのも気が引けるためなんとなく付け加えた一言だったが、何故だか想像以上に激しい反応が帰って来た。

 もっとも、ダーナはちょっとしたことでも大きな反応を返してくるため、彼女の反応の大きさが一般的な尺度で驚かれるようなことなのかの判断が付かない。他の三人は何事にも動じなさすぎるためそっちはそっちで何の参考にもならないのだが。


「この魔道具を持って、中層や下層で活動しているパーティのどこかへ入ろうとは考えなかったのですか? いえ、魔道具の提供を条件にしなくても、ケンイチロウさんくらいの腕があるなら中層ぐらいのパーティならどこにでも入れると思うのですが」

「昔は何度かパーティを組んだ事もあるのですが、方針の違いからあまり長続きしませんでしたね」

「方針の違い、ですか?」

「ええ。大抵は『慎重すぎる』か『臆病者と一緒にやっていけない』のどちらかでした。他には一度、戦利品の配分方法で折り合いませんでした。パーティの共有財産として何割かを貯めておく(プールする)というやり方が理解してもらえなかったようです」

 パーティを組んだことがある相手のほぼ全員が既に探索者として活動しておらず、自分は今も探索者をやりながら生き続けている。どちらの方針が正しかったかについてはとっくに答えは出ているだろう。


「最後に組んだパーティを抜けてからもう4年ぐらいになりますかね。それ以降ソロでそれなりにやってきていますので、我が儘かもしれませんが今さら考えを大きく曲げてまで誰かのパーティに入れてもらおうとは思えなかった、という理由もあります」

 パーティの方針を全て自分の思い通りにしようと思っている訳ではないが、意見を全く聞き入れてもらえないような相手では一緒にやっていくのも限界がある。

 リーダーを務めているような人間、それが特にある程度以上の経験を持っているベテランである場合、間違いなく自分の基準・信念・観念といったものを持っているだろう。それに反する意見が挙がった時に、それが対等と認められる相手から出されたのであれば受け入れる事もできるであろうが、後から入った格下からのものであった場合どうなるだろうか。

 発言した相手がどうかではなく発言の内容のみを評価し、それが正しいものであれば自分の考えに反していても受け入れることができる良いリーダーというのも数多く存在するのだろうが、そういった有能なリーダーの下には既に優れた参謀が控えていることが多く、ケン程度では席など確保できないだろう。


 自分が中心になって新たなパーティを作るという選択肢もあったのだろうが、ケンは自分が教育者やリーダーに向いているとは全く思っていない。

 意見の違う他人を説得する意思と能力を持たない人間がリーダーに収まったとしても、そう遠くないうちにパーティが分裂して消えるだけだろう。



「一人でも門番であるゴーレムを確実に倒せるという見通しが立てばそれでも良いのですが、なかなかそうもいかないもので」

「ええ、それはさすがにケンイチロウさんでも難しいでしょうね……」

 何故か先程から微妙にダーナがこちらを持ち上げてくるのが気恥ずかしい。

 探索者全体からみれば5年で中層到達というのは平均より上と言えるだろうが、たった半年で上層を通り過ぎていったチームの一員から賞賛されるよう程の事ではないだろうに。


「報酬が一般的な尺度で高額だと感じるなら、それは私という異分子を一時的とは言えパーティに含めることのリスクへの対価と、こちらの我が儘を聞いてもらうための迷惑料だと考えてください」

 ひとまず依頼内容とその理由、報酬について話はした。これ以上の話は依頼を請けるかどうかの判断が終わらなければしても意味が無い。

 ダーナの側もとりあえず聞くべき事は聞き終えた、と言った感じで黙ったままアルバートの判断を待っている。ダーナの表情はなんとなく好意的なもののように感じられる。


 アルバートは仲間の顔を順繰り見回した後、ケンの方に向き直った。

「こちらとしては願ってもない条件です。依頼を引き受けさせてくださいませんか」


 交渉の第一段階はなんとかクリアできたようだ。

昨日は投稿できませんでした。

これから先、出来る限りは二日か三日に一話といったペースで投稿していくつもりではありますが、約束を守れるかは微妙なラインです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ