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迷宮探索者の日常  作者: 飼育員B
第六章 孵化
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第70話 パヴリーナ、探索者になる

 パヴリーナ暗殺未遂犯の扱いについては特に揉めることもなく決着がついた。


 パヴリーナを"鼠"の頭領の元から連れ帰った日の翌日、ケンは朝一番で秩序神神殿を訪れた。神殿に入るのは表口からではなく通用口からだ。

 今回はエセルバート配下としての立場ではなく【黒犬】の使い走り(メッセンジャー)、あるいはパヴリーナの保護者として抗議に来たという体裁ではあるが、だからと言って何かやることが変わるわけではない。

 戦士長のエセルバートは不在のため、彼の腹心であり戦士団ナンバー2でもある戦士長補佐のノーマンと交渉を行う。



 理由があってケンと協力関係にある自由神神官がスラムを1人で歩いていたら、秩序神教会の戦士団員に襲撃されて返り討ちにしたという場面までは、ノーマンは平静さを保ったままケンの話を聞いていた。

 しかし、襲撃者が【黒犬】の縄張りの中で事件を起こしたことから、現在は【黒犬】が2人を拘束しているという(くだり)に話が及んだ時はさすがに表情が険しくなる。

 常に穏やかで落ち着いている印象のノーマンが浮かべる静かな怒りの表情は、怒りの対象ではないケンまで恐ろしくなるほどの迫力があった。

 だがそれも束の間のことで、すぐに意志の力によって怒りを抑えて次の展開を考え始めていた。


先方(黒犬)は今回の事件に対する説明と再発防止を要望しています。また、詳細は開かせないのですが彼女(パヴリーナ)は魔術師ギルド長の保護下にあります。こういった事態が続くようであれば、遠からずジョーセフ師が対応に乗り出すでしょう」

「……まず、誤解がないようにはっきり言っておきますが、今回の事件に我が教会は全く関与していません。これは閣下(エセルバート)が、という意味ではなく教会が組織的に動いた事実はないという意味です。この事は間違いなくジョーセフ殿にお伝え願いたい」

「やはり、そうでしたか」

 エセルバートが不在と知った時点で予想していた答えではあったが、はっきり無関係であると明言されたことでようやくケンは安心できた。

 仮に「関係がある」という答えが帰ってきていれば、ケンは魔術師ギルドと秩序神教会、もしくはジョーセフとエセルバートの間で板挟みにされていただろう。

 その光景を想像するだけでストレスによって胃壁が破壊されてしまいそうだ。


「確かに、混沌神の信者が町の中で目撃されたという報告は数日前に上がっていました。ですが、重大な罪を犯したというのであればともかく、ただ混沌神を信仰していることだけを理由として教会全体が動くなどありえません」

「そうでしょうとも。彼女は善良な一般人ですから、命を狙われる理由などありません」

 パヴリーナは善良ではあるが一般人ではなく、命を狙われる理由にも事欠かない気はする。しかし、沈黙は金であろう。

「秩序、そして法を守る者として許されざる愚行を働いた2名については必ずや厳罰に処し、二度とこういったおぞましい事件を起こさないように原因究明と規律を徹底することを誓いましょう―――というあたりでどうですか?」

「宜しいのではないかと。では、そういった感じで【黒犬(あちら)】に犯人の引き渡しを要請しておきます。あちらとしても早々に厄介払いできて喜ぶのではないでしょうか」

「ええ、頼みます。それ以上のことについては私には決めかねますので、閣下が戻られた後に直接交渉してほしいと伝えてください」

「はい、必ず」



 エセルバートと【黒犬】の関係を隠すために、身柄の引き渡しは「魔術師ギルド長の直弟子にしてパヴリーナの友人であるケンイチロウ」と秩序神教会の間で行われることになり、受け渡し場所と時間を決めた。

 両者間の意思が同じなので何事も決定が早い。

「参考までにノーマン殿に伺いますが、今回の事は単なる現場の暴走だと考えて良いのでしょうか」

「個人的にはそう思っていません。実行犯の口を割らせなければ断定はできませんが、こういったことを独断で行っても不思議ではない人物に心当たりがあります。閣下とは馬が合わない人たちですから……今回の事は良い材料(・・)になりそうですね」

 爽やかな笑みを浮かべるノーマンの脳内でどれほど悪辣な計画が立てられているかは知りたくもない。


 その日のうちに【黒犬】から秩序神教会に対して襲撃犯の身柄引き渡しが粛々と行われ、教会側から迂遠な言い回しで謝意が示された。

 言葉の内容は感謝でも謝罪でもなかったので、謝意ではなく「遺憾の意」という表現の方が近いのかもしれない。

 パヴリーナ襲撃の事実と彼女の立場が秩序神教会内にきちんと伝わっていれば、再襲撃の可能性はかなり低くなるだろう。

 ただし、自棄(やけ)になって捨て身の特攻をされたり、別口の襲撃者が現れたりしないとも限らないので、これからしばらくの間は人気のない場所に近付くのは禁止だ。




 そして、パヴリーナが持ち込んだもう一つの課題(タスク)、迷宮探索者になりたいという願いはそれはもうあっさりと叶えられた。

 ケンが約2ヶ月前から籍を置く【ガルパレリアの海風】の2代目ギルドマスター、"おやっさん"ことカストに事情を話したところ諸手を挙げて歓迎され、即座に加入が許可されたのだ。

 普通のギルドならばパヴリーナが「女」でしかも「自由神信徒」である事が悶着の種になった可能性もあったが、カストとポールの2人はそれを話題に上げることすらしなかった。

「癒し手の嬢ちゃんがウチに入りたいって言ってるなら願ったり叶ったりだぜ。なあ、ポール」

「はい、おやっさん。俺としてもパヴリーナさんを加入させることに異存はありません。癒し手がパーティにいるのといないのでは安心感がぜんぜん違いますから」

「では、これからよろしく頼む! どれだけ役に立てるかは分からないが私も全力を尽くそう!」

 この探索者ギルドは設立当初から「来る者は拒まず、去る者は追わず」の方針で運営されて来たギルドであるため、最初からパヴリーナの加入が断られるとは考えていなかった。

 しかし、こうまでトントン拍子に進むのは予想外である。


「最近は偵察者(スカウト)が育ってきてるし、これで回復役も入った。後は水が出せて、いざとなればド派手な攻撃魔法も使えるような魔法使いが来てくれりゃあ、ウチも本気で下層(おく)を目指せるんだがなあ」

「ええ、そうですね。中層突破を目指そうと思ったら最低でも片道2週間分、余裕を見て3週間分は荷物を持ち込まなきゃならねえようですからね。そんなに水を大量に持ち込んだら一歩も前に進めなくなっちまいます」

「ド派手な攻撃魔法ってのは高望みにしても、水が出せるってんならかなり違うな」

 カストとポールがちらりちらりとケンの方を見ながらギルドの将来を語り合う。彼らがケンに「魔術師を連れて来い」と遠回しに要求しているのは明らかだったが、あえて何も気付かないふりをする。

 やはり、ケンが魔術師ギルドと関わりがあることをパヴリーナに口止めしておいて正解だった。もし知られていればこの程度では済まなかったはずだ。


「水の持ち込みを減らしてもやっぱり荷物はかなり多くなっちまうんで、本気で奥を目指すとしたら<重量軽減>のカバンをいくつも用意するか、特注で運搬用の魔道具を作らせるぐらいはしねえとダメでしょう」

「そう言えばポール、こないだオメエが『ギルドの貯金は順調に増えてる』って言ってたよなあ?」

「はい。特注で魔道具を作らせようと思ったらまだまだ足りてねえですが、出来合いのカバンなら3つ4つ買えるくらいには貯まってます」

「そうか。ああいうのは有って困るもんじゃねえんだし、ウチでも準備をし始める時期ってことなのかもしれねえな」

 カストはもうあからさまにケンの方を見ながら、会話をしている。人と会話をする時は「話す相手」の目を見ろと学校の先生に教わらなかったのだろうか。

 隠す気がないのなら遠回しな言い方ではなく直接言ってこい。その方がまだマシだとケンは思う。


「あーあ、どこかに水魔法使いが落ちてねえかな! ウチにいる誰かさん(・・・・)が拾ってきてくれてもいいんだけどな!」

 前言撤回。どちらにしても苛つくので本人がいない場所でやってほしい。



 その晩、【風の歌姫亭】でパヴリーナの歓迎会がさっそく催された。

 急すぎる話なので全員の参加はさすがに無理だったが、それでも半分近いメンバーは最初から参加していたし、途中参加や顔見せだけも含めれば8割方は来たはずだ。


 【ガルパレリアの海風】の定位置となっている大テーブルの上に大量の料理が並べられ、さらに料理を彩るための様々な酒も並べられた。

 誰もが大いに食べ、ケン以外は大いに呑んだ。賑やかさに釣られて寄ってきたギルドとは無関係の客までいつの間にか参加していたが、そんな細かいことは誰も気にしない。

 ケンはパヴリーナが酒を呑む場面を初めて見たが、彼女はかなりイケる口だった。酔わないわけではないが飲んでも全く顔に出ない系統の酒豪である。

 その代わり、パヴリーナが酔うと妙に仕草が色っぽくなる。男前で凛々しい外見には変わりがないので好みは分かれると思うが、夜の酒場で10人誘えば大半はついてくるだろう。

 ナニが目的とは言わないが酔って気が大きくなった3,4人が飲み比べを挑み、もれなく全員が轟沈させられた。まず間違いなく、明日の朝は地獄(二日酔い)だろう。



 酒のおかげで口が滑らかになったパヴリーナからは色々と身の上話も聞いた。探索者業界では他人の過去を詮索するのはマナー違反だが、自分から勝手に話す分には誰も止めはしない。

 パヴリーナの過去と言っても"魔神の卵"やそれに関わる使命についての話ではなく、主に彼女の生まれ故郷のことやこの町に来るまでの苦労話だった。

 この辺りを支配するレムリナス王国は国民のほぼ全てが猿人族で構成され、近隣諸国も人口の大半を獣人系が占めているが、パヴリーナの生まれ故郷では鳥人系が最大勢力で獣人系は少数派だったらしい。

「鳥人系は自由神様の信徒が一番多いからな。だから、自由神様に信仰心を持つことは私にとって至極当然の事だったのだ」

「そうなのか。それじゃ、秩序神はどうだったんだ?」

「やはり少なかったな……数少ない信者たちは面倒くさい奴らだと言われて遠巻きにされていた。表立って攻撃する者こそいなかったが、陰では色々な嫌がらせを受けていたようだった。だから、故郷を離れて彼らと同じような立場になった時、嫌がらせをされるのは愉快ではないが本気で怒れなかったのだ」

 パヴリーナの話でしんみりとしてしまったが、周囲が酔っ払いだらけの空間で物悲しげな雰囲気が長続きするはずもない。パヴリーナ本人もすぐに笑い飛ばし、別の話題へと移っていった。


 国が変われば文化や習慣も変わる。

 旅路の道中でパヴリーナが最も強く感じたのは、地域の違いに種族の違いも加わった食習慣の差だった。

 鳥人系が多い地域では昆虫はごく一般的な食材であり、幼い頃からその文化に接してきたパヴリーナに昆虫食に対する忌避感はない。しかし、獣人系の人間にとっては昆虫よりも獣肉の方が口に合う。

 ただ、一口に獣人系と言っても猿人族、猫人族、牛人族、兎人族、馬人族、犬人族や他にも様々な種族がいる訳で、種族ごとに好みの傾向というものもある。

 国や地域全体を見れば少数派でも、特定の場所では特定の種族しかいないなんてことは良くあるものだ。

「猫人とか、犬人のように猿人とあまり好みが変わらないなら良いんだ。牛人や兎人のように出されるものが植物ばかりというのは結構つらかったな……」

「どう辛いんだ?」

「何を食べても同じような味にしか感じられなかったのだ……不味くはなかったけれど、さすがに飽きる」

「あー……」



 楽しい時間はどうしても早く過ぎてしまう。

 美味い料理で全員の腹が満たされ、酒を呑む人間より酒に呑まれた人間の方が多くなったあたりで会はお開きとなり、ケンとパヴリーナは【風の歌姫亭】を辞去した。

 【花の妖精亭】までの道のりを歩くパヴリーナの足取りからはあまり酔いを感じないが、普段より更に上機嫌で鼻歌まで歌い出したところから察するに、酒の影響はゼロではないようだ。

 どうでも良い情報だが、パヴリーナが極度の音痴だったと報告しておこう。


「いやあ、ケンイチロウが言っていた通りあそこは気の良い奴ばかりだったな! 生まれ故郷を離れてからこの町に来るまで、こんなにも快く受け入れてくれた場所は他になかった」

「良かったな。まあ、この町は余所者の集まりだから、少しくらいの違いなんて無いのと同じだ。自分と違うからって避けていたら誰とも近づけなくなっちまう」

「うん、そうだな。人が何を選ぼうと本来は自由だが、どうしても他人との違いを気にしてしまうものだ。しかし、それでは―――」

 自由についての持論を語り始めたパヴリーナを適当にあしらいながら【花の妖精亭】に連れて帰り、まだまだ語り足りないと駄々をこねる彼女を適当に言いくるめて寝かしつけた。

 酔っぱらいの相手は面倒くさい。




 歓迎会の翌日と翌々日は、パヴリーナが迷宮に入るために必要な諸々を準備するために費やされた。

 ここ最近ではアリサ、カシムたちに続いて3回目のことなので要領は大体つかめている。だが、迷宮探索のイロハを叩きこむための時間もここに含めるとなると、たった2日では全く足りない。

 それなら迷宮に入るのを延期しろと言われてしまいそうだが、当初の予定通り歓迎会の3日後の朝に迷宮に潜ることに決まったのには色々と事情があるのだ。


 カストたちは"遺跡"調査計画への参加を見据え、ギルドメンバーたちに可能な限りの経験を積ませておきたいと考えている。

 特に、これまではパーティの中に純粋な後衛や非戦闘要員を入れた経験がなかったので、魔術師ギルドから研究員やサポート魔術師が派遣された時に備え、陣形(フォーメーション)の検討と確認をしたい。

 ついでに、迷宮に対する知識が不十分な者が「どういった間違いを犯しがちなのか」も知れれば上々だ。

 都合の良いことにパヴリーナは近接戦闘も人並み以上にこなせるので、前衛がモンスターを食い止められなかった場合でも少しは安心できる。


 パヴリーナが急ぐのは、所持金の問題が一番大きい。

 衣食住のうち食と住についてはジョーセフから提供される資金で賄われ、衣についてもエイダや近所の奥様方がお古を提供してくれるので何とかなっているが、他人の厚意に甘えてばかりもいられない。

 当然だが、文無し知識無しのパヴリーナが自力で迷宮用の装備を揃えるのは不可能であるため、どちらもケンが提供した。

 資金は【ガルパレリアの海風】から借りるという選択肢もあったが、ここは保護者であるケンが出しておくべき場面だろう。

 ちなみに、借金の返済はパヴリーナが探索によって得た利益額の半分をケンに支払うことで合意している。


 ケンとしてもあまりパヴリーナから目を離したくない。

 町の中で襲撃を受けたばかりということもあるし、パヴリーナを置いて迷宮に入っている間に何か問題が起きてやしないかと気になって探索どころではないだろう。

 こうして三者の思惑が一致し、元から迷宮に入る予定だった日に何とか間に合わせることになったのだ。



 まずは商業地区の中でも武具工房が集まる一角を巡る。


 基本的にパヴリーナが前線に立つことはないはずだが、後衛でも防具を着けるという迷宮での常識に則って革鎧(レザー・アーマー)を購入した。

 彼女はそこらにいる貧弱な魔術師や治癒術師と違って体力があるので、後衛向けの薄っぺらい鎧ではなくしっかりとした作りで動きやすく頑丈な一品を選ぶことにする。

 鎧の値段を聞いたパヴリーナが「もっと安いものでいい」と主張したが、即座に却下した。装備にかける金を惜しんで命を落としては元も子もないからだ。



 防具を選び終えたら次は鍛冶屋に行って武器を選ぶ。はずだったが、予想外の事があった。

「次は武器を買いに行く予定だけど、パヴリーナは何を使ってるんだ?」

「どんな武器を使っているのかという質問なら、私の武器は拳だ。短剣(ナイフ)の扱い方も多少学んでいるが、一番得意なのはやはり(これ)だな」

「拳? 素手格闘ってことで良いのか?」

「うん、その通りだ」

 武器の入手が容易なこの世界で、素手での戦闘技術を主力として用いる人間はごくごく珍しい。

 人間相手の戦闘が多い騎士や傭兵が格闘術を学ぶことはあっても、それは武器を全て失った後の抵抗手段として身に付けるのであって、最初から武器を持った相手に素手で挑みかかるなんてことはしない。

「珍しいな……どうしてそうなったんだ?」

「それはだな、自由神教会での私の役目に関係しているのだよ」

「役目?」


「私の生まれ故郷の大神殿には世界中に人を派遣する部署があるのだ。ケンイチロウは"卵"のことを知っているのだから、理由は大体想像がつくだろう? 私は幼い頃に神聖術の才能を認められ、将来的にその部署で任務に就くための訓練を受けることになったのだ」

「捜索任務か」

 数年から十数年に一度、活動期を迎えた"魔神の卵"はこの世界のどこかへと転移してしまう。パヴリーナが言っているのは、その時に"卵"の捜索と回収を行うための部署が存在するという意味だった。

「任務中は色々な場所に行かなければならない。この国のように自由神様の立場が弱い場所では、目立つ武器を持っているというだけで揉め事になってしまったりもするからな。逃げるだけなら身軽な方が良いし、戦うにしても武器を使うとやり過ぎてしまう可能性が高くなる」

「なるほど……だけど、襲ってくるのは人間だけじゃないだろ? 人間より体格が大きい相手、例えば豚頭鬼人(オーク)と戦わなくちゃいけない時はどうするんだ」

「その時は神聖術も駆使して何とかするしかない。他の教会と違い、自由神教会は攻撃に使える神聖術が多いのはそういう事情もあるからなのだ」



 パヴリーナが迷宮の中で前衛を担当するのであれば無理にでも剣や槍などの武器を持たせただろうが、彼女は後衛だ。

 ポールと相談し、パヴリーナの本人の希望も加味して弓を持つことに決定した。

 これならば前線に出なくても攻撃に参加できるし、他に弓を使うギルドメンバーの予備武器にもなる。本人にとってはこれが一番重要な理由だが―――弓なら迷宮の外で獣を狩って食料にすることもできる。

 パヴリーナの弓の才能は未知数なので、本当に役に立つかどうかはやってみないと分からない。


 物資類については、ウェッバー商会の新商品"探索者入門セット"に多少の調整(アレンジ)を加えて一括購入してお終いである。

 便利な世の中になったものだ。

 残りの時間は新たに購入した武器や道具類の扱い方を訓練するために消費された。



「いやあ、不謹慎かもしれないが何だかワクワクしてきたな!」

 翌朝に迷宮初探索を控えたパヴリーナが、先ほど受け取ってきた自分の鎧を磨きながら声を弾ませる。全く不安など無いかのような明るい表情と声だった。

 彼女のことだから、実際に不安など感じていないのかもしれない。

「うん、迷宮の中でなにか良いことが起きる気がしてきたぞ!」

「俺はその言葉を聞いて、何か悪いことが起きるって確信したよ……」

「ははははは、何を言ってるんだケンイチロウ。そんな事になるわけがないじゃないか!」


 ケンの頭の中で着々とフラグが立っていく幻音を響かせながら、その夜は更けていった。

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