第59話 連盟創設
ある日の午後、酒場【風の歌姫亭】の一室には何人かの男たちが集まっていた。
そこにいる全員が、探索者ギルド【ガルパレリアの海風】のメンバーが独立後に立ち上げたギルドだったり、過去に友好的なメンバーの移籍があったりと関係が深く、普段から交流のあるギルドのリーダー格の者たちである。
今回、彼らが集まったのは【ガルパレリアの海風】のギルドマスターであるカストの呼び掛けに応えてのことだった。
碌に用件も伝えない状態でたった2週間後にこれだけの人数を集められるのは、カストの人脈の広さと信頼の高さを物語っていると言えよう。
ソロ探索者のケンでは10倍の時間をかけても同じだけのことはできまい。
「おう、全員揃ってるか?」
「はい、おやっさん。本日いらっしゃると返答があった方については全員お揃いです」
カストに続いてケンが部屋の中に入ると、そこでは男ばかりが8人ほど寛いでいた。そのうち1人はカストから客人の出迎え役を仰せつかったポールで、残りの7人は全員がケンとは初対面である。
事前にカストから聞いた話によれば本日の説明会への参加は4ギルドで、どのギルドも迷宮中層を主な活動場所としていて、なおかつパーティメンバー数が10人前後という基準を満たしているとのことだった。
これから行う話の内容上あまり大人数で来られても困るので、1つのギルドからの参加者はギルドマスターともう1人までに制限している。
だから、この部屋にはカストたちを合わせて5人のギルドマスターと4人の補佐役、その他1人が存在する計算になる。
「オメエらも忙しいだろうに、急に呼び出しちまって悪かったな」
「いやいや、おやっさんの呼び出しならいつだって飛んできますとも!」
「アンタには色々と借りがあるからな。返せる時に返しておかないといつになったら全部返しきれるかわからん」
「聞いてくれよおやっさん―――」
「申し訳ないですが、少し頼みたい事が―――」
参加者たちが主催者への挨拶を順番に済ませた後は、カストを囲んで旧知の者同士の近況報告会が始まった。
一方、外様のケンに対しては遠巻きにされた状態で聞えよがしな噂話が展開されていた。
「で、なんだあの小僧は」
「あー、アイツって黒鎚だろ? ソロで中層に行ってるって噂のキチ……おっと!」
「見たところまだ若いが、二つ名付きってことは有名人なのか? オレは今まで一度も聞いたことが無えぞ」
「それはお前が情報に疎いだけだろ。この前だって―――」
「俺はそこそこやる奴だって―――」
ケンとしては噂話をするなら本人が居ないところでやってくれと思うのだが、客人同士のやることであり質問されているのでもないので口を出すのも憚られる。
怒っていると思われて印象を悪くしたくもなかったので、結局は曖昧な笑みを浮かべることでその場をやり過ごした。
室内の状況が落ち着くまでには多少の時間が必要だった。
話の種は全く尽きないようだったが、一時的に会話が途切れたタイミングでポールが上手く割り込んで雑談を中止させて、それぞれに用意していた席に着かせる。
主催者であるカストは客人たちと向かい合わせになる位置に置かれていた椅子に座り、ケンとポールの2人は立ったままでカスト左右斜め後ろに控えた。
「まずは、忙しい中で急な呼び出しに応じてもらえたことに改めて感謝する。せめてもの礼として、後で飯と酒ぐらいは出すから楽しみにしておいてくれ」
「それは良いんだがおやっさん、俺たちは何のために集められたんだ?」
「1つ、仕事の話とそれに関連した提案があってな。参加するしないは自由だし、損はさせねえから話ぐらいは聞いてってくれや……じゃあポール、任せた」
指名を受けたポールがカストの横まで進み出る。
「それでは、これからお集まりの諸兄に今回の計画について説明させていただきます。途中で疑問に思うことがあるかもしれねえですが、それについては後でまとまった質疑の時間を取りますので、まずは説明を最後まで聞いていただくようお願いします」
客人たちの顔をぐるりと見渡して特に異論が出ないことを確かめた後、ゆっくりとした口調で説明が始められた。
「まず、事の発端は迷宮の中で遺跡が発見されたことです。これは、魔術師ギルドの一部とこの場におられる諸兄しかまだ知らない情報です」
ポールの口から飛び出した衝撃的な情報に室内がざわめいた。
男たちの表情はただ驚いている者、呆れている者、疑っている者と様々だが、全員が口々に情報の真偽を問う声を上げている。
「質問については後ほど回答させていただきますので、まずは最後までお聞きくだせえ。ひとまず、遺跡は『ある』という前提でここからの話をさせていただきたく思います」
"遺跡"について話せばこうなるだろうととっくに予想が付いていたポールは、特に慌てた様子もなく説明を続行する。
「今回発見された遺跡ですが、魔術師ギルドにおいて内部を調査する計画が持ち上がっています。ですが、彼らは迷宮については素人ばかりですんで、独力で目的地まで生きて辿り着くのは不可能でしょう」
「そこで俺たちの出番ってわけか」
「はい、そうなります」
それからポールが淡々と"遺跡"調査計画についての説明を行った。
何をどの程度まで明かし、複数のギルドを集めている理由についてどう説明するかは事前にカストやポールと打ち合わせ済みなので、ケンも黙って聞くだけだ。
迷宮の中にある"遺跡"を調査するために、魔術師ギルドが調査員を迷宮の中に送り込む計画が立てられていること。
そのために、調査員たちの護衛と物資運搬を担当する探索者を雇う予定であること。"遺跡"は迷宮中層に存在するので、当たり前だが中層で探索をこなせるだけの実力がなければ応募する資格はない。
手始めに送り込む調査員は数人だけだが、その調査の結果次第では長期に渡って多数の研究者が何度も迷宮の外と"遺跡"を往復することになるし、長期滞在のために食料その他の物資の運搬も行われることになるだろうということ。
計画はまだ立ち上がったばかりで大筋の部分しか決定しておらず、詳細は検討中という段階なので事態は流動的だが、計画は数年間に渡って続く可能性が高いということ。
「【ガルパレリアの海風】も計画に一枚噛もうとしているわけですが……これだけ耳目を集める計画ともなれば【雷光】や【流星を追う者】を始めとした大手が黙って見ているとは思えません。そうなれば規模に劣るウチの苦戦は必至でしょう」
ポールが挙げた名前はどちらも下層探索者パーティを擁する有力ギルドであり、その中でも特に規模が大きい2つである。
ギルドに所属する探索者だけで数十人、迷宮内外でのサポートを行う探索者以外のメンバーまで含めたとすれば、総数は優に百人を超えると言われている。
そして、積極的に新人を受け入れている【ガルパレリアの海風】とは違い、そういった有力ギルドは新人どころか中層まで達していない探索者を歯牙にもかけないので、量だけではなく質でもこちらが劣っていると考えて間違いない。
「ですからウチのギルドを始めとする中堅ギルドで連盟を創り、協同して大手に対抗できないかと考えた次第です。この連盟に参加をお願いしたく、本日は諸兄方にお集まりいただきました」
説明を終えたポールが元通りにカストの後ろまで下がっても、しばらくは誰も口を開かなかった。
黙ったままでお互いに顔を見合わせていたが、やがて何らかの了解が形成されたのか客人たちの中では比較的若く見える赤髪の男が代表して発言を始めた。
「聞きたいことは山のようにあるが……とりあえず、さっきポールの野郎が言ってた遺跡だの魔術師ギルドがどうのって話は本当なのか?」
「俺がオメエらに嘘を吐いてるって?」
「いやいや違うって! おやっさんに限っては俺らを騙したりはしねえって信じてるけどよ、そもそもおやっさんがガセネタ掴まされてるのかもしれないじゃねえか! 俺はありもしねえ遺跡を探すために延々と迷宮の中を歩き回りたくねえぞ」
「今のところは、俺も遺跡と魔術師ギルドの計画が『あると思ってる』としか答えようがねえ。どうして信じてるかって言ったら、この情報を持ってきた奴への信用度しか根拠がねえしな」
「その情報を持ってきた奴ってのは、おやっさんの後ろにいる小僧なんだろ? ―――どうだい小僧。まどろっこしいことは止めにして、直接あんたが説明してくんねえか」
客人たちから注目を浴びながらケンが前へと進み出た。
「ご慧眼、恐れ入ります。確かに、カストさんに"遺跡"とその調査計画の存在をお伝えしたのは私です」
「おべんちゃらを聞きたいわけじゃねえよ」
"遺跡"調査計画の説明やギルド連盟への参加要請は、彼らからの信頼度が高いカストとポールに担当してもらい、話がある程度まとまったところで「魔術師ギルドとの繋ぎ役」としてケンを紹介するというのが当初の予定だったが、ご指名とあらば仕方が無い。
「で、本当のところはどうなんだ? あんたが俺たちを騙そうとしてるなら『嘘です』なんて言えねえだろうが、こっちは何か証拠を見せてもらわんと信じられねえぞ」
「"遺跡"とその調査計画は間違いなくどちらも存在しています。生憎と遺跡が存在するという証拠は手元にございませんが、調査計画の存在については魔術師ギルドから近日中に公表されるのではないでしょうか。その時に明かされる情報が皆様にお知らせした内容と一致していれば、嘘ではないという証拠になるかと」
「……そりゃあそうなるのかも知れねえけどよ、じゃあその公表はいつになるんだよ。1か月後か? 2ヶ月後か? それとも1年後か? それまでの間、ずっと確証がないまま動けなんて話はねえぞ」
「いや、魔術師ギルドが何かやろうとしてるっていうのは、あながち嘘ってわけでもなさそうだぞ」
赤毛の男のすぐ隣に座っている向こう傷の男が口を開いた。
「うちのギルドには1人だけ魔術師がいるんだが、そいつがこないだ『師匠から数年ぶりに呼出しがあった』って言ってたのを思い出した。それだけならなんて事はねえ話だが、他にも迷宮に潜ってる魔術師で何人か呼び出されてる奴がいるそうだ」
「呼び出しの理由が遺跡がどうのって話なんですか?」
「いいや、呼び出しの理由は誰も知らされてないようだ。来週くらいに魔術師ギルドに行くようだから、そこで何か言われるんだろうさ」
ケンが"遺跡"調査計画の立案者であるモーズレイから相談を受けた時、ケンが『探索者をやっている魔術師に声をかけてはどうか』と勧めたことがあった。
モーズレイがケンの意見を採用した結果が、向こう傷の男が言う魔術師ギルドからの呼び出しである可能性は高い。
「来週ですか……」
「それくらいなら待ってみても良いんじゃないのか? ギルド連盟とやらが本格的に動き出すのはそれからって事にしておけば、騙されて腹が立つ以外に害はないだろう」
「それもそうですね。吊るし上げるのは嘘が確定してからにしておきますか」
赤髪の男と向こう傷の男の間で意見の統一が為され、他の客人たちも頷くことで賛意を示した。
「というワケで、ひとまず信じたって事にしておくことになった。が、そうなるとそんな極秘情報を知ってるお前は何者なんだって話になってくるな」
「何故知っているかと言えば、それは私が"遺跡"調査計画の中心人物と知り合いだからです。その方は迷宮と探索者についての知識がないということで、探索者で唯一の知り合いであった私が相談を持ちかけられました」
「その中心人物が誰かってのにも興味はあるが、とりあえずそれは良いや。名前を言われたってすぐには確認できねえし、話が本当ならそのうち判るんだろ」
「んで、その連盟とやらは何をするんだ。その前に、どうしておやっさんがこの話に乗り気なのかが知りてえな」
「このことは、面倒事を避けるためにしばらくの間は秘密にしておいていただきたいのですが……とある理由があり、私は第1回目の"遺跡"探索には必ず参加する必要があるのです」
「ほー……その理由ってのは?」
「申し訳ありませんが、今はまだ明かせません―――参加する必要があるのですが、私は普段ソロで活動しているので自分のパーティというものがありません。つまり、迷宮内での護衛として雇われた他のパーティに参加させていただく必要があるのです」
ケンが"遺跡"の発見者であり、入口の魔術的な鍵を開くことのできる唯一の人物である、という事情を積極的に明かすつもりはない。
この情報が漏れれば、どうにかしてケンを取り込もうとする勢力が現れるのは簡単に予想がつくからだ。報酬付きで勧誘されるなら面倒なだけで済むが、脅迫しようと考える奴がいないとは限らない。
"遺跡"まで辿り着いた後にケンが何をしたかを見られればいろいろと感づかれてしまうだろうが、その時にはケンが持つ情報の価値は大幅に減じているだろう。
「パーティを組んで迷宮に入るのであれば、メンバーが信頼できる相手かどうかは最重要です。私が知っている探索者の中でこういった任務に適している上に最も信頼がおける人と言えば、カストさんを置いて他にはいません。事情を説明して計画への参加をお願いしたところ、カストさんは快諾してくださいました」
「おやっさんは面倒見が良いからなぁ……」
カストの行動は面倒見が良いを通り越してお節介の域に達している。ケンとしてはそのお節介さに助けられているので、全く文句を言う筋合いではないのだが。
「しかし、カストさんからは『1回限りであれば大丈夫だが、ずっとそれだけをやっている訳にはいかない』と言われてしまいまして。どうすれば良いか考えた結果、中規模ギルドを複数集めて交代で護衛任務に就くようにすれば良いのではないかということになり、ならばカストさんの知り合いで信頼できるギルドに声をかけよう―――というのがギルド連盟創設までのあらましです」
「そうか。それならおやっさんが動くのにも納得だな。おやっさんはこういう未発見の遺跡みたいなロマン溢れる話が大好物だし……」
カストをよく知る者にとっては、ケンがカストに接触して以降の展開に特に違和感が無かったらしい。ケンとしてはこの部分が最も疑問を持たれると思っていただけに、肩透かしを食ったような気分だった。
「後から疑問が出てくるにせよ、ひとまずここまでの話は理解したということにしておきましょうか。私が気になっているのは、この計画に参加することでどういった利益が齎されるのかについてです」
後列に座っていた長髪の優男がそこから話を引き継いだ。着ている服もかなり洒落ている彼は、迷宮で探索をしているよりも劇場で悲劇の主役でもやっている方が似合いそうだった。
「1つは情報の共有です。私は"遺跡"調査計画について他の方よりも詳しい情報を入手しうる立場にありますから、その情報によって他ギルドとの競争を優位に進めることができるでしょう。また、無事に計画が始まってからの話になりますが、迷宮内で護衛を行うために有益な情報を共有できれば良いとも考えています」
情報を隠したがりな大多数の探索者たちにとっては情報の「共有」は利点になりえないが、カストとその周辺にとっては忌避すべきほどの事ではない。
第三者に対してまで無制限に情報を公開するという性質のものではないし、カスト率いる【ガルパレリアの海風】とここに集まった男たちのギルドは兄弟のようなものだからだ。
「もう1つは行動の自由度です。契約の主体をギルド単体ではなくギルド連盟にしておけば、何かの理由で欠員が出た時に代役を探すのが容易になるでしょう。複数のチームのうち1つだけが任務に就けば良いので、空いている時間は普通に迷宮に潜ることもできます」
<転移>門を入ってから"遺跡"までの距離は、迷宮の構造改変のせいで変化する場合がある。距離が長い場合は"遺跡"に向かわず地上で待機することになるが、長期間迷宮に潜らずにいては腕が鈍るのは避けられない。
能力の維持を考えても、交代制の利点は大きい。
「その2つは私たちが『連盟に参加した場合』の利点でしょう? 私が聞きたいのはその前の、遺跡の調査計画に私たちが参加することで何が得られるかについてです。もちろん、カストさんの役に立てるということ以外で、ですよ」
「そちらについては、金銭や物品での報酬も多少はありますが……最も大きいのはコネということになるでしょうか。調査計画は魔術師ギルドが主体ですから、普通に参加するだけで何らかの縁ができることが期待できますし、もしかしたら私からも誰か紹介できるかもしれません」
この場にいる客人たちの台所事情は分からないが、中層探索者だから普通に考えて一度の探索でかなりの額の収入を得ているはずだ。
彼らが今の自由を捨ててまで飛びつきたくなるくらいの金銭的な報酬は期待できないとなれば、それ以外の部分の魅力を提示できなければならないだろう。
「魔術師ギルドと親しくしておけばいろいろと便利でしょうね。魔法薬や珍しい魔道具を適正な対価を支払うことで入手できるかもしれません。こういった物は金さえ積めば必ず手に入るという物でもありませんから」
「良いですね。少し興味だけが出てきました」
その言葉を裏付けるように、話を聞いていた何人かが少し前のめりの姿勢になっていた。
「皆様方がもっと興味を持てそうなものと言えば……やはり人材でしょうか。今回の計画は魔術師ギルドが深く関与しますから、迷宮での活動をサポートするために多数の魔術師が参加することになるでしょう。彼らはどこのパーティにも属していないまっさらな人材ですから」
「まさか引き抜けとでも? そんな事をすれば魔術師ギルドが黙っていないと思うのですが」
「探索者になるもならないも魔術師本人の選択でしょう。脅迫してパーティに入れたのであればともかく、そうではないのなら誰かに非難される筋合いではないのではありませんか?」
一挙に何十人も引き抜くのであればともかく、数人であれば大きな問題にはならないはずだ。念の為、魔術師ギルド長のジョーセフあたりにそれとなくお伺いを立てておくべきだろうか。
「うちは魔術師が1人いるからな……ついでに、治癒術師もパーティに入るなんてことはないのか?」
そう聞いたのは向こう傷の男だった。
パーティの中に魔術師と治癒術師の両方が含まれているのが理想的な構成だが、探索者として活動する治癒術師は魔術師以上に希少な存在である。
「そうですね……確約はできませんが進言だけはしておきましょう。少なくとも治療用の魔法薬は十分な数だけ準備してもらいましょう」
「ほう。それはなかなか……」
低級の<治療>薬は飲めばすぐに元通りになるくらいの効果は望めないが、それでも大幅に復帰までの時間を短縮することができる。
怪我による長期離脱は探索者当人にとっては死活問題だし、魔術師ギルド側にとっても損である。どちらにとっても得なのだから用意しない理由はない。
「そう言えば、1つ重要な事を聞き忘れてたな」
「はい、どういった内容でしょうか」
「そのギルド連盟とやらのリーダーは、もしかしてお前さんがやるのか?」
「いえいえ、私ごとき若輩ではそんな大役は務まりません。連盟のリーダーはこちらにおられるカストさんに就任していただく予定です。ここにおられるギルドマスターの方々には、カストさんの補佐役として腕をふるっていただけないかと」
カストを主君とし、各探索者ギルドのギルドマスターが直参、連盟への参加ギルドのメンバーは陪臣とする組織構造をケンは考えていた。ギルド連盟全体の統括と対外的な折衝をカストが担当し、ポールや他のギルドマスターがカストの補佐とメンバーの指揮を取るという役割分担である。
縦割り構造ゆえの弊害もあるだろうが、今まであったパーティを崩してしまうと統率が取れなくなる可能性が高いし、こうすることで連盟への参加ギルド数が増減しても対応することができる。
「それなら良いや。ところで、お前はどういう立場になるんだ?」
「始めのうちは情報収集担当、魔術師ギルドとの調整役といったところでしょうか。実現を確約することはできませんが、ご要望を頂ければそれを伝えることくらいはできるでしょう。"遺跡"調査計画が軌道に乗ってからは……どうしましょうかね」
ケンの宣伝はそれなりに上手くいき、"遺跡"調査計画へ参加することに十分な魅力を感じてもらえたようだった。
最後の方には参加を前提にした要望や提案まで出始めていたから、もうギルド連盟の創設自体は成ったと考えて良いのかもしれない。
ケンが確かな手応えを感じた説明会は和やかな雰囲気のままに終了した。
説明会と懇親会が終了した後の【風の歌姫亭】ではケン、カスト、ポールによる反省会が実施されていた。
「4つのうち参加予定が2つ、前向きな保留が1つ、不参加が1つか……まあそこそこだな。他のとこにもいくつか声をかけてっから、必要な頭数は十分集められるだろ」
「いや、まだ分からないな。計画に参加する前に試験があるから、そこで不合格になる可能性も考えて多めに集めておきたい。場合によっては合格したギルドを引きこむことも考えておかないと」
同じ結果を見ているのに、楽観的なカストと悲観的なケンで全く違う感想なのだから不思議なものだ。
「ですが、ケンさん。あまり【ガルパレリアの海風】と親しくないところを入れても役に立たないんじゃねえですかね。今日呼んだ方々と連携が取れるかも不明ですから」
「確かに、それもそうだな……」
「そんなもん、オメエが口を利けば一発で合格になるんじゃねえのか?」
「そこまでは無理だろうな。せいぜい試験を有利に進めるための情報を流すくらいが関の山だろう。それでも不合格になるようなら諦めてもらうしかない」
「それなら問題あるめえよ。アイツらが軒並み落ちるようならそもそもウチも合格できねえ」
モーズレイに強く推せばギルドの1つ2つを参加させることも可能かもしれないが、あまり抜け道は作りたくない。一度作られた抜け道は他人が通ることも可能になってしまう。
そもそも、事前情報があってすら不合格になるなら根本的に実力不足ということだ。そんな奴らは"遺跡"まで辿り着けないだろうし、辿り着けないならいても邪魔になるだけだろう。
「何にせよ、これからも忙しそうだ」
「まあぼちぼちやっていくとするか。ポールも一丁頼むわ」
「はい、おやっさん。ウチのギルドの中についてはお任せください」
数日後に魔術師ギルドで情報が公表されれば、一気に多くの人間が動き出すことになる。ケンたちは何歩か先んじているはずだが、いつまでもこの優位を保ったままでいられると考えるべきではない。
彼女に礼を言える日が一日でも早く来ることを願いつつ、ケンは【風の歌姫亭】を後にした。




