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迷宮探索者の日常  作者: 飼育員B
第二章 秋季大規模討伐参加
19/89

第18話 事情説明

 夕暮れの下、とある村の中心に設けられた広場は混乱の極みにあった。

 その場に居た村人全員が、今しがた村に着いたばかりの戦士たちに詰め寄り、取り囲んで口々に助けを求める声を上げる。


「娘を、どうか娘をお救いください!」「ダグの野郎が大怪我してヤバイんだよ!」「畜生! ゴブリン共が!」

「奴ら女を攫って行きやがった」「助けてくれ! 死んじまうよ!」「このままじゃこの村はおしまいだぁ!」

「ダグとミーシャは来月結婚するはずだったのに……」「孫の仇を取ってくれ!」「騎士様!」


 一様に困惑の表情を浮かべた秩序神教会の戦士たちが何とか村人たちを落ち着かせようとするが、興奮した村人たちの耳には全く届いていない。

 始めは戸惑ってはいても落ち着きは保っていた戦士たちも、村人から混乱が伝染したのか徐々に興奮し始めていく。

 最後には、この場にいる全員が武器を持ったまま怒鳴りあうという、一つ間違えば最悪の場合殺し合いが始まってしまってもおかしくない危険な状態になってしまう。



「静まれぇい!!」

 その場に居た全員を圧倒する程の大音声でフランクリンが怒鳴る。

 一人残らずピタリと口を閉じたことで出来た一瞬の静寂の中、混乱を収束させるために言葉を続ける。

「我々が何かできるのであれば、出来る限りの手助けはいたしましょう!」

 フランクリンの宣言を聞いた村人達の間にほっと安堵の空気が広がり、再びざわめきだしそうになったところで機先を制す。

「しかし! 事情も把握できないままでは我々も動きようがありません。先ずは落ち着いて、できれば初めから事情をお聞かせ願いたい」

 ひとまず落ち着きを取り戻した村人達が黙って顔を見合わせていると、最初に声をかけてきた老人が村人達に指示して囲みを解かせ、後ろへ下がらせる。


 老人だけが一塊となった村人の中から進み出て、フランクリンに対して頭を下げる。

「私が村長のマイルズです。先程は取り乱してしまい申し訳ございません。事情を説明させて頂きたいのですが、ここでは落ち着いて話が出来ません。まずは私の家までいらしてくださいませんか」

「無論です―――お嬢ちゃんと、そこの黒い小僧は一緒に来い」

「了解です」「承知いたしました」

 事態が把握できていないのか、棒立ちになったままの部下たちをフランクリンが睨む。精神的なショックを受けて我を取り戻すことが出来たようだが、それでもどうしたら良いのか分からずにまごまごしたままだ。

「おい! 聞いての通り俺は村長殿から話を聞かなければならん。その間、貴様らは野営の準備をしておけ! ……申し訳ないですが、どなたかこいつらに野営しても良い場所を教えてやってくださいませんか」

「……では、俺が案内しましょう。どうぞこちらへ」

 村人に案内されて進む馬車と隊員たちを見送る。村の中でも馬車を中心とした隊列を保ったままであるのが何となく滑稽だった。



「では、参りましょうか。もし、怪我人が居るのであればまずはそちらへ連れて行ってください。我々の治癒術師(ヒーラー)に治療させましょう」

「そんな事までして頂けるとは……感謝の言葉もありません」

 村長の案内に従って一軒の家へと向かう。到着した先は一般的な造りの小じんまりとした家だ。

「アガサ! おーいアガサ! 居るんだったら開けておくれ」

 村長が家の中に向かって声をかけると程なくしてそっと扉が開き、憔悴した顔の中年女性が顔を出した。

「……村長、何か用事でも……そちらの方たちは?」

「毎年、春と秋に巡回しに来る方々が居るだろう? 先ほど村に到着なさったんだよ。ところで、ダグの調子はどうだい?」

「良くはありません……このままでは明日の朝まで保つかどうか……今日の昼まではあんなに元気だったのに!」

 女性は堪え切れないといった様子で手で顔を覆う。

「ああ、泣くんじゃないよ。こちらのヒーラーの方がきっと治してくださるから」

「本当ですか?! お礼ならば必ずいたします! どうか、どうか息子を助けてやってくださいませ!」


 女性に急かされて家の中に入って行くと、直ぐに重症を負った青年が寝かされている部屋へと通された。

 裸の上半身には血の滲んだ包帯が幾重にも巻かれ、モンスターに嬲られでもしたのか顔や手足にも切り傷や打撲の痕が複数あるのが確認できる。

 青年に意識はなく、全身にびっしょりと汗をかきながら苦しそうに呼吸をしている。腹に槍か剣でも刺されたのか内臓がひどく損傷している様子で、医者も居ない村では手の施しようがなかったに違いない。

 クレアが青年に近づいて包帯の上から傷口に触れ、神に対して治癒の奇蹟を願うと青年の全身から一瞬だけ淡い光が放たれる。

 光が収まると、体のそこかしこにあった傷が全て跡形もなく消えていた。最も大きい腹部の刺創は包帯の下なのでどうなっているか直接見ることが出来ないが、それも全て塞がっているだろう。

 あれだけ荒かった呼吸も既に静かなものに変わっており、このまま服を着せてしまえばただ眠っているのと見分けが付かない。


 クレアが優秀な治癒術師である事は聞いていたが、ここまでの重症を一気に治せてしまう程とは思っていなかった。今使ったのはただの<治療>ではなく、<高位治療>や<完全治癒>のような噂でしか聞いたことがない上級の魔術なのかも知れない。

「これでもう大丈夫です。しばらくすれば目を覚ますことでしょう」

「ああ! 神官様、有難うございます! このご恩は一生忘れません。代金は何年かかったとしても必ずお支払いします」

「いいえ、この方の命が救われたのは私自身の力ではなく、秩序神ジョザイア様の思し召しなのです。感謝は金銭ではなく祈りによって表されるべきです」

 平たく言えば"金を払わなくても良いから信者になれ"という感じだろうか。

 探索者が神殿まで行って<治療>をかけてちょっとした怪我を治してもらおうと思った場合、一般的な上層探索者の1ヶ月分の収入(・・)が丸ごと吹き飛ぶ程の金額が要求される。

 死ぬ間際の人間が完全回復するほどの上級魔術となれば謝礼は想像を絶する高額になるはずで、ただの村人では何十年経っても払いきれないだろう。



 しきりと感謝する中年女性に見送られながら家を出て、一行は村長の家へと向かう。

 村長の住居は一般人の家の3倍近い大きさを持つ、村で最大の建物だった。

 これは権力者だから、とか裕福だからという理由で無駄に大きく作られている訳ではなく、村の集会所を兼ねていたり村の外からの来訪者の宿泊所になっていたりするせいで、どこの村でも大抵はこんなものである。

 村長の後に続いて家に入ると、そこには既に壮年の男が待ち構えていた。椅子に座ってそわそわと落ち着かなさげにしていたが、一行の姿を見つけると立ち上がって出迎えにやって来る。

「村長、ダグはどうなりましたか?」

「こちらの神官様のお陰でもうなんとも無い。今はまだ眠っておるが」

「そうですか……不幸中の幸いでしたね。神官様、私からもお礼を言わせてください」

「これも神のお導きでしょう」


 その後、お互いに自己紹介をし合う。

 村長の家で待っていた壮年の男はこの村の自警団の団長で、ジャクソンという名前だそうだ。

 今回の件では村人達を指揮して色々と動いていたらしい。広場で騒ぎが起こっていた時も村の外に出ていて、日暮れと共に村に帰って来たその足で村長宅に報告のために訪れたそうだ。

 自己紹介が終わってから全員で席に着き、村長の孫娘と思われる若い女性が出してくれた茶で喉を潤す。


「それじゃ村長、早速この村で起こっている事について聞かせて貰いてえんだが」

 一息ついた後、フランクリンが説明を促す。

「その事についてはここに居るジャクソンが一番詳しいはずです。彼に説明させましょう」

「はい、村長。では、フランクリン様達が分かりやすいように最初から順を追って話させて頂きます」



 村人達が最初に小鬼人(ゴブリン)の姿を見かけたのは、だいたい10日前の事だったらしい。

「少し離れた場所でゴブリンが1匹だけで村の様子を窺っていました。注意しながら近付いてみたら一目散に逃げ出して行ったので、その時は"はぐれ"だろうと思ってあまり気にしませんでした」

 ゴブリンは十数匹から数十匹程度で一つの群れを作り、森や洞窟の中に拠点を構える。必ず数匹単位のグループを作って拠点周囲の植物を採取したり、小型の動物を狩ったりして食料を集める。

 はぐれと言うのは、何かの理由で群れから追い出されたりはぐれたりしてしまった個体の事で、大抵は碌に食料を得ることが出来ずに餓えて死んだり、人間の領域で農作物や家畜に手を出したせいで討伐されたりする。


「それから毎日ゴブリンが目撃されるようになりましたが、そいつらは決まって1匹だけで行動していました。念のために村の外にでる時は必ず武器を持つようにしていましたので、それほど脅威には感じていませんでした」

 ゴブリンは成体でも身長120から130センチメートル程度にしかならず、体格相応の腕力しか持っていない。加えて言えばそれほど知能も高くはない。

 自分より弱い相手に対してはこの上ない残虐性を発揮するが相手が互角以上とみればあっさり逃げ出すような奴らなので、人間の成人ならば棒切れでも持ち歩いていればまず襲われることはない。

「毎日、ですか?」

「ええ。今考えればかなりおかしな事だったんですが、たかがはぐれゴブリンと侮っていた事は否定できません」

 油断があったのは確かだろうが、だからと言って彼を責めるのは酷だろう。まともな武器があれば10歳の子供でも斃せるような雑魚が1匹うろついてるだけでは危機感を持つのも難しい。


「日に日にゴブリンが目撃される回数が増えてきて、これはどうもおかしい、2箇所以上で同時に出ているとしか思えないと話題になっていたところで……」

 終に今回の襲撃事件が発生してしまった、ということだった。

 村の周囲に出没していたゴブリンは"はぐれ"などではなく、群れの中の偵察要員だったのだろう。

 1匹だけで行動していれば見つかってしまっても人間はそれほど警戒しないし、よほど特徴的な個体でも無い限り人間にはゴブリンの見分けなどつかない。


「今日の昼過ぎの事です。ダグの奴は(きこり)をしているんですが、いつものように仕事に行ってたあいつが血塗れになって村に戻ってきました。ダグは『ミーシャが攫われた』とだけ言って気を失ってしまったそうです」

 重症を負ってベッドに横たわっていた青年を見た時、村人にしてはかなり筋肉が付いているとは思っていたのだが、樵をしているというなら納得だ。

 日々の労働によって体が鍛えられていたおかげで、傷を負いながらも何とか村まで戻ってくることが出来たのだろう。

「盗賊でも出たのかと慌てて人を集めて慌てて伐採所に向かいましたが、そこには斧で頭をかち割られたゴブリンの死体が一つと、昼食を運ぶために使っていた籠だけが転がっていました。ちょうどダグの恋人であるミーシャが昼食を届けに行っていた時に襲われたようです」

 攫われたと言うからには殺してから死体を運んでいったのではなく、生きたまま連れ去られたのだろう。

 人間の死体がゴブリンに喰われていたという話はたまに聞くので、死体を運んで行ったのであれば食料にでもするのだろうと思えるが、わざわざ生かしたまま連れて行く理由が全く想像できない。


「遅ればせながらもゴブリンの仕業であると気付き、男達で手分けして村の周囲を見廻りました。そうしたら畑へと向かう道の真ん中に男の子が倒れていて……」

 その子供の治療を依頼されなかったということは、つまり手遅れだったのだろう。

「その子供の家に行って話を聞いてみると、親子揃って農作業をしている父親に昼食を届けに行くところだったようです。周辺を捜索しましたが、母親の方はまだ見つかっていません」

「すいません、質問をしても良いでしょうか」

「ええ、どうぞ」

「畑に向かう道というのは、伐採所に行く道とは別の物ですか?」

「はい、村を中心としてほとんど正反対の方向です」

 つまり、ゴブリン共は2箇所でほぼ同時に襲撃を行い、しかも成功させた事になる。

 ただのゴブリンの群れにしては手際が良すぎるので、まず間違いなく迷宮内のゴブリン・リーダーに相当する有能なリーダーに率いられた群れだろう。



 その後は村周辺の地理などを中心に情報を確認した。

「村の周辺で過去にゴブリンが住み着いた場所や、それに適した洞窟などに心当たりはありませんか」

「10年ほど前、村の西の方にある洞窟に住み着いた事があるようです」

 村長の家を出た後、ジャクソンに子供が倒れていた現場まで案内してもらう。既に日は落ちきっていたので常人離れして夜目が効くケン以外には分からなかっただろうが、道の真ん中にはまだ生々しい血の跡が残っていた。

 ジャクソンとはそこで別れ、ケンたち3人は分隊員達が野営している場所へと向かう。


「解せねぇな……」

 道中、フランクリンがぼそりと呟いた。

「ええ、同感です」

 ゴブリン共はたまたまそこに居た人間を襲ったのではなく、明らかに女に狙いを定めた上で襲撃している。誘拐された2人は毎日のように昼食を届けるために村の外に出ていたようだから、最初から目標は決まっていたと考えるべきだ。

しかし、ゴブリンが人間の女を誘拐して何をしようというのだろうか。

 喰うためなら子供の死体を放置して行ったりはしないだろうし、食料を得る手段として人間を襲うのは危険(リスク)の大きさに比べて収穫(リターン)が小さすぎる。

 これが前世(日本)にあった成年向け創作物であれば「男ばかりの種族が繁殖のために人間の女を利用している」という結論で間違いないのだが、ゴブリンにはちゃんと雌が存在している。

 それに、人間がゴブリンの雌に欲情しないのと同じように、ゴブリンも人間の女に欲情しないのではないだろうか。実際にどうなのかを直接確認したわけではないし、何事にも例外は付き物だが。


「村の連中には悪いが、動くのは夜が明けてからだな。ウチの連中は夜に行動するような訓練なんかしてねえし、それで無くても碌に地理も分からん場所だからな」

 普段は街中で暮らしている人間が夜の森に準備もなく入っていけば、間違いなく一発で遭難するだろう。それでは村人を助けるどころか村人に助けられるとなんていう笑えない事になってしまう。

「では、今晩は1人で周辺を調査して来ましょう。先刻の場所は村人が荒らしてしまったせいで痕跡が追えませんが、伐採所の方は何とかなる可能性があります。実際に見てみないと判りませんが」

 どうにも嫌な予感がするので出来る限り早めに動いておきたい。ケン自身に責任はなくても、あまり悠長に構えていて気付いたら全て手遅れでしたなんて事態は避けられるなら避けておきたいのだ。

「……大丈夫なのか?」

「ええ、明るい場所よりもむしろ暗い場所の方が得意ですからね。時間が経てば経つほど追うのが難しくなりますし」

「俺としちゃあ、そっちの方が楽になるのは確かだが……嬢ちゃんはどう思うよ。前に1回、パーティ組んで潜ったって言ってたよなあ」

「ケンイチロウ様が大丈夫だと仰るなら大丈夫なのでは無いでしょうか。そういう嘘はつかない方ですから」

 小首を傾げて可愛らしく答えるクレアには、信頼されているのか単に突き放されているだけなのか微妙なところだ。


フランクリンは暫し黙考した後、ケンの提案を受け容れる事に決めたようだ。

「じゃあやってみろや。ただし、無理だけはすんなよ」

「もちろんですよ。逃げ足だけは自信がありますから」

「万が一夜明けまでに戻って来なくても捜索はできねえぞ。小僧が生きて帰れないような相手じゃあウチの奴らが当たった時に何人生き残れるか判らねえからな」

 フランクリンにはどうも買い被られている気がするが、軽く見られて意見を聞いて貰えないよりはマシだと思っておく。



 村の広場まで戻った所で2人と別れ、伐採所へと向かう。

 村から続くまっすぐな道を数百メートル進んだ所が現在の伐採地のようだ。切り倒され、枝を払われた丸太が数本転がっている。樵のダグに殺されたというゴブリンの死体は既に処理済みのようで、血痕以外は残っていなかった。

 木が切られたことでできた広場を外周に沿ってぐるりと一周する。すると南の方角に向かって何かを引きずったような跡と、人間にしては小さい足跡が複数あるのを発見できた。

 その跡を少し辿ってみると、所々で下草が乱れていたりツタ類が引き千切られていたりする場所がある。これは引きずられた女が抵抗した時に荒らされたと考えて間違いない。

 痕跡を追って数十メートルも進んだ所で、ちょっとした天然の広場ができていた。その広場では一際草が踏み荒らされているが、そこから先は急に痕跡が小さくなっている。

 ここで誘拐された村人を縄か何かで縛り、この先は担いで進んで行ったのだろうとケンは予想する。


 微かなゴブリン共の痕跡を追って真っ暗な森の中を進んでいく。

 やがて木々が途切れ、東西に流れる名も知らない川に突き当たった。川幅は3メートルほどもあり、晩春から真夏にかけては山からの豊富な雪解け水が流れているのだろう。だが、夏が終わって秋口となった今は水面幅50センチ、深さ20センチ程度の小川である。

 狭い川を飛び越え、対岸に渡る。

 しかしどういう訳か対岸ではゴブリン共の足跡を全く見つけることができなかった。


(まさか、足跡を誤魔化すために川の中を歩いて行ったのか?)

 仮にその考えが正しいとすると、ただのゴブリンにしては知能が高すぎる。

 これが真夏であれば涼むためにたまたま川の中に入って歩いただけという可能性もあるが、今はとっくに暑い盛りを過ぎているし、雪解け水を由来とするからか川の水は身を切るような冷たさだ。

 それに、人間一人を担いで歩いているというケンの推測が合っているとするなら、理由もなく滑りやすい川の中を歩いたりしないだろう。


 嫌な予感が次第に強くなっていく。


 ゴブリン共がわざわざ川の中を進んで行ったと仮定して、問題は西(上流)(下流)のどちらに進んだかだ。

 自警団長から話では村の西側にゴブリンの巣穴になるような洞窟があるらしいので、一か八か上流側に進んでみることにする。

 川岸を逆上って歩くこと数百メートル。

 川から離れるように進む複数の足跡を見つける事が出来た。

 これが村の伐採所から続いていた痕跡の持ち主と同一である保証は何もないが、今のところ他には何一つ手がかりが無いのでこのまま追うより他はない。



 川を通った事で追跡者を完全に撒けたと安心したからなのか、川を渡った後の追跡は比較的簡単だった。

 ただし、途中からは今回追跡してきたものではない足跡が複数重なってしまったせいで、今辿っている道が本当に村人を誘拐した犯人の物なのかが分からなくなってしまったが。

 大量の足跡は全て一つの方向に続いている。

 そのまま進んでいくと、やがて洞窟が見えてきた。これがおそらく村人が言っていた、過去にゴブリンが棲み着いた事がある洞窟なのだろう。

 離れた場所から洞窟の入口を眺めてみても、見張りをしている奴は見当たらない。

 まず間違いなく洞窟の中は現在進行形でゴブリンの拠点になっているだろうが、念のためにゴブリンが出入りしている所を見ておくことにする。

 洞窟の出入口を監視できる森の中に隠れて数十分も待った後、ぎゃあぎゃあと喧しく喚きながら3匹のゴブリンが洞窟の中から姿を現した。

 碌に周囲を警戒することもなく排泄行為を済ませると、そのまま洞窟の中に帰って行く。



 ゴブリンの棲家を見つけることが出来たが、ケン1人だけではこれ以上どうしようもない。村に帰って隊長殿(フランクリン)に事態を報告し、明日にでも討伐してもらうとしよう。

 何故かますます強まっていく嫌な予感を抱えながら、ケンはその場を静かに離れた。

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