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第五章 熱帯の国の裏切り(前編)

砂漠の城下町を後にして、向かったのはまたしても暑い国である熱帯の国。

砂漠とは違い、熱帯雨林に囲まれた緑豊かな国である。

だが、その分湿気が多く、不快度数は増すばかりのきつい国でもあるが。


砂漠の国ではあの後も大変だった。

念のため数日間様子を見ようと待機していたのだが、その間女王が迫ってくる迫ってくる。

最後の夜には宿屋にまでおしかけてくるのだから、案外本気だったのかもしれない。

女王が近くに来るたび、魔王の機嫌が悪くなるものだからさらに困った。

何度死の恐怖に怯えた事か。 死にすぎていまさら死ぬ事に恐怖は感じなくなってきたけど。


などと数日間を振り返りつつ魔王の様子を見ると、砂漠で暑さには慣れたはずの魔王でもやはりダウンしかかっていた。



「あづい……ベタベタするよぅ……」



やはり湿気の多い暑さには勝てなかったか。

汗を拭いてやりながら城下町の門へ向かう。


この国には良い思い出がない。

魔物に騙されていたせいとはいえ、国中でいじめられた記憶が生々しい。


正直、この国には来たくなかったのだが、世界の割れ目からの距離は砂漠の国とそう変わらない以上、被害の確認と必要ならば復興の手伝いをするのがオレの責任というものである。

その為に、気乗りしないながらもわざわざこの国へ立ち寄ることにしたのだ。


以前、ここの国は魔物が王に化けて悪政を行っていた。

普段苦しめられている鬱憤もあったのだろうし、裏で報奨金も出回っていたせいもあったのだろう、町中でオレはいじめにあう事になってしまった。

歩けば石が飛んでくるし、物は売ってくれない。

宿も法外な宿泊料を吹っかけてくるし、その上寝ている間に襲われそうにもなった。

城では有無を言わせず牢屋に閉じ込められてボロボロになるまで殴られたことも覚えている。

なんとか王の正体を暴いたものの、騙されて行った所業の後ろめたさだろうか、その後もオレに対しての態度は腫れ物を触るかのような扱いだった。

……そういう訳で、オレはこの国に対してあまり良い印象は持っていない。


そういえば、魔物が王に化けていたのは魔王の指示だったんだろうか?

このポンコツが、そんな高度な謀をするとは思えないんだが……



「ふぇ? 知らないよ、そんなこと。 だいたい、悪い事しちゃいけないんだよ?」



やはり知らなかったか。

恐らく、多少頭の回るあの魔族の独断だったのだろう。 トップがこのポンコツだし。

しかし、魔王の癖に悪い事しちゃダメとか、お前本当に魔王かよ……

敢えて聞いてはいないが、そもそもコイツは世界征服とか考えてなさそうだ。



城下町へ入る門で、兵士に引き止められた。

どうやら、この国の王がオレに何か用事があるらしい。

といっても、恐らくはまっぷたつ事件の事だろうけど。


砂漠の国とは違い、明らかに警戒した様子でオレを王城へと案内する兵士に注意を払いつつ、魔王と共に熱帯の国の王との謁見に向かう。

道中見ると、やはりここもまっぷたつ事件の影響を大きく受けているようだ。

遠くに見える城も一部崩れているし、町でもいくつかの建物が崩れたままになっている。

ただ、砂漠の町と違うのは、それらが崩壊したまま、手付かずになっているという点だ。


以前のこの町は、圧政から開放されてもう少し賑やかだったような気がするんだが……

などと考えているうちに、王城が目の前に迫っていた。




「来おったな、勇者。 この日を待っておったぞ」



謁見の間に通されたオレに、王が声をかけた。

あれ?

王は王でも、オレの知ってる王様じゃないぞ、コイツ?

あのハゲ頭、どっかで見た記憶があるんだけど……


と、突然回りの兵士がオレと魔王に槍を突きつけてきた。

……どういうことだ? まだこの国には着いたばかりで、何もしていないはずだが。

いや、考えてみれば横にいるのは魔王。 魔族と一緒に行動してるだけでも問題か。


しかし、どうやらそのような理由ではなさそうだ。

王の目を見ればわかる。

こいつ、喜んでる。 この状況を楽しんでいる。

オレの嫌いな、人を蔑んで喜びを感じる醜い目だ。


王のニヤニヤ顔を見て、突然脳裏に記憶が蘇ってきた。

見た事があるわけだ。 この王、以前大臣だった奴だ。

魔物の化けた王に従って人の不幸を同じような顔でニヤニヤ見ていたのを思い出す。



「思い出したようだな。 貴様のせいで、ワシの築いておった利権が全て失われた事、忘れてはおらんぞ?」



何が利権だ。 魔物以上に悪政を敷いて町の人を苦しめていた癖に。

オレを手配して報奨金をかけたのもお前の提案だって聞いたぞ、クソ。


何故コイツが王になっているのかは知らないが、状況はあまり良くなさそうだ。

無論、オレだって一応勇者だし、何より魔王の力があれば城ごと周りの兵士を吹き飛ばすことも簡単なんだろうけど……


見ると、兵士の中には申し訳なさそうな顔をしている者もいる。

恐らく、家族か何かを人質に取られて仕方がなく従っている者もいるのだろう。

あまり無茶な事は出来ないな。



「ふん、勇者の癖に魔族など連れおって。 ワシの恨み、晴らさせて貰うぞ?」



こっちが黙ってると思って、好き放題言いやがって。

弱っちいとはいえ、こっちは仮にも魔王に単身辿り着いた勇者だぞ?

隣の魔王も、不穏な空気に臨戦態勢を整えつつある。

いや、お前が動くとこっちまで危険なので勘弁して下さい。


いい加減切れて反撃に出ようとした所で、奥の控えから人影が現れた。

町の娘だろうか。 剣をつきつけられ、怯えた表情をしている。

人質ということか。 これはマズいかもしれない。


蘇生させれば良いんだから、纏めてフッ飛ばせば? と思う人も多いだろう。

だが、蘇生呪文で蘇る為には、いくつか条件があるのだ。


一つ、寿命の尽きたものを蘇らせる事はできない。

一つ、対象は魔に触れたものでなければならない。

一つ、対象となるものの肉体が一部でも存在していなければならない。


元々が奇跡的な呪文であるから、それ程厳しい条件には思えないだろうが、今回はそれがネックとなる。

それは2番目、対象が魔に触れたものでなければならない、という条件だ。


魔に触れたとは、あまり知られていないが魔物が帯びる魔素に触れる必要がある、という意味である。

具体的に言えば、冒険者のように日常的に魔物と相対している者は当然魔素に触れていることになり蘇生の対象になる。

それに対し、たまたま襲ってきた魔物に殺された、という場合には蘇生の対象にならない。

なぜなら、条件を満たす程の魔素に触れていないからだ。

恐らくは、この魔素というものが蘇生になくてはならないものなんだろう。


まっぷたつ事件以降、オレの周りで死んだ人というのは魔王が近くにいた上、あまりに強い魔素を帯びる魔王の攻撃で倒れているからこそ蘇る事が出来たのである。

しかし、今人質となっている町娘とはかなり距離も離れているし、仮に魔王の攻撃で死んだとして蘇生の対象になれるか微妙だ。

それに事故ならともかく、この優しい魔王に自発的に殺させる訳にもいかないだろう。

そこまで計算しているわけでもないだろうが、悔しい事に王の人質作戦はオレにとって有効打となってしまっている。



「……何が望みだ。 言う事を聞いてやるから人質を放せ」



まさか人間が最大の敵になるとは思わなかった。

クソ、このままてめぇの思い通りにはさせないからな……




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☆今回の勇者

・死んでません、良く出来ました


累計死亡回数:19回


☆周辺の被害

・特になし、良く出来ました


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本日より携帯での投下です。

レイアウトが崩れてなければ良いのですが……


第五章はちょっぴりシリアス。

ほのぼのの間にたまにシリアスを織り交ぜて進めて行きたいと思います。


後、2000PV到達しました。

皆様、ご愛読ありがとうございます。

感想等もお待ちしておりますのでお気軽にどうぞ。


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