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第三章 村長の頼み(前編)


意外と棺おけの寝心地は悪くない。


それが、故郷の町で町民に袋叩きにされ、蘇生されて一番最初に思った感想だった。

目覚めたのは町の北側の森の中。

どうやら、魔王が棺おけを引きずってここまで連れて来てくれたようだ。



「……泣かないで?」



流石に、故郷の人々に殺されたという事実はオレにとっても辛いものだったのだろうか。

どうやら泣きそうな顔をしていたらしい。

そんな顔を見て、魔王も悲しげな表情をしていた。


……お前の、そんな悲しそうな顔は見たくないしな。

お礼の気持ちを込めて魔王の頭をナデナデしてやる。



旅支度もしていないのに魔物の出る森の中での野宿になるのは避けたい。

とりあえず、城下町から近い北の村へ向かうことにする。


移動呪文を使えば一瞬ではあるが、歩いて半日もかからないので散歩気分で歩いて向かうことにする。



「うわぁ、すっごい景色! きれーだね……」



森を抜けるとそこは一面の草原。 所々を草花が彩り、風に吹かれてサラサラと揺れている。

本日の天気は快晴。 かといって日差しが強いわけでもなく、穏やかな陽気の中を爽やかな風が吹き抜けていく。


思わず走り出した魔王を苦笑しながら追いかける。

オレにとってスライムと戯れながら歩いたこの道は懐かしくも見慣れた光景だったが、魔王にとってはそうでもないらしい。

まぁ、魔王城付近は草木すらまともじゃない荒れ果てた景色だし、なにより魔王も箱入りだしな。


しかし、さっきの森につくまでに十分周りは見ていただろうに。

城下町から先ほどの森まで、オレの足でも2時間はかかる。


もう見慣れたんじゃないのか? と隣に座りながら、草原に寝転がった魔王に聞いてみる。



「……ずっとうつむいて歩いてきたから」



少女が、上半身を起こしてはにかんだような笑顔を浮かべた。


ごめん、そしてありがとうな魔王。

一人ぼっちが寂しかったのか、オレが殺されて悲しかったのか。

それでも、町から離れるまで我慢して一人で逃げてきたのだ。

涙を堪えて、うつむいたままで。


そっと背中から魔王を抱きしめてやる。

耳まで真っ赤に染めて手をバタバタさせているのが可愛い。


て~て~て~~てれれ~! 

突然、甘い空気をどこからともかく聞こえてきた音楽が引き裂く。


魔物が現れた。

スライムとカラスの化け物。

クソ、邪魔しやがって。 こいつら殺す。


と、考えてみれば隣の魔王にとってはこいつらはお仲間みたいなもので。

殺したりしたら怒るんじゃないかなー? と隣の様子を見た。


怒ってる。

めちゃくちゃ怒ってる。

髪の毛まで逆立てて、本気で怒ってる。


魔王にとってよほどさっきの時間が大事だったのだろうか。

ブツブツと呟きながら、カラスの化け物を睨み付けている。

スライム? 逃げましたよ、とっくに。


ふと、辺りが急に暗くなったことに気付く。

……あの、せっかくのお天気が悪くなってきたんですが。

真っ黒な雲で覆われて所々雷が走ってるんですが。


もしかして、ブツブツ言ってたのは詠唱か!


気がついた時には遅く。



「死んじゃえ」



はい、死にました。



軽く伸びをして魔王の膝から起き上がりながら早速状況確認。

……思ったより被害が少ない。 周りが軽く焼け焦げてる程度で済んでいる。

そのかわり、カラスは骨すら残さず蒸発してしまったようだ。 魔王が食べたのでなければ。


おそらく、雷撃呪文の威力の殆どがカラスに集中したからだろう。

つまり、オレ余波で死亡。 どんだけあのカラスが憎かったんだよ。


とにかく、このままだと何回死ぬかわからないので村へ急ぐ。

涙目の魔王の手をギュッと握って早歩き。

単純なもので、手を握ったとたんに満面の笑顔を浮かべやがった。

……少し、ドキッとした。


途中おんぶしたりおんぶされたりしながら、4時間程で北の村へ到着。



北の村。

特に特産物もなく、何の特色もない至って普通の村。

幸いにして高い家屋もない為、まっぷたつ事件の影響もほとんど受けなかったようだ。

しかし……



「お願いします、勇者様! どうか、どうか魔物を!」



村に入った途端、周りを村民に囲まれて無理やり村長の家に連れてこられた。

昔いじめから逃げてスライム突付きをしていた頃、ここを拠点にしていたから顔を覚えられていたのだろう。


村長の用とはありきたりなもの。

魔王が倒れたにも拘らず、最近魔物が活発化しだした。

東の洞窟に魔物が住み着いて農産物を食い荒らすので退治してくれ、と。


いや、魔王倒れてないし。

アンタの目の前で出された農産物を食い荒らしてるし。 退治出来ないけど。


しかし、まっぷたつ事件のおかげで安易に「はい」と答える事の恐ろしさは痛感した。

ここは……だが、断る!



「お願いします、勇者様! どうか、どうか魔物を!」



定番の無限ループに入った。 諦めて「はい」と答えて宿屋へ向かう。


とりあえず荷物を置き、着替えたり消耗品の在庫を確認しながら、美味しい野菜を頂いて上機嫌な魔王に念のための確認をする。


……魔王として、魔物が勇者に殺されるのってどうなのか。

正直、今更の質問ではある。

逃げ足に定評があるとはいえ、オレが魔王に相対するまでに殺した魔物は少なくはない。

元々魔物に偏見もなく共存したいとオレが望んでいても、言葉が通じず襲ってくる魔物に手加減なんて出来なかった。



「別にいーよ? あんまり美味しくないけど」



軽い。

ものすごい軽い答えが返ってきた。


魔王曰く魔物というのは人間側の認識で、すごく大雑把なまとめ方らしい。

魔王やこの前のドラゴンのように知能が高く理性を持つ者、魔族。

大気に漂う何か(魔素、とか言うらしい)に汚染された獣、魔獣。

魔物側から見て、大きく分けてこの2種類があるそうだ。


で、魔族ならともかく魔獣は人間でいう猪とか熊だそうで。

言うことも聞かないし、害があるなら別に退治して問題ない、と。


だが、この会話で一つ分かったことがある。

きっと、コイツの主食は魔獣だったに違いない。



いくつか足りない消耗品をメモに箇条書きし、村の道具屋へ向かうことにする。

ついでに、武器も仕入れなければ。

流石に魔物退治へ伝説の剣(折れてる)を手に向かうわけにはいかない。

今回は魔王も着いて行きたがったので監視がてら店へ向かう。



「何か、手ごろな武器ある?」



道具屋兼武器屋にて、消耗品を品定めしつつ親父に聞いてみる。

まぁ、この辺りは魔物も強くないから、あまり期待はしていないが。


奥に入ってしばらくすると、親父が布に包まれた剣らしきものを持ち出してきた。

刃の部分は布のせいで見えないが、柄の拵えを見るになかなかの上物だと推測できる。

……しかし、どこかで見た記憶があるのだが……


まぁ、見れば思い出すだろうと手に取って布を解いてみた。


デカデカデカデカデカデカ デーデデン♪

重苦しい耳障りな音楽が流れた。 

出来れば二度と聞きたくはないが、しかし一度聞くと決して忘れられないような音楽。

……つまりこれは



「勇者はのろわれてしまったっ!」



魔王、お前が言うな。

見ると、布が地面に落ちおどろおどろしい刃と鍔を露にしている。

……見覚えがあるわけだ。 昔手に入れた呪いの剣だ。

なんとか手離そうとするも、現実問題として剣が手から離れない。 

「勇者はのろわれている!」とか「それを捨てるなんてとんでもない!」といった怪しい声が脳裏に響く。


笑い声に気付き顔を上げると、温和そうな顔だった親父が変貌していた。

糸のように細かった眼が、薄く開いてギラギラとこちらを見つめ。

ニッコリと曲線を描いていた唇は、片端を吊り上げたニヤニヤに変化し。

ついに我慢出来なくなったのかゲラゲラと爆笑しだした。


冗談ではすまないので問いただすと、さらにニヤニヤを増して語りはじめる。

犯人は、昔この呪いの剣をオレから買い取ったものの、呪われた装備など誰も買う者がおらず大損をしてしまったからやった、反省はしていない。 などと供述しており。

その剣を返して貰えないなら10万ゴールドを払えと要求してきた。


呪いの装備は手から離れず、教会で呪いを解けばボロボロになって消滅してしまう。

確かに、無傷で返すことは不可能に見える。

……しかし、この親父アホじゃねぇか?


呪われた武器だからといって、実際のところ普通に武器として使える。 たまに金縛りに逢うけど。

手に持ったままの呪いの剣を親父に向けながらそう言ってやると、笑みは崩れないものの親父の額から一筋の汗が流れた。


ふと気付くと、隣にいる魔王が純真な目でこちらを見つめている。

あまり悪い行動を見せると、魔王の成長に悪影響を及ぼすかもしれない。

……ここは一つ、大人の対応というものを見せてやろうじゃないか。



「そこの、鉄の剣を1本くれ」



親父はいぶかしげな顔をしたが、儲けになるならとひったくる勢いでこちらのゴールドを奪って鉄の剣を差し出してくる。

鉄の剣を受け取ると、呪いの剣を魔王に向けいきなり戦闘を仕掛けた。



「おおー! ついに勇者対魔王戦だね! 勇者よ、かかってくるがよいー!」



魔王が楽しそうに臨戦態勢を整える。

慌てて魔王にしばらく動かないようけん制する。

いきなり本気で襲い掛かってこようとするんじゃない、このポンコツ。


一息ついてから、親父の方を見てニッコリ微笑むと、空いた手で鉄の剣を握り締める。

……そして、呪いの剣が地面に落ちる。



「……は?」



何が起こったのかわからず、親父が固まってしまった。


説明しよう。

呪いの装備だが、それが武器だった場合に限り無傷で呪いを解く方法がある。

その条件とは、戦闘中に他の武器を装備する事。

……なんでそんな事になるのか、どっからどこまでが戦闘なのかとか、そういうのは精霊さまにでも聞いてくれ。 オレは知らん。


刃を包んでいた布で直接触らないように持つと、親父に返してやる。

さっきまでのニヤニヤはどうした、ん?

とりあえず購入した鉄の剣と買う予定だった消耗品をタダにして貰い手打ち、と持ち掛けようとして気付く。

……まだ、戦闘が終わっていない。



「しばらく待ったよ! それじゃいっくよー!」



このポンコツ、もういいんだよ!

来るな、頼むから……


その日、悪徳道具屋が一軒、村から消えた。

勇者と、店の親父と一緒に。




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☆今回の勇者

・2回死亡


死因:

・雷撃呪文の余波による感電死

・魔王の右ストレートの衝撃による全身複雑骨折


累計死亡回数:13回



☆周辺の被害

・草原に若干の焼け跡

・村長宅の野菜消滅

・道具屋崩壊

・道具屋の親父死亡(後に蘇生)


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