プロローグ
「世界の半分をお前にやろう!」
その瞬間、世界が揺れた。
激しい衝撃に魔王城の壁も崩れ、崩壊していく。
突如として訪れた浮遊感。
それが、オレの意識が失われる最後の瞬間に感じたものだった。
気がつくと、瓦礫の中で魔王に膝枕をされていた。
耳と尻尾が垂れ、申し訳なさそうな表情を浮かべる顔は涙と鼻水でグチャグチャになっている。
オレが目を覚ますと魔王がオレの胸に顔をうずめて泣きじゃくった。
鎧に鼻水がついて糸を引いている。 なんともシュールな。
「あのさ、何がどうなったんだ?」
泣きじゃくる魔王をなんとか落ち着かせて事情を聞きだすことにした。
どうやら、この世界はまっぷたつになってしまったらしい。
この馬鹿が、馬鹿正直にはんぶんこにしようと考えたからだ。
……冗談交じりで「はい」、と答えたのがまずかった。
世界のへそと呼ばれる洞窟のある辺り、世界の丁度半分のところで大地が裂け、その衝撃が世界中を襲った。
そして、世界を最大最悪の災害が襲い、今に至る、と。
「うん、そーだよ」
いや、そんなにあっさり頷かれても。
おそらく、世界中が今混乱の極みにあるだろう。
魔物とか人間とかそういう事を言っている場合じゃない。
ある意味、共存の道が開けたということになる。 良かった良かった。
って、良いわけねぇだろうが!
どこに本気で世界を滅亡させる魔王がいるんだよ!
世界を征服したいんじゃなかったのかよ!
「お前、馬鹿じゃないの!?」
世界をまっぷたつにする程の力を持つこの少女に、誰も説教などしたことがなかったのだろう。
軽く叱っただけで哀れなほどシュンとなり、泣きそうな顔でこちらの様子を伺っている。
……上目遣いにそんな潤んだ目をされると、その、ちょっとドキッとする。
「ごめんね……」
ちょっと可哀想に思い始めたが、目の前にいるのは世界を滅亡に追いやろうとしている犯人。
そしてこのオレはそうさせた元凶。
……あれ? これ、オレも共犯じゃね?
「……どうすんだコレ」
世界中に阿鼻叫喚の悲鳴が轟く中。
少女と二人、世界を救う旅が始まる。
世界の半分のついでに、この少女の罪も半分貰ってやろうじゃないか。
さて、これより勇者と魔王の旅が始まります。
本作は登場人物に名前はありません。 他の作品と毛色が違うと思いますが、たまにはこういうのがあってもいいじゃない。
最初の台詞でピンと来た方もいらっしゃるでしょうが、本作はあの有名RPGの世界観を参考にしていますのでご了承下さい。