怪奇事変 雨に現れる子供
第三十一怪 雨に現れる子供
その日は急な豪雨に見舞われた、急いでバス停の待合場にかけつけ、雨除けをする。
「ざけんなよ、雨降るとか、傘持ってねーし」
前が見えない程の豪雨、雨が地面を弾き折角雨除けに使っても、下半身はずぶ濡れ状態になっているほどの勢いだった。
そんな時に見違えか、何か見えたような気がする。
その場所を注意深く見るも、何も見えない、やはり見間違いかと思い椅子に腰をかけようとした瞬間、真横から気配を感じた。
「うぉ!?」
そこには小さな傘を差した童顔の少女が立っていた。
子供…小学生の下級生ぐらいの子だろうか、黙って雨を眺めているだけだ。
「……」
こう言う時、どう言った声をかければ良いかわからず黙ってしまう。
驚いた声は聞こえていたはずだがこの豪雨だ、恐らく雨の音でかき消され情けない声は掻き消えたのだろう。
「……」
ただそこを茫然と立ち尽くしている少女の目は何処か虚ろだった…様に見えた。
何を見ているのか豪雨の方向を見るもそこには何もない。
ただ雨が強くコンクリートは打ち付けているだけ、相変わらず憎い程、雨飛沫はズボンを濡らしてくる。
「……あれ?」
ふと横を見たが、先ほどの少女が消えていたのだ。
まさか、この豪雨の中行ってしまったのだろうか?
霧のように見えない程の景色なのに、危険すぎると自分も豪雨の中進もうとすると、雨の勢いが徐々に弱くなっていっていた。
「あれ?なんだよ、雨が…弱く……」
雨の勢いは弱くなって行き、そしてやがて晴れて行った。
所謂、ゲリラ豪雨と言うやつだったのかもしれない。
「あ、アイツは……」
探すも流石に見つからないだろう。
見失ってからそこまで時間が経っていなから近くに居ると思っていたが、どこにもいない。
雨の強さで水底が出来てるかもしれないと言う可能性もあったから助けようと思ったが、奇遇だったようだ。
「つうか、さっきから何やってんだ、俺……」
ずぶ濡れんにった制服を見ながら途方に暮れつつも帰路に着く。
こんな日もあるだろうと…。
だが少年は気づかなかった、背後に居る少女の姿に。
蜃気楼のように消える様すら確認することができずに……。
「ッざけんな!またゲリラじゃねーか!!」
再びまた大雨に見舞われる少年はいつものバス停の場所まで来て雨宿りをする。
ゲリラ豪雨、2週間前にもあったばかりか、まだ梅雨の時期でもないのに一定の地域ではこう言った豪雨があるらしい。
世にも奇妙な話ではあるがそれは事実でニュースにも取り上げられているぐらいだ。
「……スマホ、はぁ…濡れてる……」
拭くもの自体が濡れているため、画面さえ拭うことができない。
この雨が早く止まないかともどかしい気持ちを抱えていると真横から気配がした。
その方向に振り向くと、2週間前にあったあの少女だった。
「うぉ!?」
2週間前と同じ反応、だが少女は虚ろな目で前を——いや、虚空を見つめているような感じだった。
何を見ているのかまでは不明だが、興味本位で声をかけたくなった。
学年的には恐らく小学生と高校生、あまり良くなシチュエーションで誤解されやすいかもしれないが、興味の方が勝り穂も良きって声をかける。
「おい!…じゃなくて、なぁ!何見てんだ?」
「……」
「おい、俺はお前に——」
声をかけていると近づこうとした瞬間、ゆっくりと指を指す。
それは豪雨で見えない景色の向こう側なんだろうと分かる。
「何か…あるのか?」
「——雨の神様が怒ってる——」
そこでようやく声を出した少女は、開幕何とも非現実的な話を言うのだった。
雨の神様…そのようなモノは存在しない、大人になっていけば色々と分かっていくことだ。
幼い頃は沢山色んな想像と夢を見て育つが、次第に大人になって行くにつれて現実を見る様に仕向けるのがこの世界のルールのようなもの。
だから現実を教えてやる!…とは言えず、合わせることにした。
「雨の神様ね…なんで怒ってるの?」
「——人、沢山世界、汚したって」
「環境汚染的な?まぁそりゃ怒るか……」
現実最近は伐採からゴミやら色々ニュースで飛び交ってるぐらいだ。
海に捨てられたゴミの数、魚が口に含んだ餌の中には微量なプラスチックが含まれており、俺達はそれを更に食している訳で、実際身体の中はプラスチックが含まれているとまで言われている。
「雨神様!どうか!愚かなこの私達、人間を代表して謝罪します!どうか怒りを沈めてください!」
馬鹿みたいな演技でその場にひれ伏す形で叩きつける豪雨に謝罪する。
勿論彼には何の気持ちも籠ってはおらず馬鹿芝居を続けているだけだ。
ただこの暇な状況下と子供と言う組み合わせが、彼をそう行動させただけにすぎない。
子供に居心地の悪い兄貴と一緒に居ると思われなかっただけかもしれないが、場は当然——冷めていた。
「なに…してるの?」
「いや、こう言えば雨が収まるかな~っと……」
「納まる訳ない、自分の言いたい言い分を勝手に言ってるだけ。やってることは同じ」
環境汚染のことだろう、つまり言葉もでまかせだと言われて少し気分を害する。
「仕方ないだろ?こんな立て続けに豪雨振られたら、神頼みだってしたくなる」
「……でも雨はやまない」
「だな。暇つぶしに何か面白いモノでもアレば良かったんだけど」
「面白い?」
「……トランプとか?」
「濡れてダメになる」
「だな。あ~あ、暇だ」
退屈で勢いよく椅子に腰をかける。
少女は先ほどから遠くを見てるだけで微動だにしない、石造かっと言いたくなるぐらい。
だがそこでようやく少女の口から声がかかる。
「お兄さんは怖い話、なにか知ってる?」
「怖い?」
「雨に関することで」
雨に関する怖い話…海坊主はまた違う話だしな、土地神様の怒り……は無理やりすぎるか。
結局頭を捻っては見たが答えは出ずに首を振って知らないとジェスチャーすると少女は淡々と語りだした。
「雨降小僧って話……中骨を抜いた和傘を被った男の子、雨を降らせて、困った人間の姿を見て、喜ぶ」
「……陰気な奴だな」
「悪戯好き、でもお仕置きダメ、傘持って行こうとすると、一生取れなくなる」
「被ってる和傘か、そりゃ生活に困りそうだ……お仕置きは別の方法で考えないとな」
「でも何もしない、ただそこに居るだけ」
「……無害、なのか?」
「わかんない、でも——怖い話も聞く」
生唾が飲み込む。
正直こんなところで聞く話ではないのではないかっと言うぐらい。
「雨降小僧って呼ばれてるけど、みんな雨男とか雨女って呼んでる」
「現代の雨男はあんまりいい呼び名じゃないが、言われてる奴は良くいるな、この雨男~って」
こんなもので笑いを取れるつもりはないが、せめて場の雰囲気だけでも和まないかなと悪ふざけのノリで言ったものの、無反応。
逆にそれが怖い。
と言うよりも先ほどから誰に話かけているのだろうか?っと言うような向きだ。
ずっと1人で語り手を行っている様にしか見えない。
その状態が恐怖を招くのだ、こんな小さな子がなんでそんな怖い話を知っているのかって。
「雨男も雨女も雨を降らせるのが仕事、昔は食べ物育たなかった」
「飢餓…作物が育たなくて…なるほど、神頼みたいに崇拝されてたのか」
「うん」
だが表情が曇っていく少女を見て背筋が一瞬、冷やりと凍てついたように感じた。
「でも、人間、ずっと悪かった、貪欲で、無理やり神様に雨、降らせろって言った」
何となくオチは分かってきた。
雨を降らせる力が実在したとして、その先はもう——
「大きな津波来て、集落、無くなった。罰当たった」
「……」
森林伐採、環境汚染、いつだって人間は貪欲で身勝手っだ。
今話してる雨男ならぬ雨降小僧の話もきっとそう言うものなのだろう。
人の豪が欲を満たして破滅をもたらした……よくある話だ。
そんな話を細かく詳細に語っているのが、絵物語、今でいう漫画やアニメに通ずるのだろう。
「でもそれだけじゃ雨神様、許してくれなかった、時代に邪気——纏う様になった」
「は?」
邪気を纏う?なんの話だ??これでお終いではないのか??
「邪気纏った神様——荒神になって、神様の地位、落とされた」
「……落としたら、どうなった」
ゆっくりこちらを見る少女の肌は、青白くなっていた。
その視線も虚空を見つめて居る様で、とても不気味だった。
「雨降小僧になって、子供、攫う様になった、特に、雨女は多い」
「……攫われた子は…どうなった」
「どうなったと思う?」
質問を質問で返されてしまった。
だが先ほどから様子が変だ。
まるで……少女ではなく、何か別の者と対話しているような感覚を受ける。
青白い肌、虚空の瞳、少し口元がにやけたような笑み、これを表現するなら——憑りつかれているような感じだ。
実際に憑かれている人間を見たこと無いから例えの表現しかできないが、今とても背筋が凍るような思いをした。
「もう……辞めよう、この話」
余りに不気味過ぎでこの話を打ち切っろうとした瞬間、冷たい手が腕を掴む。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
「お兄さん暖かいね~、子供は一体何歳までの子供を連れ去ると思う?」
「し、知るかよ!は、放せ!!」
だがとんでもない力で掴まれてしまって、手形が残るほどの強さだった。
逃げられないと直感で判断した時、がむしゃらに暴れた。
そして偶然、眉間に肘が当たってしまったのか、態勢を崩す少女を見下ろし、鞄を持ってそのままその場から立ち去ろうとした——はずだった。
「うわぁ!?」
マンホールではない、グレーチングの蓋が開いてしまって、その中にハマってしまったのだ。
溺れそうに藻掻く自分を今度を少女が見下ろす。
先ほど肘が当たった眉間には少し傷ができており、痛々しそうだったが、それどころではない!
「(お、ぼれ、る…ッ!!)」
何故自分がこんな目に?と思うも、知らず知らず少女の逆鱗か?それとも雨神様の逆鱗に触れるようなことをしてしまったのだろう。
涙が滲み出るも必死に藻掻く姿を見て少女は——笑っていた。
唐突に起きた出来事、対処しきれない事態、そうだ…豪雨の中でも走って帰っていればこんな事にはならずに済んだのだ。
いつだって死に関連する出来事は唐突で、理不尽なものばかりだと…テレビの向こう側で思っていた。
なのに、まさか自分がそうなるなんて、思っても居なかった。
この豪雨だ、きっと自分の証言など誰一人信じてくれないと思いながら情けなくも漏らしてしまう。
「頑張って、頑張って、頑張って、頑張って」
そう続ける少女は面白そうに足で水を掛けて呼吸をさせないようにする。
恐怖が倍増し誰でも良いから助けてくれ!っと目を瞑った瞬間、徐々に雨が止んできた。
「あれ?」
不思議そうにしている少女、だがその隙を少年は見逃さなかった。
落ちたグレーチングから勢いよく身を乗り出して、ずぶ濡れになりながら脇目も降らずに走る!
「(一体なんなんだ、クソ!どうしてこんな目に!!)」
「あ、お兄ちゃん、忘れ物」
その後、無事に帰宅できたが荷物を忘れてしまい、家族も自分の姿を見て驚愕していた。
直ぐには風呂にはいけなかったが、シャワーで汚れを洗い落として今は布団に包まっている。
「(雨降坊主——雨男と雨女……アイツ、雨女?)」
混乱する、荷物はきっとアイツがやったとしたら交番には届けてないだろう。
雨が降っていない時に、取りに戻るしかない。
その後は何事もなく過ごせた。
バス停に戻る際は恐怖で足が竦んだが、気合でなんとか此処まできたものの、雨も降る事なく、荷物はバス停の傍に置きっぱなしになっていた。
中身はずぶ濡れになっており、財布は当然スラれていたが、そんなことはどうでも良い。
一刻も早く、この場から立ち去りたい気持ちで鞄を背負いその場を後にしようと瞬間——目の前を見て驚愕した。
「お兄ちゃん、こんにちは~」
「……ああ」
恐怖は始まりに過ぎない——絶望はその先にある。
まだ恐怖と言う入口に立ったにすぎず、絶望を見ていない少年には、この物語の続きがあったのだ。
そして残念ながら、翌日のニュースに少年は乗ることとなる。
死因は溺死。
その日、類を見ない豪雨が一部の地域で降りだし、不運にも少年は水圧で空いてしまったグレーチングの溝にハマってしまい、その中で溺死しているところを通行人に発見される。
通行人の知らせをしたのは——幼い少女だったと言う。
第三十一怪 雨女
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