マリンスノウ
殆ど散文詩に近いのではないでしょうか。作中に意味の分からない箇所が多くて、すみません。
夢が叶った、と言って良いのだろうか。
私は今静かに横たわっている。夜闇よりも暗い、海の底で。
水のひやりとした感触が頬を撫ぜる。こぽ、こぽ、と聞こえてくる水の音が実に心地良い。地上に、此処まで何事にも囚われない空間があっただろうか。私の胸は躍った。
然し。海の底の水圧は、私の身体だけでなく心までも押し潰す。哀しみが増え、鄙びてしまった心で、私はこうなってしまった事にすこし後悔をした。これから私は海の底で沈んでいたい、という浅はかな夢を抱いて眠るのだ。
果ての見えない天井から降ってくる、白い欠片がゆっくりと積もってゆく。私以外には誰も居ない、この殺風景な大地に。
マリンスノウ。
此れが地上の雪に似ているのか、地上の雪が此れに似ているのか。誰が付けた名かは知らないが、私は一種の倒錯の様なものを感じた。
___地上のひとは、海のことを母と言い、全ての還る場所だと言う。
実際のところ、そうであって、そうではないのかもしれない。
雪は私に覆いかぶさる様にして降ってくる。まるで幼い時分から使っていた毛布のように、それはゆっくりと優しく私を包み込む。
然し、それと同時に雪は私をこの世界から引き剥がしてゆく。視界が次第に白で覆われてゆくのだ。言い様のない恐怖。絶望感。それ等がゆっくりと私を包み込んでゆく。
全てを受け入れ、拒絶する。全てを生み出し、取り込む。其れが海なのだ。
視界は何時の間にか、ある一点を残して全て白で覆われていた。脳裏にふと一抹の思いが過る。
実に下らないことだ。地上のひとから為れば実に滑稽な話かもしれない。然し、此れは私が私であった最期の思いとなるだろう。私はもう、此の海に溶けてなくなってしまうのだ。それが実に恐ろしい。だからこそ、此の思いを此処に綴っておこう。
誰も居ない処で朽ち果てること程、虚しく、淋しいものはない、と。
"終わり"が始まってから後悔するのは、一等意味の無いことなのだから。
私は海の底には沈みたく無いなぁ…