勇者一行全滅事案に係(かか)わる実地調査報告書
内部機密資料:事案第402号(クレイユ遺構)に関する調査要旨
作成: 特殊災害対策局・実地調査班
日付: 2026年03月26日
概要: 勇者パーティを自称する集団の「全滅」に伴う、現地生存者及び収容個体への聞き取り調査結果。
1. 現地協力者(村人A)の供述要旨
対象の状態: 重度の認知混濁。外傷なし。
供述内容: 当該パーティの来訪を「日常的な事象」として受容。勇者に対し、村のインフラ整備(井戸清掃等)を依頼したと主張。
特記事項: 勇者が「村の子供が全員、自身が前日に殺害した魔物と同一の顔をしている」と指摘した際、対象は「当村では50年以上出生届が出ていない」と回答。この直後、パーティ内に著しい精神的動揺が観察された。
2. 収容個体(呼称:側近)の尋問記録
対象の状態: 魔王城内にて拘束。肉体的損壊は激しいが、意識は明晰。
供述内容: 全滅の主因は物理的戦闘ではなく、城門に設置された「自己認識鏡」による精神汚染であると供述。
観察結果: 勇者一行は鏡を視認後、即座に相互殺害を開始。最終生存者は自身の心臓を摘出し、玉座へ捧げるという異常行動を確認。対象はこれを「理想的な資源回収」と表現している。
3. 現場残留音響の解析(魔王とされる存在の記録)
記録場所: 城内最奥部。
音声要旨: 「死体は資源である」との主張。勇者等の骨肉は城の石畳の補修材として、精神は周辺村落の住民人格の「上書き用データ」として再利用されていることが判明。
分析: 当該地域全体が、勇者の「生成・絶望・解体」を繰り返す閉鎖的循環システム(箱庭)として機能している可能性が高い。
4. 調査員による最終報告および警告
現場遺留品: 村の井戸より、過去の「全滅」回数と一致する数の「銀の指輪」を回収。
二次被害の懸念: 本報告書の閲覧者は、システムの構成員として自動的に登録されるリスクがある。
現状報告: 閲覧中のあなたの手元に、未登録の銀の指輪が出現していないか確認せよ。
最終指示: 視界の隅に「先代勇者」の残滓が確認された場合、即座に全感覚を遮断すること。既に背後に気配を感じる場合、当局による救済は不可能である。
[記録終了]
5. 現場遺留品および不審な証拠物件リスト(管理番号:ク-702)
本事案の発生現場(魔王城最下層および近隣のクレイユ村井戸底部)より回収された遺留品の目録である。これらはすべて、物理的な損傷ではなく「概念的な変質」を遂げている。
物件No.01:聖女の祈祷書
状態: 外装は清廉な白革だが、中身の全200ページが「助けて」という一文字のみで埋め尽くされている。筆跡解析の結果、勇者、戦士、魔術師、そして聖女本人の血痕で書かれたものと判明。
物件No.02:勇者の折れた銀剣
状態: 刃の部分が異常に摩耗。解析により、硬い魔物の皮膚を斬ったのではなく、村の広場にある石畳を「何かを探して」数昼夜にわたり掘り起こし続けた跡と推測される。
物件No.03:住民構成記録(村の戸籍)
状態: 村役場の地下より回収。記載されている過去100年分の全住民の氏名が、歴代の「勇者パーティ」のメンバー名と完全に一致。住民たちは、死ぬたびに役割を「村人」へと書き換えられている可能性が高い。
物件No.04:識別不能な「銀の指輪」群
数量: 4,412個(現在も井戸の底部で増殖中との報告あり)。
特記事項: すべての指輪の内側に、微細な文字で「次は、あなた」と刻印されている。
6. 調査担当官による緊急所見
本件の最も不可解な点は、回収された指輪の総数が、公式に記録されている歴代勇者の人数を「一名」上回っていることである。
[以上、本件に関する全記録を凍結する]




