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第四太子の教育係  作者: 巻村 螢
第一章:え、嫌なんですけど……

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この、アホ殿下!

 窓から射し込む淡い陽光を背負い、窓台に座る男は息をのむほどに美しかった。

 片足を窓台に乗せて座るという横柄な格好のはずなのだが、彼の場合、一枚の画のようで気品すら漂ってくる。

 結いもせず垂らしたままの髪は、一般的な男の髪よりも随分と短く、肩口までしかない。

 吊り上がった眉と垂れた目尻という、相反する目元の造作は妙な色気があり、手で雑に掻き上げられた前髪の隙間から向けられた灰色の瞳に、小琳は思わずたじろいでしまった。

 

この姿には、女官達が国宝級の美貌だと噂するのもわかる。

 小琳は、第四太子の前まで進み出ると拱手を仰ぐ。


「四殿下に拝謁いたします。内文学館で女史長を務めております、小琳と申します」

「俺相手に礼なんて必要ないよ。顔あげなよ」


 彼の自嘲まじりの言葉が気になったが、小琳は大人しく顔を上げた。


「知ってるとは思うけど、俺がここ西湖宮の主で、第四太子の成嵐(せいらん)だ」


 へらり、と気の抜けたような笑みを向けられ、小琳の警戒も少し和らぐ。


「悪いね。女史長なんてただでさえ忙しいだろうに、俺の教育係もだなんて」

「い、いえ」


『あれ?』と、小琳は内心で首を傾げた。

 呆子殿下と呼ばれるような者から、まさかこちらを気遣う言葉が出て来るとは、予想していなかったのだ。もっと横柄で、『女に教わることなんてないね』くらい言われるかと思っていたのだが。


(『子公冶長を謂わく、妻わすべきなり』ってね。所詮、噂は噂でしかなかったってことか……良かった)

 これならば、思ったよりこちらの負担は少なそうだ、と小琳は安堵を覚えたのだが。


「それじゃ、クビね。はい、さようなら~」

「…………はい?」


 気遣いの言葉を掛けた時と同じ顔で、なんの前触れもなく拒絶を言い渡された。

 急転直下というのは、まさしくこの状況を言うのだろう。

 彼は未だへらへらと意図の読めない、柔らかいだけの笑みを浮かべてこちらを眺めている。

 部屋の隅では、慈于が頭を抱えて膝から崩れ落ちていた。


(なるほど、呆子殿下……)


 噂も時には当てになるらしい。



明日は昼と夜に上げます。

面白そうだ、このアホ殿下どうなるんだろう、と思ったらブクマしていただけると嬉しいです

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