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第四太子の教育係  作者: 巻村 螢
第四章 毒を盛った者をさがせ

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空から降ってきたんだよ

 屋敷の中には、本来拘禁されている成嵐の他に、しっかりと身体を縛られたボロボロの内侍官までいたものだから、御史も叫ばずにはいられなかったのだろう。


「これ、柳史兄上に毒を盛った犯人」

「なんで!?」


 驚きのほうが大きく、御史は太子相手だというのに、すっかり言葉選びを忘れている。

 椅子に座る成嵐の傍らで、縛られたまま正座する内侍官は、成嵐のあっけらかんとした表情に対して、青い顔で震えていた。


「四殿下は、ど、どのようにして犯人を捕まえられて……その、拘禁されていましたよね?」


 当然の疑問を口にする御史に、成嵐は『呆子殿下』の所以をあらわすようなへらっとした笑みを浮かべ、「空から降ってきたんだよ」と答えた。


 結局、門兵に聞いても、「自分はここにずっといた」と言うだけで何もわからなかったが、内侍官が毒物を所持していたことで成嵐の言葉にも信憑性がでてきて、取り調べをする御史台も、判決を下す大理寺もてんやわんやとなった。


 すぐに犯人の内侍官を牢へと隔離し、取り調べがはじめられたのだが、彼は何も言うことなく、翌日、牢の中で冷たくなって発見された。


 死因は、毒だった。

 御史に捕らえられた時、彼が持っていた毒とされる丸薬はすべて没収されていたのだが、どうやらその前に飲んでいたようだ。


 御史台が証拠品として押収していた丸薬を調べた峨楽が、烏頭と河豚毒を使用した特殊な毒であり、皇太子に使われたものと同じだと証言した。

 峨楽は、この丸薬を遅効性の毒ではあるが、本来遅効性を持つ毒とは別の発症をする、混合毒だと説明した。


 本来の遅効性というのは、少しずつ毒が身体を蝕み、初期でも多少なりの不調が出るものだが、今回の混合毒は烏頭と河豚毒という強毒であるのに、ある一定時間を過ぎるまでは無症状であり、時間が経過すると途端に強毒が発症するというものであった。


 皇太子が一命を取り留めたのは、第四太子の応急処置があったことと、元より混合されていた毒物の量が少なかったのだろうと推察された。

 これにより、皇太子が異常を訴えた時に傍にいたから、という理由で犯人とされ拘禁されていた成嵐の罪は晴れた。


 そして、毒を所持していた内侍官こそが真犯人だったと、判決がくだった。

 亡くなった犯人は、この先を悲嘆して自殺したのだろうと結論づけられた。


 未遂とはいえ、皇太子を毒殺しようとしたのだ。

 死刑は当然のこととして、凌遅刑が下される見方が強かった。凌遅刑とは、字のごとく長く苦しめながら処する刑である。たとえば、少しずつ肉を削いだり、火責めをしたりと中々死ねないが故に苦しい処罰だった。確かに、それならば、ひと思いに毒で死んだ方がマシと思うのも仕方ないかもしれない。




        ◆




 成嵐が拘禁されていた屋敷から出る際、門兵は青い顔して頭を下げていた。


「あ、あの……っ、自分は……」


 彼の肩をポンと軽く叩き、成嵐はできた上司のように柔らかな表情で頷く。


「ああ、大丈夫。君は一度たりとも持ち場を離れちゃいないよ」


 ほっとしたように頭を上げた門兵の耳元に、成嵐はツイと顔を近付けた。


「……君の意識がある時は、だけどね」


 囁くような声音で、しかしそこには脅迫とも思えるような圧が潜んでおり、門兵はぶるっと身体を小さく震わせた。

 門兵が役目を放棄していた時間があるとなれば、処罰ものだろう。成嵐としても、拘禁中に抜け出していたなどと言われては困る。


「お互い、何もなかったんだ。だろ?」

「も、もちろんですっ」


 再び門兵の肩を二度叩いて立ち去る成嵐の後ろで、門兵は眉をひそめて「あれが、本当に呆子殿下か」と唸っていた。




        ◆




 成嵐が数日ぶりの西湖宮へと戻ると、執務机を拭き掃除中だった慈于が、目を見開いてしばし石像のように固まっていた。

 そして、ドバッと双眸から涙を滝のように流すと、成嵐の胸に勢いよく駆け込んでだ。


「成嵐様のばがぁぁぁ! どうじでもっど注意じないんでずが! なに、濡れ衣被せられてんでずが! どんだけ僕が心配じだど……っ」


 成嵐の胸元を破れんばかりに引っ張りながら、慈于は肌触りの良さそうなその袍で、涙と鼻水を容赦なく拭っていた。


「はは、ごめんごめん。本当、油断してたよ。まさか、自分なんか眼中にないだろって思ってたから、俺も驚いたよ」


 成嵐は眉を垂らした困ったような、それでいて少しばかり嬉しそうな顔で、慈于の頭をポンポンと撫でていた。

 慈于のほうが成嵐よりも年上なのに、すっかり逆転して見える。


「ぼっ、僕がこの数日間、どんな気持ちでひとりで西湖宮にいたか、思い知ってくださいよ!」


「悪かったよ」と恩情のある目で慈于を見ていた成嵐だったが、「ずびぃぃぃぃ」と、慈于が遠慮なく袍で鼻水をかんだ時には、さすがに目から恩情も消えていた。

「はい、終わり」

「痛いっ!」


 先程までの柔らかさが嘘のように、成嵐は温度のなくなった声で、慈于の頭を鷲づかみして袍から雑に引き剥がしていた。よっぽど、最後の鼻水が嫌だったのだろう。

 確かに、彼の胸元は今べちょべちょに輝いている。


「小女史」


『あの袍を洗濯する女官が可哀想だな』と、成嵐の胸元を眺めていたら、当の本人から名を呼ばれ、小琳の視線も上がる。

 改めて彼と目が合えば、胸にくすぐったい気持ちがわいてくる。


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