ハレンチィ!!!
しかし、彼のニコニコとした邪気のない笑顔を見れば、含まれた意味は後者なのかもしれない。
「とりあえず、ありがとうございます」
小琳の中で慈于は、無邪気な無神経内侍官という位置に置かれた。
西湖宮の門扉を叩いた小琳は慈于と共に、噂の第四太子が待つ部屋へと向かっていた。
「先程、女史長を寄越してくれるとはと感激されていましたが、正直、女史ではなく学士のほうが四殿下にはよろしいのでは?」
外朝にも後宮の内文学館と似たような機関で、翰林院というものがある。
皇帝直属機関であり、起草文書や勅書の作成など皇帝の頭脳処であり、学問の研究も行っているところだ。純粋な教育機関とは少々異なるが、翰林院に属する者――学士は皆、相応の知識を有している。
内文学館の女史や自分が、翰林院の学士に劣っているとは思わないが、担う役割や必要な知識はやはり違うだろう。将来的に皇帝の弟として国政を補佐していく第四太子であれば、内政に直接絡んでいる学士からのほうが、より実践的な教育を受けられるのではと思うのだが。
それに、男である太子に、どこの骨ともしれぬ女人を近づけたがる側近はいないはずだ。
ただでさえ、将来性の乏しい太子とみられているのだ。そんな中、有力家の令嬢ならまだしも、そこら辺の十把一絡げのような田舎出の女官に手を出して子でもできた日には、お先真っ暗の阿鼻叫喚ものだろう。
ということを慈于に問いかけたら、彼はなぜか「あーそれはー」と、実に歯切れの悪い相槌を打っていた。
「ああ、もしかしてさっきあれ程喜ばれたのは、やってきた私が年増だったからですか?」
「いやっ、そうではなくて……!」
それなら納得だ。
若い女史ではなく、すっかり行き遅れが来てくれて第四太子の食指も動かないだろう、といったところか。
「腹立ちますね」
「自分で言って勝手に怒らないでくださいよ。理不尽な」
「理不尽は女の専売特許ですから」
「女人の辞書を開かないでください」
慈于は口角を引きつらせていた。
しかし、こちらが質問した内容を思い出したようで、視線を宙に放ると、胸を大きく膨らませて盛大なため息を吐いた。
そして、観念したように口を開いた。
「実は、成嵐様はりゅ――」
「――っひどい! もうお婿に行けないぃ! 破廉恥ぃ!」
その時、前方にある部屋の扉がバタンッと騒がしい音を立てて、勢いよく開いた。そして、中から飛び出してきた青年のなんとも言えない叫びが、慈于の声を遮った。
ハレンチィ!!!




