この自意識過剰兄弟め
(というか、それって『自分は選ばれるような人物だ』って言ってるようなもんじゃないか?)
そういえば、成嵐も初対面の時、自分の顔が好きなのかとかなんとか言っていた記憶がある。この自意識過剰さは、もしかすると血なのかもしれない。
「だったら、なぜ上級女官が後宮ではなく太子園の、しかもこんな薄暗い場所にいる。どうせ父上には相手にされないからと、俺の情けでも請いに来たんだろう。それとも……誰かに命令されてきたのか……俺を見張れと」
ピリッと、空気が毛羽立った。
(命令? 見張る? な、何のこと?)
「ち、違いますっ。探し物をしていただけですから」
これ以上勘違いを加速させられたら困るという感情が溢れて、やや語気が強くなってしまった。
祥江は、小琳の探し物という言葉に興味を持ったのか、「探し物?」と首を傾げた。そして、辺りを見回すと、小琳の後ろの地面にあるものに気付いたようだ。
「探し物ってのは……その地面に転がっている畜生共の骸のことか」
たちまち目が細められ、彼が腰に佩いた剣を思わせる鋭利な光りが、瞳をよぎった。
次の瞬間には斬られても不思議ではない殺気を向けられ、小琳の身体は硬直した。
せっかく距離をとっていたというのに、彼の大きな身体の前では無意味で、一歩で距離を詰められ、右手を掴まれてしまった。
「痛――っ」
手加減を知らないのか、掴まれた手首が悲鳴上げる。
「あんなものを探してどうするつもりだ。何をしようとしていた」
襦裙の内側で膝が震えていた。向けられる目が恐ろしくて俯いてしまう。
膝の震えは全身へとまわり、このままでは足がもたない、と思った時だった。
「失礼、兄上」
聞き知った声が、するりと小琳と祥江の間に入ってきた。
伏せた視界の中にあったのは、自分の手首を掴む祥江の太い手と、その手首を掴む大きく筋張った第三者の手。
パッと小琳の顔が上がった。
「し……四殿下……」
そこにいたのは、いつもの通り、何を考えているかわからない微笑を浮かべた成嵐だった。
「祥江兄上、手をお離しください」
「よう、成嵐じゃないか。久しいな」
片口を深くつり上げた人を食ったような顔で、気安い挨拶を口にする祥江だが、成嵐は挨拶には取り合わず、「兄上」と念を押すように再度呼ぶ。
少しの間があって、祥江の手はゆっくりと小琳の手首を放した。
急いで手首を自分の方へと引き戻し、小琳は左手でジンジンと痛む手首を押さえる。目の前では、似ていない兄弟が互いに微笑顔を突き合わせていた。
微笑んでいるというのに、辺りに立ちこめる空気は、まったく笑えたものではない。冷え冷えとした空気に、冬はまだだというのに身体を抱き締めたくなった。
チラと祥江が小琳へと視線を向け、そして「へえ」と顎を上げて、やに下がった笑みを浮かべた。
「なるほど。その女官は、お前が連れ込んで遊んでいる女だったか」




