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第四太子の教育係  作者: 巻村 螢
第二章 獣の不審死の謎を解け

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26/32

はは、お前の義母になってやろうか

「いや、まだいい」

「まだ……ですか」


 よっぽど彼は、第三太子に近寄りたくないらしい。

 きっと、この『まだ』は明日になっても続くのだろう。


「それにしても、掃除女官ですか。随分と懐かしい記憶で、どういった掃除をするかすっかり忘れていました」


 後宮に入ったばかりの女官は、まず雑用――掃除、洗濯、給仕のどれかに割り振られる。

 小琳は女官となって最初の三年を、掃除女官として過ごした。


(あの頃は、(ほうき)片手にあちこち走り回ったっけ)


 そして、立派に掃除の手の抜き方も覚えたものだ。

 後宮の広々とした土地すべてを真面目に隅々まで掃除していたら、とても時間内に終わらない。通路から目につく範囲だけ全力で掃除し、影になっている部分や人が立ち入らない場所は、掃除にすら入らないこともあった。


 それに、箒を手にして後宮内を歩いていると、偶然通りかかった妃嬪によく「うちの宮も掃除しといて」と言われるのだ。各妃嬪の宮には担当女官がいて、掃除もその担当女官が行うのだが、妃嬪達は掃除されているか否かに関わらず、箒を見たら反射的に命じてしまうものらしい。

 担当女官でもないのに、様々な宮の庭掃除までしたものだ。


(まあ、おかげで妃嬪達の色んな事情を、垣間見ることができたんだけど)


 宮の中は担当女官ではないため、妃嬪の許しなく入ることは許されないのだが、一度、同僚が誤って勝手に宮の中まで掃除してしまい、罰を受ける羽目になった。

 後宮には様々なところに落とし穴があり、うっかりしていると痛い目を見るのだ。


「なあ、なんで後宮に入ろうと思ったんだよ」


 不意に、隣から掛けられた声に、小琳の意識が過去から現在へと引き戻される。

 そうだった。今は獣の死骸を探している途中だった。


「まさか、妃嬪になろうとしてたんじゃ……」


 隣を見やれば、瞼を重くした目で見下ろされていた。

『無謀な』という心の声が、ひしひしと伝わってくる。


「はは、四殿下に弟君でもつくってさしあげましょうか。過去には、女官から皇后まで昇りつめた者もいますからね。職業柄、(ねや)で役立つような薬を手にすることもありますし、使い方は誰よりも心得ておりますし、なんといっても私の閨教育は評判が良いですからね。私が四殿下の義母になるのも時間の問題かと。こんにちは、阿郎(息子ちゃん)


 それこそ、母親のような柔らかな笑顔を浮かべ、ツラツラとひと息に述べた小琳だが、目はまったく笑っていない。


「わ、悪かったって」


 これには、成嵐も顔を引きつらせ、素直に謝罪していた。


「とはいえ、そういったことには興味ないので、ご安心を」

「だったら、なんで後宮に入ったんだよ。入ってくる奴の目的って、金か権力かのどっちかだろ」

「そんな極端な」


 とは言いつつも、確かにその二つが大抵の理由だろうなとは思う。


面白い、続きが読みたいと思ってくだされば、ブクマや下部から★をつけていただけるととても嬉しいです。

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