この、秘密主義め
ついに堂々と拒否宣言ときたか。
師を前にして、実に良い度胸だ。いや、こういったのは無謀と言うのか。
「嫌といわれて、私が大人しく引き下がると思いますか」
右手を伸ばしながらゆらゆらと近付いてくる小琳に、成嵐は青い顔して、額をサッと手で隠した。
「待て、落ち着けって。急ぎの仕事が入ったんだよ」
「え、お仕事ですか」
ピタリと小琳の足が止まり、右手が下ろされれば、成嵐もほっと息を吐いて額から手を外す。
よっぽど先日の指弾が効いているようだ。
内文学館でも小琳の指弾は、講義中に夢の世界で迷子になってしまった、数多の生徒を救ってきた凶器として通っている。痛さはお墨付きだ。
「そういえば、四殿下は、日頃どういった政務を担われているのですか」
成人した太子は皇帝からの任命により、なんらかの形で国政に参与しなければならない。結婚した太子には王府という地方自治領が与えられ、統治者として地方をまとめ、皇帝の耳目となるのが任となる。一方、未婚の場合は、宮中の何かしらの官職に任じられるはずなのだが、彼が国政機関が集まる外朝に赴いている様子はない。
(武官……って感じじゃないし)
木剣や練兵場で訓練したり、宮内を見回ったりしている様子もない。
というより、まず彼には剣など振るえなさそうだ。
「別に大したことはやってないよ」
答えるのが嫌なのか、彼は机の上で頬杖をついて、ため息と共にどうでもよさそうに答えた。馬鹿なのかどうか、未だにはっきりさせてくれないこと含め、彼は秘密主義のようだ。
すると、彼にかわって慈于が会話に入ってくる。
「立場的には、河周尹の補佐役に近いですかね。実際は河周尹の直属ってわけじゃありませんけど。ねっ、成嵐様!」
「ん、まあそうだな」
彼が自然な流れで答えてくれたため、成嵐が答えるのを拒否してできた如何ともしがたい空気が、あっという間に消える。
今まで、慈于がこうやって成嵐をさりげなく守ってきたのだろうことが窺えた。なんだかんだ良い主従だと思う。
河周尹とは、皇都・河周の行政長官のことである。
皇都は、やはり国の中で一番行政規模が大きい。
地方行政というよりも、朝廷で決定されたことがまず皇都から発布実施されることを考えると、ほぼほぼ国政ともいえる。
つまり、国政に直接は関わっていなくとも、皇都行政の執行者には同等の能力が求められるものだ。国の心臓である三省六部や、実行部隊の九寺五監のような能力が。
つい、『できるの?』とそこまで出かけた言葉を、小琳はゴクリと飲み込んだ。




