私は焼き派です
貫道の両端には、それぞれ皇城の外――市街へと繋がる東西の門があり、よく食膳処や衣装作成の尚功局の仕入れなど、物資の運び入れに使用されるものだ。とは言っても、太子宮の掃除女官にはなったこともなく、後宮内で下働きした後はずっと内文学館勤めだった小琳にとっては、珍しい光景であった。
足を速めて、小琳は先の荷車へと追いつく。
「こんにちは、何を運んでいるんですか」
牛の手綱を引いていた男は、小琳を見ると『お』という顔をした。
「どーも、女官殿。この荷かい? 魚だよ」
「ああ、食膳処の仕入れだったんですね……へぇ」
それじゃあ、今日明日の献立は魚料理だなと、密かに舌鼓を打った。しかし、男は小琳の考えていることがわかったのか、苦笑して手を顔の前で横に振った。
「姐さん、残念だがこりゃ後宮じゃなくて、太子園の方に卸すやつなんだよ」
「ああ……」と、小琳の口からいかにも残念だとばかりの声が漏れる。
太子園にも、後宮とは別に食膳処が置かれており、皇太子の住む東の太子園にそれはある。
小琳の悲哀がこもった嘆息を耳にした男は、また苦笑を濃くしていた。浅黒い逞しい身体と、半月に開いた口から見える田舎の農道のようにガタガタな歯が印象的な男だ。
「実は、ここんところほぼ毎日でね。料理人に聞いたら、なんでも第三太子様が食べたがってるって話でよ」
「三殿下は魚がお好きなんですね。でも、わかります。魚料理は美味しいですからね。私は焼き派です」
「嬉しいこと言ってくれるねえ、姐さん。魚商人にとっちゃありがてぇ話だ。おれは煮がおすすめだね」
小琳はしばし魚料理談義に花を咲かせながら、牛の歩みに合わせてのんびりと西湖宮へと向かった。
「――という話をしながら来たんですけど、お二人は焼きと煮はどちら派でしょう」
西湖宮の正室を訪ねるなり、小琳は道すがらの出来事を話した。
「いきなりだし、なんで派閥二つしかないんだよ……」
執務机から成嵐は呆れたような目を向けながらも、「俺は揚げだけど」と律儀に返してくれた。
「僕も焼きですね。でも、そういうことでしたら、近頃、食事が魚ばっかりだった理由がわかりましたね」
「本当、ずっと魚魚魚魚でうんざりなんだよ。さすがに毎日は飽きるって」
「三殿下が所望されているとなると、成嵐様の希望は通りにくいですよね」
慈于の言葉に、分かりやすく成嵐の顔が歪んだ。
不服というより、面倒くさそうな表情だ。
まあ、第三太子と成嵐の関係性を考えれば、彼が第三太子に関わりたくない理由も納得はできる。
「ただ、私からするとちょっと羨ましいですね。後宮の女官料理は、野菜や肉のほうが多くて魚はめったに出てこないので」
「ああ、肉のほうが保存は楽ですもんね」
後宮と太子園の料理は、調理する食膳処も違えば、出される料理も違う。
それはひとえに、皇族の全滅を防ぐため。
万が一、皇帝が食する後宮の料理に何か問題があっても、太子達が異なる料理を食していれば、皇統は絶えずに済む。反対もしかりである。
だから、後宮と太子園それぞれに食膳処があり、別々に仕入れや調理が行われている。
「さて、ではお話もこのくらいに、そろそろ講義をはじめましょうか。四殿下」
書庫への移動を促すように、小琳は扉の方へチラと視線を向けた。
しかし、彼は「いや」とこめかみを押さえた。
「しばらく講義はなしで」
「はい?」




