第七十話 始業式
体育館では始業式の整列が終わり、
全校生徒が静かに前を向いている。
空気は、少しだけ張り詰めていた。
——理由は一つ。
今日から、生徒会が新しく変わるからだ。
「それでは」
司会の声が、体育館に響く。
「新生徒会長より、挨拶があります」
ざわめき。
視線が、
一斉に前へ集まる。
成田旭が、壇上に上がった。
(……始まる)
私は、無意識に背筋を伸ばしていた。
⸻
「おはようございます」
マイク越しの声。
少し硬いけど、
確かに前を向いている声。
「今日から生徒会長に就任しました、成田旭です」
拍手。
大きすぎず、小さすぎず。
“様子見”の音。
「とは言ったものの、実は一月一日から、私たちの任期は始まっています」
「ですが」
「全校の前で話すのは、今日が最初です」
短く、はっきり。
「まず、大前提としてこの学校を急に変えることはしません」
「でも」
「止まっているところは、動かします」
少しだけ、会場がざわつく。
「生徒会は、今後五人で動きます」
そう言って、旭は視線こちらへ向けた。
この時に私は、朝のことを思い出した。
———
始業式前の、慌ただしい時間。
私は、廊下で東雲さんとぼんやり歩いていた。
(……本当に、いいのかな)
昨日のこと。
家のこと。
父の言葉。
全部、頭の中に残っている。
そして、頭の半分ではこう考えていた。
(旭と会うの気まずい...)
ただ、時間は進むもので視界に旭が映った。
気まずいが、東雲さんからの事を預かっている以上話しかけないといけない。
勇気をかけて話しかけた。
「……あさ、ひ?」
声をかけると、
彼は振り向いた。
「澪か、どうした?」
一瞬、
言葉に詰まる。
でも。
逃げるのは、
もうやめた。
「……東雲さんが」
そう言った瞬間、東雲さんが話し始める。
「成田さん」
東雲美久が、まっすぐ旭の事を見ていた。
顔は少し硬い。
でも、目は逃げていない。
「……あたいは、やります!」
短い言葉だが強かった。
「生徒会広報として」
そう言って、頭を下げる。
旭は、一瞬驚いた顔をして——
すぐに、小さく笑った。
「ありがとう」
それだけ言って必要な連絡だけをして別れた。
———
旭は、視線を中央へ戻し再び語り出す。
「それでは」
一度、息を吸う。
「新生徒会メンバーを発表します」
会場が、静まり返る。
「副会長——」
一拍。
「鷹宮澪」
胸が、きゅっと鳴った。
袖から出ると視線が集まる。
「えぇ!?!?」
「嘘でしょぉ!?」
「鷹宮さんってライバルだったよね?」
とても衝撃的だったみたいで一時騒然となった。
そして、どよめいたのは生徒だけではなく教師陣だ。
「なっ!?」
「あの鷹宮さんが?」
「だから言ったでしょう。彼女ではなく東雲が良いと」
そんなことを言われても知らない。
逃げないで私は、前を向いた。
立ち止まると旭が次の人を読み上げた。
「会計——白石真昼」
どこかで、小さな声が上がる。
たぶん、驚きと納得が混じった声。
「広報——東雲美久」
また騒然となる。
新聞部。
選挙。
その全部を含んだ、空気。
東雲は、背筋を伸ばしていた。
生徒の反応はと言うと。
「鷹宮さんに続いて東雲さんも!?」
「うっせやろ!?...これもうわっかんねぇな!」
「成田は魔性の女ならぬ魔性の男なのかよ」
そして教師陣も...
「東雲さん!?!?」
「一体どうなってるんだ!」
「教頭先生、先ほどの東雲さんが良いと言う発言は撤回すべきかと」
「え、えぇ...私でもこうなるとは思わなくってですね...」
生徒は驚き、教師は困惑していた。
どよめきが収まると続いて読み上げた。
「書記——柏木健太」
どっと、少し笑いが起きる。
それが、不思議と場を和らげた。
「以上、五名で」
旭は、はっきりと言った。
「新生徒会として、活動を行います」
「今後ともよろしくお願いします」
そう言って全員で深く一礼した。
拍手が起こる。
今度は、はっきりとした音。
私は、その中で思う。
(……逃げなかった)
(私も)
(あの人も)
(この人たちも)
新しい生徒会が、
静かに、でも確実に——
動き出した瞬間だった。




