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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第一章 ファーストアタック
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第七話 宣戦布告

職員室は、いつ来ても落ち着かない。


低い話し声。

コピー機の音。

書類をめくる乾いた音。


その中を、俺は二枚の紙を持って進んでいた。


会派結成届と生徒会長選挙立候補推薦書


逃げ場は、もうない。

そう覚悟して職員室の扉を叩こうとした時、突然後ろから肩を叩かれる。


「もしかして君が例の成田くん?」


そこには金色の長いロングヘアの美しい人がいた。


「へ?あ、はいそうですが...?」

「推薦したいんだけど...まだ大丈夫?」


息を切らしながら言っていた。


(走ってきたのか...?)


「大丈夫ですよ。ここに名前を書いてください。ありがとうございます。」


彼女にペンを渡した。

つらつらと名前を書いていって驚いた。


姫宮(ひめみや)...瑠奈(るな)...?」

「あぁ...申し遅れました。私、生徒会長の姫宮です。」


(嘘だろ!?現生徒会長が応援してくれると言うことだろ!?)


俺はとても混乱した。何が起きてるのか理解できず口を開けて呆然としていた。


「成田くん...私は君みたいになろうとしたんだけどね。結局先生にいろいろあってなれなかったんだよね...」

「な...るほど?」

「まぁ詳しいことは後日話すけど頑張ってね!」


姫宮さんは推薦書にだけ名前を書いて走り去っていった。

突然、大量の情報が入ってきすぎて棒立ちしているとまた後ろから肩を叩かれる。


「……成田くん」


声をかけてきたのは、

担任の宮本先生だった。


女性教師で、

生徒からとても人気があって、

普段は穏やかで、

怒るときだけ声が低くなる人だ。


「それ、もしかして例のやつ?」


「はい」


俺は、書類を差し出した。


宮本先生は受け取り、

立ったまま目を通し始める。


一人。

二人。

三人。


ページがめくられるたび、

鉛筆で書かれた名前が増えていく。


「……二十七、二十八」


小さく数え、

ふっと息を吐いた。


「三クラス以上……ちゃんと条件、満たしてるわね」


喉が鳴る。


「規約は、全部確認しました」


「でしょうね」


「でも会派の方は二十七人なのね。」


「ええ、姫宮会長が推薦書だけ名前を書いたので。」


「へぇ...」


宮本先生は、少しだけ笑った。


「ところで...あなた、こういう時だけ無駄に真面目なのよね」


「……褒めてます?」


「半分ね」


そう言って、書類を机に置く。


「まぁ手続き上は、問題ないね」


胸の奥が、きゅっと締まった。


「ただし」


やっぱり来る。


「これを出した瞬間から、あなたは先生から“守られる側”じゃなくなる」


「……はい」


「おそらく姫宮さんを除いた生徒会も、風紀委員会も、先生たちも――全員、あなたを敵対視すると思う」


「覚悟は、あります」


宮本先生は、しばらく俺の顔を見ていた。

試すような目。


それから、

周囲を一度だけ確認して、

声を落とした。


「教師としては、私は敵となると思うよ」


「分かってます」


「でもね」


一拍置いて続けた。


「個人的には、あなたのやってること、間違ってないと思ってる」


息が止まる。


「……え?」


「中央会議での質問、とても良かったよ。」


宮本先生は、ほんの少しだけ笑った。


「誰も言わなかっただけ」


そして、俺にだけ聞こえる声で、続ける。


「私も、応援してるからね」


胸の奥に、

静かに火が灯る。


派手な言葉じゃない。

約束でもない。


でも――

確かな支えだった。


「……ありがとうございます」


「勘違いしないでね?」


宮本先生はすぐに表情を戻す。


「甘やかさないし、止めるときは止める」


「それでいいです」


「でしょうね」


そう言って、

書類をファイルに挟む。


判子が押される。


乾いた音。


「受理します。あとは、規定通り」


それだけで、

十分だった。



職員室を出ると、

少しだけ視界が明るくなった気がした。


教室まで戻ると待っていた真昼が、

不安そうに近づいてくる。


「……どうだった?」


「受理された」


「......っ!!!」


声を上げそうになるのを、

必死でこらえている。


「あとで話す」


「うん……!」


そのとき。


廊下の向こうに、

背筋の伸びた影が見えた。


風紀委員長――

鷹宮澪。


彼女は一瞬だけこちらを見て、

何も言わずに通り過ぎる。


でも、分かる。


―——話聞いてた?


そう言われた気がした。


俺は、視線を逸らさなかった。


もう、戻れない。


でも――

一人じゃない。


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