第六十九話 かわいいな
夕方。
真昼が帰っていくのを、玄関まで見送った。
「またねー」
「おー、気をつけて」
扉が閉まる音。
家の中が、
一気に静かになる。
⸻
そのあと旭は、
ベッドに転がって、そのまま遅めの昼寝に入った。
テレビはつけっぱなし。
私はというと、
リビングで特にすることもなく、
ぼんやりスマホを眺めていた。
(……静かすぎ)
しばらくして、私は立ち上がって旭の部屋に戻る。
ドアを開けると——
ベッドの上で、未だに旭が寝ていた。
仰向けで口がちょっと開いてる。
(……)
一瞬、足が止まる。
(……かわいいな)
思った瞬間、自分で自分に驚いた。
(な、なに考えてるのよ)
でも。
せっかく寝てるし。
起こす気はない。
……ない、はずなんだけど。
気づいたら、
ベッドの横まで近づいていた。
(……えい)
軽く。
ほんとに軽く。
頬を、
指でぷにっと突く。
「……」
反応、なし。
(……もう一回)
えいっ。
ぷに。
——その瞬間だった。
⸻
(んぉ……?)
(……あれ)
(今、なんか……)
意識がじわっと浮上する。
でも、目は開かない。
(……え)
(もしかして)
(今、俺……)
(澪に……?)
頭の中で、一気に覚醒した。
(え、ちょ)
(まさか)
(触られてる……?)
(いや、そんなわけ)
(でも)
(ぷにって……)
心臓が急にうるさくなる。
(やば)
(起きたら気まずい)
(でも寝たふりしてたら変じゃね!?)
(ていうか、なんで恥ずかしいんだ俺!!)
顔が一気に熱くなるのが分かる。
(……ど、どうする)
その時だった。
「……起きてる?」
澪の声が聞こえる。
(……終わった)
俺は、必死に寝たふりを続けた。
(頼む)
(今だけは)
(気づかないでくれ……!!)
——静かな部屋に、
俺の心臓の音だけが響いていた。
(……なんだこの状況)
(めっちゃ恥ずかしいんだけど)




