第六話 二十八人の協力者
「……これ以上暴れないでくれない?面倒なことしないで」
昨日、風紀委員長である鷹宮澪はそう言った。
命令じゃない。
脅しでもない。
でも、はっきりとした忠告だった。
――これ以上、目立つな。
――静かにやれ。
俺は、その忠告を聞かなかった。
正確に言うなら、
聞いた上で、無視した。
⸻
最初の数日は、静かに動いた。
昼休み。
放課後。
人の少ない時間帯を選んで、声をかける。
「推薦、考えてくれないか」
「会派を新しく作るんだ。」
紙に書いた文字を見せる。
『生徒自治の確立を目指す会』
反応は、悪くなかった。
「……言ってることは分かる」
「それなら、入ってもいい気はする」
でも、そこで止まる。
「ちょっと考える」
「今日は無理」
「先生にバレるの嫌」
名前は、増えない。
一人。
真昼の分だけ。
一桁のまま、足踏み。
――やっぱり、無理か。
そう思いかけた、その夜。
スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、目を疑う。
柏木
評議会で、成田に近い距離サッカー部部長席に座っていた同じ二年。
目立つタイプじゃないが、
クラスでは発言力のあるやつだ。
柏木:
やっぱさ
俺、推薦するわ
短い文。
でも、やけに重かった。
成田:
いいのか?
柏木:
正直、怖いよ
でもさ
何も言わない方が、もっとダサいと思った
胸の奥で、何かがほどけた。
成田:
ありがとう
柏木:
明日書類に名前書くよ
――名前書くよ。
その一言が、
俺の中でずっと残っていた。
⸻
次の日。
昼休みが終わる頃、
真昼がスマホを覗き込んで、目を見開いた。
「……旭」
「ん?」
「これ、柏木くん?」
画面には、例のSNS――our storys 通称アワスト
校内ではみんな使っている、写真と短文の投稿アプリ。
ストーリーに表示されていたのは、
手書きの紙の写真だった。
『生徒自治の確立を目指す会』
に所属して成田のこと推薦します。
正直、怖いけど、でも動かないことよりマシだと思う。』
「……あいつ」
俺は言葉を失った。
真昼は驚きながら心配するように言った。
「これ...鷹宮さんに見つかったら...」
「いや...大丈夫だ。」
⸻
その日の放課後。
スマホが鳴りっぱなしだった。
知らないアカウント。
他クラスの名前。
アワストの通知。
「ストーリー見た」
「まだ推薦、間に合う?」
「成田って、これで合ってる?」
「俺も名前書く」
「私にも手伝わせて」
これを見た真昼が、半ば呆然としながら言う。
「……拡散力すごいね」
ストーリーは連鎖していた。
•柏木の投稿を引用
•「自分も賛成」と一言添えて
それが、次々と上がる。
翌日、空欄だった欄がいつの間にか埋まり始めていた。
六人。
八人。
十人。
「あ……」
十三人。
「え、待って……」
十七人。
「旭……」
二十人。
最後に、数え直して、俺は息を呑んだ。
二十八人。
三クラスどころじゃない。
五クラスから、名前が集まっている。
「……超えたね」
真昼の声は、震えていた。
「うん」
俺は、静かに頷いた。
「越えた」
二十人を。
制度を。
そして――
沈黙を。
⸻
その夜。
会派結成届を、改めて見直す。
会派名欄。
生徒自治の確立を目指す会
もう、空虚な理想じゃない。
名前がある。
人数がいる。
覚悟が、連なっている。
スマホに、最後の通知が届いた。
柏木:
思ったより集まったな
もう後戻りできないな
成田:
ああ
あとは任せろ
画面を閉じた、その瞬間。
脳裏に浮かぶのは、
鷹宮の声。
――暴れないでくれない?
俺は、小さく笑った。
「……うっせばーか」
暴れるとか、暴れないとかじゃない。
これは、正当なルールに則った合法行為だ。
俺は二十を超える人と共にこの学校を改革する!




