第五十八話 ラジオ体操
……どれくらい眠ったのか、分からない。
意識が浮上するより先に、
布団の上から影が落ちた。
「——おはよ、鷹宮さん」
間近。
近すぎる声。
「……っ!?」
思わず身を縮める。
視界に入ったのは、
妙に元気な白石真昼の顔だった。
「起きて起きて」
肩を、軽く揺すられる。
「朝だよ〜」
「……な、何時……?」
声が、完全に寝起き。
「六時半!」
即答して続ける。
「今日はね」
一拍。
「ラジオ体操に行こ!」
……は?
頭の中で、
理解が追いつかない。
(らじお……たいそう?)
「……なぜ?」
必死に絞り出す。
「雪、止んでるし」
白石さんは、カーテンをしゃっと開ける。
朝の光。
白い地面。
静かな住宅街。
「ちょうどいいじゃん」
「近所の公園でやってるんだよ?」
「……い、いえ」
私は、布団をぎゅっと掴む。
「私は、その……」
「遠慮とかナシ!」
被せるように。
「昨日泊まったんだから、もう仲間でしょ」
満面の笑み。
(……強い)
「何騒いでんだ……」
眠そうな声。
成田が、布団から顔を出す。
「……朝から元気だな」
「旭も行くよ!」
即決だった。
「体操!」
「行かねぇ」
「行くの!」
「行か——」
「行くの!」
私は、そのやり取りを呆然と見ていた。
(……この家、朝からうるさいのね)
「ほら」
白石さんが、私に手を差し出す。
「起きよ?」
一瞬、躊躇う。
でも。
断る理由が、
もう見つからなかった。
「……分かりました」
小さく、
そう答える。
布団を出る。
冷たい空気。
でも。
どこか、
昨日より息がしやすい。
「よし!」
白石さんが、満足そうに言う。
「三人でラジオ体操!」
「……なんで三人」
成田が、
ぼそっと言った。
私は、小さく願う。
(……この朝)
(嵐の前の、静けさじゃなければいいけど)
そんな願いは、
口に出さなかった。
とりあえず今は。
この奇妙で騒がしい朝に、身を任せるしかなかった。




