第五十七話 無理がある
布団が、三つ並んでいる。
……無理があるな。
どう考えても。
(……なんで、こうなった)
成田の部屋。
元は二人分くらいしか敷けないらしいけど、
今日は無理やり三枚敷かれている。
私は一番端に座っていた。
正座に近い姿勢で、
背筋だけが無駄に伸びている。
(……落ち着け)
(寝るだけ)
(寝たら、朝になる)
そう言い聞かせていた、その時。
「はぁ〜……」
隣から、わざとらしいため息が聞こえた。
白石真昼だ。
布団にごろっと転がりながら、天井を見て言う。
「今日はさ〜」
「旭といちゃいちゃしたかったのにな〜」
——ドグン。
心臓が、変な音を立てた。
(……は?)
思考が止まる。
耳まで、
一気に熱くなる。
「何言ってんだお前」
成田が、即座に突っ込む。
「ここで言うことじゃねぇだろ」
「え〜?」
白石さんは、楽しそうに笑う。
「だってさ〜」
「最近忙しくて、全然構ってくれないし?」
「今日は久しぶりに一緒だったのに」
わざと、ちらっと私を見る。
(……見ないで)
(見ないでほしい)
私は、毛布の端をぎゅっと握った。
顔が熱い。
耳が痛い。
(……聞いてない)
(私は、聞いてない)
そう思おうとしても無理だった。
「だからって」
成田が、呆れたように言う。
「そんなこと言うなよ」
「鷹宮が困るだろ」
(……え)
(今、名前......出した?)
「ほら〜」
白石さんが、にやっとする。
「旭、優しいじゃん」
「……うるせぇ」
布団の向こうで、もぞっと動く音。
私は、完全に縮こまっていた。
布団の中で、膝を抱える。
(……無理)
(この空間、無理)
心臓が、ずっと早い。
「……」
何か言わなきゃ、
と思うのに。
声が、出ない。
「……鷹宮?」
成田の声。
「大丈夫か?」
……やめて。
今それ聞かれたら、
余計に無理。
「……だ、大丈夫です」
精一杯、答える。
「……眠いだけなので」
「ほらほら」
白石さんがくすっと笑う。
「じゃ、もう寝よっか」
「おやすみ〜」
軽い声。
(ずるい......!)
電気が消える。
部屋が、暗くなる。
でも。
暗いのに、全然落ち着かない。
三人分の気配。
布団の擦れる音。
呼吸。
(……なんで、こんなことに)
目を閉じる。
閉じても、眠れない。
白石さんの言葉が、
頭の中で何度も再生される。
——いちゃいちゃ。
(……何考えてるの)
(私は……)
答えは、出なかった。
ただ。
顔が熱くて、心が落ち着かなかった。
この夜が、やけに長く感じられた。
——たぶん。
眠れたのは、一番最後だった。




