第五十二話 こんな形で会うとは
雪は、いつの間にか本降りになっていた。
白い粒が街灯の下で舞って、足元の輪郭を少しずつ消していく。
その中を、一人の影が近づいてきた。
「……待たせた」
成田だった。
コートも着ずマフラーも巻かないまま。
「……ありがとう」
短く答える。
それ以上、言葉はいらなかった。
並んで歩き出す。
靴底が雪を踏む音だけが続く。
寒い。
でも、それより胸の奥が落ち着かない。
(……本当に来ちゃった)
(帰られるまで家に置いてくれなかったらどうしよう)
そんなことばかり考えていた。
⸻
家の前に着く。
成田は何も言わず、鍵を取り出して開けた。
「どうぞ、入って」
ただそれだけ。
玄関の灯りがつき、暖かい空気が流れ出してくる。
(……助かった)
そう思った、その瞬間だった。
「おかえり、旭〜」
成田の母の声。
「雪、すごいわね——」
そこまで言って、
私を見る。
「あら……彼女さん?」
「ちげーよ。同級生。」
「……」
言葉が出ない。
視線の先。
リビングのソファから、
ゆっくり立ち上がる人影。
——父親みたい。
成田の父がテレビを消して、こちらを見ていた。
その場に、静けさが落ちる。
「……どうした?」
低く、落ち着いた声。
母が言う。
「旭がね、同級生を連れてきたの。雪の中で困ってたみたいで」
父親の視線が、
私に向く。
一瞬。
ほんの一瞬だけ、
何かを計るような間。
(……来る)
(断られる)
そう思った。
「……失礼ですが」
父親が口を開いた。
「お名前は?」
喉が鳴る。
「……鷹宮、澪です」
名乗った瞬間だった。
父親の目が、わずかに見開かれる。
「……鷹宮さんの、お嬢さんでしたか」
その言葉に、心臓が跳ねた。
(……知ってるのか)
(やっぱり)
空気が、少し変わる。
「……いや」
父親は、小さく息を吐いた。
「まさか、こんな形で会うとは思っていませんでした」
驚いているが拒絶している感じではない。
私は、その違いを必死に読み取れた。
(……断られなかった)
それだけで、膝の力が抜けそうになる。
「とりあえず」
母が、場を和らげるように言った。
「中に入りなさい。こんな格好じゃ冷えるでしょう」
私は、小さく頭を下げた。
「……お邪魔します」
玄関に足を踏み入れながら思う。
ここに来るのが、一番怖かった。
でも。
一番逃げ場がない場所でもあった。
そして、この夜がただの“避難”で終わらないことを——
私は、もう分かっていた。




