表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第二章 セカンドアタック
50/71

第五十話 家出

夕食の片づけが終わったあと。


居間には、テレビの音だけが流れていた。


私は父の正面に座る。


「……さっき言ってたでしょ」


喉が少し乾く。


「副会長になるって」


父は、新聞から目を離さずに答えた。


「そうだな」


その平坦さが、

逆に怖い。


私は、一拍置いてから言った。


「真剣にやることにした」


その瞬間。


——バンッ。


新聞が、テーブルに叩きつけられた。


「ふざけるな」


低い声。


でも、はっきり怒っている。


「誰の名前を出してるか、分かって言ってるのか?」


「分かってる」


即答する。


「だから——」


「だからじゃない!」


父の声が、一気に荒くなる。


「お前は!」


「誰の娘だと思ってる!」


母が、慌てて割って入る。


「あなた、落ち着いて——」


「黙ってろ」


母の声を一蹴し、父は私を睨みつける。


「成田だぞ」


「あの成田の息子だ」


「私が、どんな目に遭ってきたか」


「どれだけのものを捨ててきたか」


「分かってるはずだろう!」


胸がどくんと鳴る。


「……それと、私が副会長やることは——」


「関係あるに決まってる!」


遮られる。


「お前が隣に立つってことは!」


「自分とは敵対した人間を、正面から肯定するってことだ!」


「それが、どれだけ政治的に愚かなことか!」


「……政治じゃない」


声が、震える。


「学校の話だろ?」


「生徒会の——」


「同じだ!」


また、叩き切られる。


「名前がある限り!」


「血がある限り!」


「立場は消えない!」


私は、歯を食いしばる。


「……私は」


「私の人生でしょ!」


一瞬、空気が凍った。


母が息を呑む。


父の目が完全に冷えた。


「……なら」


静かな声。


「この家にいる資格はない」


その言葉が、ゆっくり落ちる。


「え……?」


母が声を上げる。


「あなた、何を——」


父は、私だけを見て言った。


「出ていけ」


一切の迷いもなく。


「自分の判断で動くと言ったな」


「なら、自分で責任を取れ」


「……」


言葉が出ない。


でも。


引く気はなかった。


私は、その場を離れた。


部屋に戻る。


鞄とスーツケースを掴む。


財布。

スマホ。

着替えに制服を入れる。


すぐに荷物を準備し、玄関へ行く。

玄関で靴を履く。


背後で、母が泣いている。


でも、振り返らない。


振り返ったら、ダメだ。


「……行ってきます」


誰にともなく、そう言って。


ドアを開けた。


夜の空気が冷たい。


ドアが閉まる。


——ガチャ。


その音で完全に分かった。


私は、もう戻れない。


しょうがないから歩き出す。


行き先は、決めていない。


でも、スマホを握る手だけは強かった。


(……それでも)


(私は間違ってない)


そう思わないと、歩けなかった。


夜の街に、一人踏み出す。


——ここから先は、

誰の名前でもない。


私の選択だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ