第四十九話 同じこと言うつもりなの?
昼休み。
廊下の向こうから、
旭が早足で歩いてくるのが見えた。
生徒会室の方向から。
……まただ。
最近、いつもあそこら辺にいるよね......
(今日も、来ない気だな)
そう思った瞬間、胸の奥が少しだけざらついた。
一週間近く、一緒に昼を食べていない。
たったそれだけなのに、
思った以上に、きつい。
耐えきれなくなって、私は腕を組んで通り道に立った。
「——旭!」
声をかけると、
旭がはっと顔を上げる。
「……どした?」
その一言。
本当に、何も分かってない顔。
(あぁ……)
この人、
悪気がないんだ。
だから余計に、
腹が立つ。
「どしたじゃない」
じっと睨む。
「もうここ一週間近く、一緒に昼食べてないんだけど?」
「あー……」
その反応。
思い当たる節がありすぎる時のやつ。
「今、ちょっと立て込んでて——」
「“ちょっと”?」
語尾が、
自然と尖る。
言い訳を並べながら、一本ずつ指を折る。
言葉にするほど、虚しくなる。
「私、旭の幼馴染なんだけど?」
「……そうだけど」
「そうなら!」
声が少し大きくなって、
周りの視線に気づく。
……やばい。
一歩近づいて、
声を落とす。
「私さ」
できるだけ、
冷静に。
「生徒会が大事なのは分かってるよ」
「忙しいのも」
本音だ。
否定したいわけじゃない。
「でも」
「“忙しいから後で”って言われ続けるの、結構くるんだけど」
言いながら、胸がちくっとする。
……これが我慢してたやつだ。
「……悪い」
旭がすぐに謝る。
「本当に」
その即答がずるい。
「……そうやってすぐ謝るのも、ずるい」
「え?」
「怒りにくくなるじゃん」
視線を逸らす。
本当は、もっと言いたい。
でも、言葉にすると重くなる。
「……」
一瞬、黙る。
言うつもりじゃなかった言葉が、
喉まで上がってくる。
(……やば)
止めようとして、
止まらなかった。
「……私がさ」
声が、
やけに小さくなる。
「……嫁になっても」
自分で言って、
顔が熱くなる。
「同じこと言うつもりなの……?」
「……は?」
旭の間抜けな声。
(あ、やった)
一気に恥ずかしさが押し寄せる。
「だから!」
顔を赤くして、
勢いで続ける。
もちろん小声で。
「忙しいから後で、って!」
「結婚しても、子どもできても!」
「全部“後で”にするのかなって思っただけ!」
旭が、
黙った。
その沈黙が、
少し怖い。
(……言いすぎた)
胸が、
ぎゅっと縮む。
「……言いすぎた」
視線を逸らす。
「今のなし」
「忘れて」
でも、
声が震えてるのが自分でも分かる。
「……で、今日は?」
無理やり、話題を戻す。
旭の顔を、
ちらっと見る。
「一緒に食べられる?」
断られたら、
今日は結構くる。
……正直。
「……行く」
即答だった。
「行こう」
その一言で、胸の奥が少しだけ緩んだ。
(……単純だったな私)
自分で思う。
でも、それでいい。
「最初からそう言えばいいのに」
「ごめん」
「もういい」
そう言いながら、
歩き出す。
「でも」
一拍。
振り返らずに、言う。
「次も同じだったら」
「本気で怒るからね?」
「……はい」
旭の返事。
その声を聞きながら、思う。
(……私、何してるんだろ)
幼馴染で。
一番近くて。
今日くらいは。
一緒に昼を食べられる。
それだけで、少し救われた。
私はまだ、旭の隣にいる。
……そう思いたかった。




