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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第二章 セカンドアタック
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第四十三話 二つの夜

夕暮れ。


校舎裏の影が、少しずつ長くなっていた。


私は立ち上がる。


涙はもう拭いた。


完全に止まったわけじゃない。

でも人前で崩れるほどじゃない。


「……ありがとう」


成田を見る。


ちゃんと、目を合わせて。


「今日は……助かった」


「そうか」


「じゃあね」


それだけ言って背を向けた。


振り返らない。


振り返ったらきっとまた崩れる。


足音が夕方の校舎裏に溶ける。


成田は追ってこなかった。


それでいい。


今日はそれでよかった。


———


この日の夜。


俺の家は、珍しく騒がしかった。


「旭〜お前が生徒会長になって父さん嬉しいよ!」


「すごいじゃない、旭!」


「あいにく出張で当日はこうやって出来なかったがその分今日は存分に楽しめ!旭!」


テーブルにはいつもより少し豪華な料理。


笑い声。

乾杯。


「……まだ実感ないけどさ」


そう言いながら俺は笑った。


祝福されている。


選ばれた。


正しい結果として。


その輪の中で彼は何度もスマホを見た。


——(メッセージが来ない......)


でもそれを気にするのは今じゃない。


そう自分に言い聞かせる。


———

一方。


私の家は静かだった。


夕食後。


母と父の前に私は座っていた。


「成田旭が当選したのは知ってるよね?」


父がこちらを見る。

急に空気が変わる。


「……そうだな」


私は息を吸って続ける。


「で、その成田が私に言ってきたんだ」


私は唇を噛んでから言った。


「……副会長に、ならないかって」


言った瞬間。


「は?」


父の声が低くなった。


「副会長?」


「……ライバルの?」


新聞を机に置く音。


「正気か」


父が真っ直ぐこちらを見る。


「負けた相手の下につく気か?」


「それは——」


言葉を探す。


「……学校のために必要だって」


「必要?」


母が被せる。


「あなたが?」


「主役じゃなくて?」


胸がぎゅっと締まる。


「副会長だぁ!?」


父の声が強くなる。


「ライバルの提案を呑む気か?」


「それであなたは何を得るのよ?」


「肩書きか?それとも、敗者の保身か?」


言葉が刺さる。


「……違う」


小さくそう言った。


「じゃあ何だ」


答えを求められる。


でも。


答えはまだ自分でも分からない。


「……考えさせて」


そう言うのが精一杯だった。


父は溜息をつく。


「無駄な時間だ」


「期待を裏切るなよ」


その一言で会話は終わった。


部屋に戻って、ドアを閉める。


ベッドに座り込む。


(……副会長)


(ライバルの隣)


成田の顔が浮かぶ。


夕方の校舎裏。


「ありがとう……じゃあね」


あの時に何も言わなかった彼。


それがなぜか今になって胸に刺さる。


(……どうすればいいの)


答えはまだ出ない。


でも。


眠る前スマホを握ったまま。


私は一つだけ確信していた。


——この選択は

誰かの期待のためだけには

決めたくない。


——


この夜に二つの家で、まったく違う夜が過ぎていった。

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