第四十二話 やっぱり、やだ
しばらくただ並んで座っていた。
夕方の風が校舎裏を通り抜ける。
「……ねえ」
私の方から声を出した。
成田は何も言わない。
それでいい。
⸻
「私さ……」
喉が少し痛む。
「『絶対に生徒会長になれ』って言われたんだよね」
言葉にした瞬間、
胸の奥がぎゅっと縮んだ。
「親に」
視線を地面に落とす。
⸻
「理由は、ちゃんとしてるの」
自分に言い聞かせるみたいに続ける。
「目立つ役職で」
「責任感があって」
「推薦にも有利で」
「“安心できる進路”だから」
……全部言っていること自体は正しい。
「だから、風紀委員長になったの」
「だから、秩序とか安定とか」
「全部、求めても間違ってないと思うの」
私は唇を噛んで気持ちをこらえる。
そして続ける。
「でもね」
体が少し震えた。
「私がなりたいかどうかは、一度も聞かれてない」
成田の視線がほんの少し強くなる。
そして、成田が口を開く。
「もし鷹宮が生徒会長になれなかったら……どうなるの?」
一拍置いて回答する。
「分からない」
「でも」
「“期待を裏切るな”って言葉だけは、親に何度も聞かされた」
喉が詰まる。
「今日のことも」
「噂も」
「公開告白とか」
「全部……」
声が掠れた。
「“余計なことするから”って」
「“目立つから”って」
「親に言ったってどうせ、私のせいにされる」
気づいたら、目が熱くなっていた。
「……私」
息を吸おうとしてもうまくいかない。
「私、ちゃんとやってるのに」
一粒、涙が落ちた。
慌てて拭おうとする。
でも、止まらない。
「……ごめん」
嗚咽混じりにそう言った。
「泣くつもりなかったのに」
肩が震える。
成田は何も言わずにハンカチを渡してくる。
私はそれを受け取って目に当てた。
成田は何も言わずに、少しだけ距離を詰めて隣にいる。
それだけ。
「……私さ」
涙を零しながら、続ける。
「生徒会長になりたかったわけじゃない」
「でも」
「なれなかったら、ダメな気がして」
「逃げたら、ダメな気がして」
声が小さくなる。
「……怖い」
⸻
成田が静かに言った。
「……それは」
一呼吸置いて続ける。
「誰かの理想なんだろ?」
短い言葉。
でも身に染みる。
「……うん」
私は涙をこぼしたまま頷いた。
「私のじゃないのは確か」
そう言った瞬間、胸の奥が崩れた。
堪えていたものが、一気に溢れる。
「……やっぱり、やだ」
小さな声。
「私、ちゃんと自分で選びたい」
「自分で」
「……一回くらい」
泣きながらそう呟いた。
成田はまだ何も言わない。
でも。
逃げなかった。
隣にいた。
それだけで、
十分だった。
私はまだ彼を頼っているとは思っていない。
……でも。
隣にいてほしいという感情があるという事実だけは否定できなかった。




