第四十一話 雪崩れ
廊下を歩くだけで、
視線が刺さる。
「……見た?」
「公開告白のやつでしょ」
「動画、アワストに残ってるらしいよ」
笑い声。
ひそひそ声。
面白半分。
(……やめて)
耳を塞ぎたいのに塞げない。
風紀委員長がそんなことできるわけがない。
⸻
教室に入っても、
状況は変わらなかった。
誰も直接は言わない。
でも、
空気が違う。
視線が、
私を追ってくる。
(……息、しづらい)
胸の奥が、
きゅっと縮む。
⸻
昼休み。
逃げるように、
校舎裏へ向かう。
あの場所は嫌だった。
でも、
今は他に行くところがなかった。
(……なんで)
(なんで、こんなことに)
土下座。
告白。
噂。
全部、
私の意思とは関係ない。
なのに。
(私が、何かしたみたいじゃない)
「……鷹宮!」
聞きたくない声。
振り向かなくても、
誰か分かる。
「来んな!!」
思った以上に、
強い声が出た。
成田が、
その場で立ち止まる。
「……悪い」
「悪いなら、近づかないで!」
視界が、
少し揺れる。
「みんな、あんたのせいで——」
言葉が、
途中で切れる。
胸が、
苦しい。
「……ごめん、俺が悪かった」
成田は、
低い声で言った。
「全部」
「だから——」
「だから何!?」
振り返って、
叫んでいた。
「同情?」
「責任感?」
「それとも、次は責任取ってちゃんとプロポーズでもするつもり!?」
言ってから、
後悔した。
(……何言ってんだろ私)
でも、
止まらなかった。
「とにかく放っておいて!私、今は——」
声が震える。
「一人でいたいの!」
成田は一歩も近づかない。
それが余計に腹立たしい。
(なんで引くのよ)
(ここまで来たくせに)
「……分かった」
静かな声で言う。
「今日は......帰る」
「……」
足音が一歩、一歩と離れる。
(……ちがう)
(それじゃ、ちがう)
胸の奥が、急に空っぽになる。
脚が崩れて座り込んでしまう。
「……待って」
小さな声。
でも、確かに出た。
成田が、振り向く。
私は、自分でも驚くほど必死だった。
「……ダメ」
喉が、詰まる。
「……やっぱ、行かないで」
言った瞬間、
全部が崩れた。
強がりも。
理屈も。
秩序も。
「……今は」
俯いたまま、
続ける。
「……一人でいられない」
沈黙。
成田は、
ゆっくり近づいてきた。
触れない距離で、
止まる。
「……隣、いいか」
あの言い方。
腹立たしいのに、
今は——
「……一分だけ」
精一杯の強がり。
成田は何も言わずに私の隣に座った。
彼がやけに頼もしく見えたことを。
私はまだ認めたくなかった。




