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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第二章 セカンドアタック
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第三十九話 新聞部の行動

最初に聞いたのは、

廊下の向こうからだった。


「え、聞いた?」


「成田が鷹宮に土下座したって」


「は?なにそれ」


「公開告白らしいよ」


……。


(は?)


一瞬、

意味が理解できなかった。


「ちょ、ちょっと待って」


思わず声が出る。


隣にいた部員がスマホを見せてきた。


動画。

途中から。

音は小さい。


でも。


——膝をつく成田。

——真っ赤な鷹宮。

——ざわつく周囲。


(……ほんとだ)


(なに、これ)


心臓が、

一気に速くなる。


「このこと新聞に載っけるの?」


誰かが言った。


「載っけるに決まってるじゃん」


「これ、今年度どころか開校以来の一二を争うのネタだよ」


「速報レベルでしょ」


……速報。


その言葉で、

頭が真っ白になった。


(速報……?)


(これ、選挙終わった直後だよね?)


(生徒会長が、元選挙ライバルに……)


「……待って」


思わず遮る。


「これ、本当に告白なの?」


部室が、

一瞬静まる。


「え?」


「だって土下座してたし」


「周りもそう言ってる」


「本人たちが否定しても、見た目がもうアウトじゃん」


笑い声。


軽いノリ。


でも、

あたいの中は全然笑えなかった。


(……まただ)


胸が、

きゅっと締まる。


(また、

 判断が遅れる)


(あたい、また何もできない?)


前の演説。

声が出なかった日。


「正しいこと」を

言えなかった日。


(……今度は)


(今度は、逃げない)



「……書こう」


(やはり無理だ......あたいには反抗なんかできない)


自分でも、

驚くほど思っていないことを言っていた。


部員たちが、

一斉にこちらを見る。


「よし」


「タイトルは次期生徒会長・成田旭が風紀委員長・鷹宮澪に公開土下座。告白か?とか良さそう」


誰かが、

代わりに言った。


部室が、

ざわっとする。


「うわ、見出し強っ」


「絶対伸びる」


「注目度ヤバい」


(……違う)


頭の奥で、

小さな声がした。


(それ、本当に事実?)


でも。


(事実より、

 “そう見えた”ことの方が

 重要なんじゃない?)


新聞部は、

そういう場所だ。


———

「……証言、集めて」


あたいは、

無理やり声を出す。


「廊下にいた人」


「動画撮った人」


「“告白に見えた”って

 コメントを中心に」


言いながら、

手が震えている。


(……私、

 なにしてるんだろ)


でも、

止まれなかった。


「鷹宮さん、断ってたよね」


「だからこそ

 ドラマ性あるじゃん」


「恋愛と政治の対立!」


「タイトルそれでいこう」


言葉が、

ナイフみたいに飛び交う。


胸が、

苦しい。


(……これでいいの?)


(また、

 誰かを傷つける記事になる)


でも。


(書かなかったら、

 私はまた“何も残せない”)


選挙で。

演説で。

ずっと。


「……出しましょう」


あたいは唇を噛んで言った。


「速報で今日中に張り出しましょう」


部室が、

一気に動き出す。


キーボードの音。

印刷機の準備。


もう、

後戻りできない。


その時。


胸の奥で、

はっきり思った。


(……これ)


(もし違ってたら)


(取り返し、

 つかないよね)


でも、

誰も止めない。


私も、

止められない。


——新聞部は、

走り出してしまった。


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