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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第二章 セカンドアタック
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第三十八話 二度目の誤解

あれから土日を跨いだ月曜日。

昼休みの廊下は人が多かった。


移動する生徒。

立ち話。

掲示物の前で立ち止まる人影。


その真ん中に鷹宮が立っている。


風紀委員長。

腕を組み、壁際に寄り添う姿。


——いつも通りのはずだった。


「……鷹宮」


俺が声をかけた瞬間、

近くにいた数人がこちらを見る。


鷹宮が振り向く。


「……なに?近づかないでって言ったよね?」


低い声。

警戒。


(今しかない)


俺は一歩、前に出た。


「副会長の件で——」


「ここで話すこと?」


「……ああ」


その短いやり取りだけで、

空気が変わった。


「え、なに?」


「成田じゃん」


「鷹宮呼び止めてる」


ざわざわ、という音が

はっきりと耳に入る。


次の瞬間。


俺は、

廊下の真ん中で膝をついた。


一気に、

音が消えた。


「……は?」


「えっ」


「え、え、なにあれ」


誰かが息を呑む。


俺は気にしない。


両手を床につき、

そのまま頭を下げた。


完全な土下座。


「……頼む」


声が、少し震える。


「お願いだ!」


一拍置いて続ける。


「お前がいないと絶対にダメなんだ!」


その瞬間。


「……え?」


「お前がいないと絶対にダメ?」


「いや、今の……」


「土下座?」


「これ……告白......じゃない?」


小声が、

波紋みたいに広がる。


「ちょ、見て」


「完全にプロポーズのやつじゃんね?」


「廊下で土下座とか聞いたことない」


「動画回していい?」


「やめろって!」


ざわめきが、

一段階大きくなる。


俺は、

それでも続けた。


「立場とか」


「もうどうでもいい」


「俺は」


顔を上げずに言う。


「お前がいないと絶対にダメなんだ!」


「俺のこと止めてほしい、怒ってほしい、引き戻してほしい」


「俺のことを支えてくれ!」


完全に、

空気が別物になった。


「……いやもう」


「完全にプロポーズじゃん」


「前代未聞のえぐい公開告白すぎる」


「昼休みに何見せられてんの私たち」


誰かが笑い、

誰かが赤面し、

誰かが息を殺す。


鷹宮の顔が、

みるみる赤くなる。


「……っ」


拳が、

震えている。


「なに……」


声が、かすれる。


「なにやってるのよ……!」


「こんなの……」


視線が、

周囲を一瞬だけ見回す。


ざわめき。

視線。

期待。

誤解。


全部、

分かってしまった。


「……卑怯」


小さな声。


「こんなの……」


「完全に、公開告白じゃない……」


その一言で、

周囲がどよめく。


「やっぱ告白だ!」


「本人認めた!」


「うわ、マジかよ」


「禁断の恋ってやつ?」


「違うぞみんな!」


俺は即座に言った。


「決して告白じゃない!」


その否定が、

逆に火を注いだ。


「いや今さらそれは無理」


「じゃあなんなんだよ」


「否定してるけど顔ガチじゃん」


鷹宮は、

完全に限界だった。


「……立って」


震える声。


「今すぐ」


俺は、

言われるがまま立ち上がる。


「……今日は、返事できない」


「副会長の話も」


「……それ以外も」


視線を逸らしたまま、

小さく言う。


「頭、冷やさせて」


そう言って、

彼女は人混みを割るように歩き出した。


顔は、

完全に真っ赤だった。


残された廊下。


「いやー……」


「伝説作ったな、成田」


「生徒会長が公開告白で選挙ライバル口説くの草」


「絶対今日中に全校知るわ」


「新聞部動くぞこれ」


……そこでようやく、俺は気づいた。


(……あれ?)


(もしかして)


(取り返しのつかない誤解、されてないか?)


——


成田は気づくのが遅すぎた。

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