第三十七話 言葉は怖い
……告白?
校舎裏に、
一人取り残されたまま、
俺はしばらく動けなかった。
(いや、待て待て)
(告白って、
あれが?)
頭の中で、
さっきの会話が何度も再生される。
「欲しい」
「必要だ」
「側にいてほしい」
(……)
(言ったな)
確かに言った。
でも。
(それのどこが告白なんだ?)
「……意味分かんねぇ」
思わず、
声に出た。
副会長の話だ。
役割の話だ。
ブレーキ役が必要で、
慎重な人間が必要で、
だから——
(……側)
そこで、
思考が止まる。
(側、って言い方が悪かったのか?)
(いや、でも
他にどう言う?)
「一緒にやる」とか、
「隣にいてほしい」とか、
ニュアンスは同じだろ。
(……同じだよな?)
急に、
自信がなくなる。
校舎の壁に背中を預ける。
夕方の風が、
少し冷たい。
(鷹宮、
顔真っ赤だったよな)
(怒ってたけど)
(……照れてた?)
その考えが浮かんだ瞬間、
頭を振る。
(ない)
(絶対ない)
(あいつが、
そんな乙女な反応するか)
……でも。
「……告白じゃん!!」
あの声。
必死で、
恥ずかしそうで。
(……)
胸の奥が、
妙にざわつく。
(もし)
(もし仮に)
(あれが告白に聞こえたとしたら)
(俺は……)
そこで、
考えが止まった。
(俺は、
どうなんだ?)
好きか嫌いか。
そんなこと、
考えたこともなかった。
敵だった。
対抗馬だった。
厄介で、理屈っぽくて。
でも。
(必要だとは、
本気で思ってる)
それは、
嘘じゃない。
(……でも)
「欲しい」って言葉。
改めて思い返すと、
確かに強い。
(なんで
あんな言い方したんだ?)
自分でも、
分からない。
スマホを取り出す。
トーク画面。
最後のやり取りが、
そのまま残っている。
「一番欲しいって思ってる」
……最悪だ。
(文字で見ると
余計おかしい)
今さら気づく。
(これ、
訂正した方がいいのか?)
でも。
(今送ったら
言い訳に見える)
(追撃になりそう)
指が止まる。
「……参ったな」
ため息が、
自然に出た。
副会長の話を断られた。
それだけのはずだった。
なのに。
(なんで
こんな気になる)
胸の奥が、
静かにうるさい。
(……告白、か)
小さく呟いて、
苦笑する。
(俺、
そんなつもり
全然なかったぞ)
でも。
(もし
そう受け取られるなら)
(言葉って、
怖いな)
夕焼けが、
校舎の影を長く伸ばす。
そろそろ、
帰らないといけない。
一歩、
踏み出す。
(……明日)
(どうすりゃいいんだ)
答えは、
まだ出ない。
ただ一つだけ、
はっきりしたことがある。
鷹宮澪は、
「役割の話」で済ませられる相手じゃない。
その事実だけが、
頭に残り続けていた。




