第三十五話 校舎裏に来て
スマホが震えた。
授業の合間。
机の中で、短く一度。
……来た!
分かっていたのに、
画面を見るまで数秒かかった。
【成田】
トークを開く。
——
「立場の話に決まってるだろ?」
「お前が一番欲しいって思ってるっていう。
それだけ」
——
……。
…………。
(は?)
思考が、完全に止まった。
立場の話。
そう言っている。
なのに。
(「一番欲しい」?)
(それだけ?)
どこをどう読んでも、説明になっていない気がする。
むしろ、前より悪化している。
(なに、それ)
(フォローのつもり?)
(それとも……)
頭の中で、
言葉を整理しようとする。
立場の話。
生徒会の話。
必要だから。
——そこまでは、分かる。
でも。
「一番欲しい」
その言い方は、
どう考えてもおかしい。
(役職の話なら)
(「必要」だけで足りるでしょ)
(「一番」なんて、
順位つける必要ある?)
胸の奥がじわじわと熱くなる。
混乱。
困惑。
そして——
(……これ)
(告白......じゃないの?)
頭の中で必死に否定しようとする。
成田はそういう人じゃない。
回りくどいことをするタイプじゃない。
思ったことを、そのまま言うタイプだ。
……だからこそ。
(思ったことをそのまま言ってるとしたら?)
考えが一気にそっちへ傾いた。
「隣にいてほしい」
「欲しい」
「一番」
それらを全部並べるとどうやっても一つの意味に収束する。
(……冗談、でしょ?)
喉が少しだけ乾いた。
教室のざわめきが遠くに聞こえる。
誰かが笑っている。
誰かが名前を呼んでいる。
でも、それどころじゃなかった。
(どうする......?私......)
このまま既読スルー?
無理。
はぐらかす?
余計にこじれる。
文字でやり取りするには、
情報量が多すぎる。
(……直接、聞くしかない)
結論は、
すぐに出た。
私は、
深呼吸してから入力する。
⸻
「放課後に校舎裏来て」
⸻
送信。
短い。
余計な感情は入れない。
……つもりだった。
スマホを伏せると、
心臓がうるさい。
(何考えてるのよ、私は)
(もし違ったら?)
(立場の話だったら?)
その場合は、
私が勝手に勘違いしただけだ。
……恥ずかしい。
でも。
(それならそれで、
ちゃんと線を引けばいい)
曖昧なままにする方が、
よほど危険だ。
⸻
放課後。
校舎裏。
あの場所を思い浮かべるだけで、
胸の奥が落ち着かなくなる。
(……はっきりさせる)
(今日)
そう決めて、
私は授業の準備に戻った。
ただ一つだけ、
確かなことがある。
成田旭は、
私が思っていたより
ずっと厄介な人間だ。
それだけは、
もう否定できなかった。




