第三十四話 何ニヤニヤしてんの?
朝のホームルーム前。
机に突っ伏しながら俺は鷹宮とのトーク画面を見ていた。
既読はついている。
(鷹宮は読んでくれたんだ)
それだけで少し肩の力が抜けた。
(よし、返事は来るだろ)
そう思っていたところに、
画面が震えた。
通知。
【@鷹宮】
反射的に、
背筋が伸びる。
メッセージを開く。
——
「……それって立場の話?
それとも個人的な話?」
——
……?
一瞬、意味が分からなかった。
(立場?個人的?)
どっちも同じじゃないか?
生徒会長としての立場で、必要だから言ってる。
それ以外に、何があるんだ?
(変なところで引っかかるな……)
俺は首をかしげながら、そのまま返信を打った。
——
「立場の話に決まってるだろ?」
「お前が一番欲しいって思ってるっていう。
それだけ」
⸻
こう書いて送信ボタンを押した。
一ミリも迷いはなかった。
(これで伝わるだろ)
俺としては、ちゃんと誤解を解いたつもりだった。
送信した後、すぐにスマホを机に伏せる。
前の席で、
真昼が振り返った。
「……何ニヤニヤしてんの?」
「してねぇよ」
「してたよ」
「してない」
「顔、緩んでたくない?」
(そんなつもりはない)
でも否定するのも面倒で、
話題を変える。
「それよりさ」
「なに?」
「今日から色々動くんだけど、生徒会の引き継ぎとか忙しくなるから......」
真昼は一瞬、
俺の顔をじっと見てから遮って言った。
「……ところで鷹宮さん、どうするの?」
「どうするって?」
「例の話」
「ああ」
俺は軽く答えた。
「必要だから誘っただけだし」
「……それだけ?」
「それ以外に何があるんだ?」
真昼は、
何も言わなかった。
ただ、
小さく息を吐いた。
(なんだよ)
(みんなして変な反応しやがって)
⸻
昼休み。
スマホを見る。
……返事は来ていない。
(まあ、すぐには決められないよな)
断られる可能性も、
当然ある。
鷹宮はそういうやつだ。
簡単に首を縦に振らない。
それは分かっている。
(それでも)
(話はした方がいい)
直接、
顔を見て話す。
それが一番だ。
⸻
一方。
成田旭は、
まだ気づいていなかった。
自分の送った言葉が、
「立場の話」としては
致命的に曖昧で、
「個人的な話」としては
致命的にまっすぐだったことに。
そして。
その返信が、
鷹宮の中で
どれほどのズレを生んでいるのかを。




