表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第二章 セカンドアタック
33/71

第三十三話 どういう意味?

朝だ。


目覚ましが鳴る前に、目が覚めた。


眠れなかったわけじゃない。

ただ、浅い眠りだった。


昨夜からずっと、頭の中に残っているのは数字だ。


二百四十三票。

二十七%。


少なくはない。

でも、足りなかった。


(……やっぱり私負けたんだ)


そう思うと胸の奥が少しだけ重くなる。



枕元のスマホに手を伸ばす。


通知が一件。


「成田旭」


一瞬、指が止まった。


(……朝に見ようって言って寝たんだったな)


昨日の夜、通知が来ていたのは分かっていた。

でも、見る勇気がなかった。


負けた直後に、勝者から何か言われる。

それがどんな内容でも、心がざわつくに決まっている。


だから、朝にした。


朝なら冷静でいられると思ったから。


画面を開く。


長文だった。


(……長い!)


成田はこういうとき、簡潔にできない。

良くも悪くも、正面から全部言おうとする。


一行目から読む。


——


正直、まだ実感ないんだよね。

勝ったって言われても、いまいちピンと来てない。


でも一つだけはっきりしてることがある


俺一人じゃ絶対に回らないでしょ?

当たり前だけど。


だから、お前が欲しい。

お前が必要だ

鷹宮の慎重さも理屈もブレーキも

全部、今の俺には必要だ。

だから俺の側にいて欲しい。


——

……。


私は、画面を見たまま固まった。


(側に、いてほしい?)


そこだけ、どうしても引っかかる。


「協力してほしい」でもいい。

「手伝ってほしい」でもいい。

「副会長になってほしい」でもいい。


いくらでも言い方はあった。


なのに成田は、

「側にいてほしい」なんて言う。


(……それ、どういう意味?)



私は一度スマホを置いて、深呼吸した。


落ち着け。


これは、立場の話。

そうに決まってる。


成田は会長になって、これから色々やる。

だから自分の側に、止める役が必要。


つまり、私の慎重さと理屈とブレーキが必要。


ここまでは分かる。


……分かるけど。


(欲しい、って言い方)


(側、って言い方)


(必要、って繰り返し)


そのせいで、

普通の頼みごとに見えなくなっている。



洗面所に行って顔を洗う。


冷たい水で目が覚めるはずなのに、

頭の中は逆にうるさくなった。


鏡に映る自分の顔は、いつも通り。

なのに目だけが落ち着かない。


(……成田は、無自覚なんだろうな)


たぶん。


本人は「会長として必要な人材を確保する」くらいのつもりだ。

いや、むしろそれしか考えていない。


それが、成田旭という人間だ。


でも受け取る側は、そうは見えない。



制服に着替えて、鞄を持つ。


それでもスマホは、まだ未読のままだった。


既読をつけるだけで、

何かが動いてしまう気がした。


(……何を恐れてるのよ)


自分に言い聞かせる。


私は風紀委員長。

私は候補者で成田の敵だった。


たった一通のメッセージに、揺れる理由なんてない。


……ないはずだ。



結局、私は画面を開いて既読をつけた。


「既読」


小さな文字が表示される。


それだけで、逃げ道が消えた気がした。


返信欄を開く。


何と返すべきか、分からない。


断る?

怒る?

呆れる?


どれも違う。


まず確認しないと、何も決められない。


私は短く打った。


——


「……それって立場の話?

それとも個人的な話?」



送信ボタンを押して、スマホを鞄に入れる。


玄関で靴を履きながら、ふと思った。


(……もし、立場の話じゃなかったら)


その考えが浮かんだ瞬間、

すぐに打ち消す。


(ない。そんなの)


(成田がそんな器用なことできるわけない)


そう思うのに、

胸の奥が少しだけ熱い。


……最悪だ。



家を出る。


朝の空気が冷たい。


今日は金曜日。

投票が終わって、もう「次」の日だ。


なのに。


たった一通の文のせいで、

私は自分の立ち位置を見失いそうになっていた。


(……落ち着け)


(私は、簡単に味方にならない)


そう心の中で繰り返しながら、

学校へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ