第三十二話 お前が必要だ
選挙の日の夜。
俺のスマホの画面には、入力途中の文章が表示されている。
——
For【@鷹宮】
あのさ。
正直、まだ実感ないんだよね。
でも一つだけはっきりしてることがある
今後は俺一人じゃ絶対に回らないでしょ?
当たり前だけど。
だから、お前が欲しい。
——
一度書いて読み返した後に少し考える。
(欲しい、って言い方強いかな?)
(でも?人材として、って意味だしな)
特に気にせずに文を書き続ける。
——
お前が必要だ
——
うん。
要件は明確だ。
他に解釈の余地もたぶんない。
——
鷹宮の慎重さも理屈もブレーキも
全部、今の俺には必要だ。
だから俺の側にいて欲しい。
——
一度、最初から読み返す。
(……普通だな)
(むしろ分かりやすい)
これを送って
問題になる理由が、
思い浮かばない。
演説で言った通りだ。
逃げない。
必要なことは言う。
親指が、
迷いなく動く。
【@鷹宮 へ送信しました】
そうしてスマホをベッドに置く。
(これは断られても仕方ない)
それくらいの気持ちだ。
——
少しアニメを見た後にベッドに横になる。
天井をぼんやりと眺める。
(……副会長になってくれたら助かるんだけどな)
それだけ。
⸻
送ってから二時間ほど経ったが、スマホは依然と沈黙している。
既読もつかない。
(まあ、今日は疲れてるよな)
そう納得して俺は目を閉じた。
——
この夜。
俺は、自分がとんでもなく
誤解されうる文章を送ったことに
なぜか最後まで気づかなかった。




