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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第二章 セカンドアタック
31/71

第三十一話 負けた人間でいさせて

夜の校舎は、静かだった。


窓に映る自分の姿が、

やけに輪郭だけはっきりして見える。


——負けた。


その事実は、

もう何度も頭の中で反芻した。


でも、

感情はまだ追いついていない。



家に帰っても、

制服を脱げなかった。


椅子に腰掛け、

鞄を床に置いたまま、

ただ天井を見上げる。


(……二百四十三票)


少なくない。

でも、足りなかった。


(私の言葉は届いた)


それは分かる。


拍手もあった。

聞いていた視線もあった。


(それでも大勢には選ばれなかった)


そこが、

一番重い。



机の上には、

選挙用にまとめた資料が残っている。


改革案。

段階表。

想定リスク。


——どれも間違ってはいない。


(私は正しかった)


そう思う。


でも同時に、

別の考えが顔を出す。


(……それだけで足りた?)


言葉にした瞬間、

胸の奥が少し痛んだ。



成田の顔が、

頭に浮かぶ。


壇上で、

少し噛みながら。


失言を認め、

頭を下げて。


(……あの人は、

 自分の未熟さを

 隠さなかった)


それが、

正解だったのか。


(いや)


(危険だ)


(無責任だ)


反射的に、

そう否定する。


でも。


(……それでも)


(人は、

 そっちを選んだ)



ベッドに倒れ込む。


天井のシミを、

ぼんやりと見つめる。


『秩序と安定』


それらは、

今も大事だと思っている。


(私は、

 間違っていない)


でも。


(……私は、

 誰の味方だった?)


その問いが、

ふいに浮かんだ。


先生か。

学校か。

制度か。


それとも——

生徒か。



風紀委員長として、

正しいことをした。


校則を守り、

秩序を維持し、

混乱を抑えた。


それは、

誇りだ。


でも。


(成田は、

 誰の味方だった?)


考えなくても、

答えは出る。


(……生徒だ)


自分も、

そう言ってきたはずなのに。



布団に顔を埋める。


(……悔しい)


ようやく、

本音が出た。


負けたからじゃない。


否定されたからでもない。


(……選ばれなかった)


その事実が、

こんなにも重いとは思わなかった。



スマホが、

枕元で震えた。


通知。


一瞬、

誰か分かる。


——成田旭。


指が......動かない。


開けない。


開いたら、

何かが変わってしまう気がした。


(……今は無理)


画面を伏せる。


そして灯りを消す。


暗闇。


今日一日を、

もう一度なぞる。


拍手。

数字。

視線。


そして、

彼の背中。


(……夜は、

 考えすぎる)


そう自分に言い聞かせて、

目を閉じる。


明日になれば、

また役割がある。


風紀委員長としての、

私が。


でも。


今夜だけは。


——ただの、

負けた人間でいさせてほしい。


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