第二十七話 今日は何もない日!
今日は何もない日!
目覚ましは鳴らない。
制服も着ない。
風紀委員長としての仕事もない。
土曜日。
それだけで、
少しだけ気が緩む。
……でもそれが、嫌だった。
「……はぁ」
ベッドから起き上がり、
カーテンを開ける。
いつもと同じ街。
いつもと同じ空。
なのに、
自分だけが取り残されている感じがする。
⸻
私服に着替える。
動きやすい服。
目立たない色。
癖で、
鏡の前で姿勢を正す。
……意味がない。
今日は、
誰にも見られない。
「……」
無意識に、
スマホを手に取る。
通知は、
特にない。
選挙のことを考えるな。
今日は考えないと、
決めた。
成田の顔が、
一瞬浮かぶ。
すぐに、
振り払う。
(今日は、関係ない)
⸻
午前中は、
特に目的もなく外に出た。
人の多い場所を、
避ける。
駅前は、
なるべく通らない。
——はずだった。
スーパーへ行く途中、
どうしても通る道。
駅前。
「……」
足が、
一瞬だけ止まる。
嫌な予感。
こういう時、
だいたい当たる。
⸻
怒号が聞こえたのは、
次の瞬間だった。
「やめてください!」
「金出せっつってんだろ!」
……ああ。
やっぱり。
視線を向けると、
予想通りの光景。
数人の不良。
壁際に追い込まれた男子。
迷いは、
一切なかった。
体が、
勝手に動く。
「おい兄ちゃんたち?何してんだい?」
自分の声が、
やけに低く聞こえた。
そして、
殴っていた。
考えてない。
判断もしてない。
ただ、
止めるために最短の方法を選んだ。
拳が当たる感触。
骨じゃない。
筋肉。
問題ない。
二人目。
三人目。
誰も、
立ち向かってこなかった。
……当然だ。
⸻
全部が終わったあと、
ようやく息を吐く。
「……」
あの不良共が、
逃げるように去っていく。
その時。
「......あの〜?」
声。
……聞き覚えが、ありすぎる。
振り返らなくても、
分かる。
(……成田旭!?!?)
最悪だ。
心の中で、
はっきりそう思った。
見られた。
しかも、
あのタイミング。
(……制服じゃなくて良かった)
それだけが、
救いだった。
「ほな」
その一言を残して素早く駅とは反対方向へ歩き始めた。
心臓が、
少しだけ早い。
⸻
夜。
部屋に戻って、
ベッドに腰を下ろす。
拳を見る。
赤くもない。
腫れてもいない。
「……」
ため息が、
自然に出た。
今日は、
何も起きない日で
あるべきだった。
なのに。
(……私何やってるんだろ)
制服を着ていない時まで秩序を背負って。
殴って。
見られて。
——しかも、
一番面倒な相手に。
天井を見つめる。
「……気のせいよね」
そう呟く。
でも。
頭の中に浮かぶのは、
驚いた顔の成田旭。
(……あれ、
バレてないよね)
答えは、
出なかった。
土曜日は、
まだ終わっていない。
そして、
たぶん。
月曜日は、
もっと面倒になる。
そんな予感だけが、
静かに残っていた。




