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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第一章 ファーストアタック
26/71

第二十六話 真昼とのんびりデート

土曜日。


目覚ましをかけていない朝は、

それだけで少し救われた気分になる。


スマホを見ると、

メッセージが一件。


真昼:

もう起きてる?

予定通りでいい?


真昼からだった。


「そろそろ家出ないといけないのか」


重い体を動かしながら返信した。


俺:

起きてる

いつもの駅集合でいい?


真昼:

そそ!


さて。

朝飯食べて行くか!



駅前。


改札の前で、

真昼はもう待っていた。


「おはよ旭!」


「早くない?」


「ちょっと早く目覚めちゃって」


そう言って、

いつもの調子で笑う。


制服じゃない真昼は、

少しだけ別人みたいだ。


「なぁ真昼、今日何するんだっけ」


「え、忘れたの?」


「いや、忘れてないけど」


「じゃあ言ってみて」


「……甘いもの巡り?」


「正解〜!」


満足そうに頷く。


「俺さ

 新しくできたクレープ屋、

 行ってみたかったんだよね」


「女子か!」


「うっせ」


軽く肘で突かれた。


「ホームはこっちかな?」


「うん」


そう、俺はとても趣味が一般の男子高校生とは思えないくらい女子なのだ。

全部真昼のせいだ!



思ったより人が多かった。


家族連れ。

カップル。

犬を連れた人。


——普通の土曜日。


それが、

妙に新鮮だった。


「どれにする?」


クレープ屋の前で、

真昼がメニューを見上げる。


「悩むな……」


「旭、いちご苦手だっけ?」


「別に嫌いじゃない」


「じゃあ半分こしよ」


勝手に決められる。


「はい、

 チョコバナナと

 いちごクリーム」


「ありがとう真昼。

 お金払うよ」


「いいよ、今日は」


「今日は?」


「今日は」


意味は、

聞かない。



ベンチに座って、

クレープを分ける。


紙越しに、

指が触れた。


「あっ///」


「……」


「……今の、なし」


「今の、ありだろ」


「なし!」


顔を赤くして、

クレープに集中する。


……かわいいなぁ。


「なに」


「いや」


言うと怒られそうだから、

やめた。



しばらく歩いて、

デパートに入る。


「これ、どう思う?」


真昼が、

キーホルダーを見せてくる。


「普通」


「即答ひどくない?」


「正直だろ」


「もうちょっと

 考えてから言いなさい」


「じゃあ……」


少し間を置く。


「真昼っぽい」


「それ、

 褒めてる?」


「たぶん」


「たぶんって何」


笑う。


俺も、

つられて笑う。



気づけば、

昼を過ぎていた。


「そろそろ帰る?」


「そうだな」


駅へ向かう道。


沈黙が、

心地いい。


「……今日さ」


真昼が、

ぽつっと言う。


一瞬、

身構えそうになる。


でも。


「楽しかった」


それだけだった。


「俺も」


即答。


「よかった」


それ以上、

何も言わない。


聞かない。

踏み込まない。


今は、

それでいい。


そうして平和な一日が終わるかと思っていたが、駅へ行こうとした時、突然怒号が聞こえた。


「てめぇ何すんだよこの野郎!」


「は?あんたこいつのことカツアゲしてたやろ?」


ガラの悪い不良たちが誰かをカツアゲしてたところをまた別の女不良が止めに入ったみたいだ。


ガラの悪い不良が誰かを壁際に追い込んでいる。

そこへ、女不良が割って入ったように見えた。


……いや。


違う。


止めに入ったのは、

不良でもなんでもなさそうな普通の女だった。


次の瞬間だった。


「うっせぇな」


低い声。


そして――

拳が飛んだ。


鈍い音。


不良の顔が横に弾け、

体がよろける。


「……は?」


何が起きたのか、

全員が一瞬理解できなかった。


「何見とんねん」


女は、

間合いに入ったまま言った。


もう一発。


今度は腹。


短く、

無駄のない動き。


「がっ……!」


不良が膝をつく。


「てめ――!」


別の不良が掴みかかろうとした瞬間、


肘。


首元。


引き倒し。


アスファルトに、

背中から叩きつけられる。


「……ッ!!」


一切、

言葉が追いついていない。


女は、

呼吸も乱さない。


「人数おるから

 イケると思った?」


しゃがみ込み、

倒れた不良の胸倉を掴む。


「残念だなぁ」


低く、

静かに。


「喧嘩売るやつ、間違えたなぁ?」


女はニヤけながら言う


拳を、

ほんの少しだけ引く。


それだけで、

不良の顔が引きつった。


「金は...これです...」


震えた声。


「最初から

 そうせぇや」


突き飛ばす。


「とっとと帰れ!」


女が不良たちへそう叫び蹴り飛ばした。


不良たちは、

互いに支え合いながら

逃げるようにその場を離れた。


残ったのは、

重たい沈黙だった。



カツアゲされていた男子が、

呆然と立ち尽くしている。


「……帰り」


女は、

短く言う。


「ちゃんと気をつけるんやぞ」


「……は、はい!」


男子が頭を下げ、

走り去る。


女は、

ようやく立ち上がった。


その横顔を、

街灯が照らす。


俺は――

なぜか、

目が離せなかった。


「……あの」


思わず声が出る。


女が、

こちらを見る。


目が合った瞬間、

背筋がひやっとした。


鋭い。

距離の取り方。

無意識に周囲を確認する視線。


(……あれ?)


胸の奥で、

何かが噛み合う。


「……もしかして」


言いかけた瞬間、

女はもう背を向けていた。


「ほな」


それだけ言って、

駅とは反対方向へ歩き出す。


歩き方が――

あまりにも見覚えがある。


背筋。

歩幅。

無駄のなさ。


「……旭?」


隣で、

真昼が小声で呼ぶ。


「今の人、

 知ってるの?」


「……いや」


目を離せないまま、

答える。


「分かんない」


でも。


心臓が、

変に騒いでいる。


(……どっか見覚えある奴だな)


そう思った瞬間、

女は雑踏の中に消えた。



真昼の最寄りの改札前。


「じゃあ、また」


「またな」


手を振る。


改札を通る直前、

真昼が振り返る。


「旭」


「ん?」


「……明日も、

 ちゃんと寝なよ」


「努力する」


「努力じゃなくて、

 寝るの」


笑って、

改札の向こうへ消えた。



帰りの電車。


窓に映る自分の顔が、

少しだけ柔らかい。


今日は、

何も変えなかった。


何も決めなかった。


でも。


こういう日がないと、

たぶん、

俺は折れる。


次に向き合う現実のために。


休日は、

これでいい。

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