第二十五話 数値工作
正直に言えば、
この数字を見た瞬間、嫌な予感はしていた。
改革の会・鷹宮澪 約四十%
自治の会・成田旭 約四十五%
改革の会・東雲美久 約十%
未定 約五%
——荒れる。
それも、
取り返しがつかない形で。
「……これは、そのまま出せないだろうな」
新聞部室で、
思わずそう呟いた。
事実だ。
でも、事実だからこそ危険だった。
そして、生徒指導の高橋先生にこのことを伝えると放課後に生徒指導室で話し合うこととなった。
⸻
約束の生徒指導室。
相手は、
生徒指導主任・高橋先生。
「柏原」
指導の時とは違う優しい声で呼んできた。
呼び出しの原因は
机の上に置かれた資料だろう。
「この数字、掲載予定なのか?」
「はい」
逃げ場はない。
「これを出したら、
学校はどうなると思う?」
……来た。
「まずいんですか...?」
「そうだ」
高橋先生は、
穏やかに頷く。
「特にこの二人」
名前は出ない。
でも、誰のことかは明白だった。
「過激な改革論者と、秩序を揺さぶる風紀委員長の一騎討ち」
「今、学校が一番避けたい構図だ」
俺は、
何も言えなかった。
「お前たちに嘘を書けとは言わない」
高橋先生は、
はっきり言った。
「でも」
一拍。
「学校を平和に保つために多少のことはすべきだと思わないか?」
それは、命令だった。
⸻
部室に戻る。
副部長の東雲が、
こちらを見る。
「……どうでした?」
私は、
一度だけ目を伏せてから言った。
「方針を変える」
「え?」
「支持率の定義を見直す」
言葉を選ぶ。
「“今すぐ投票したいか”を重視」
「“不安がある”は
明確なマイナス」
「様子見は、
未定に回す」
東雲が、
唇を噛んだ。
「……それって!!」
「いいんだ。お前も支持率が高い方がいいだろ?」
即答した。
それが、
一番苦しかった。
⸻
集計結果は、
予想通りだった。
改革の会 鷹宮澪 二十%
改革の会 東雲美久 六十%
自治の会 成田旭 十%
未定 十%
真実は、誰にも見せない。
「……部長」
誰かが、
小さく声を出す。
「俺たち、
正しい報道をやってますよね?」
……やめてくれ。
「やってる」
俺は、
即答した。
「だからこそ、
空気を読む」
それが、
言い訳だと分かっていても。
⸻
翌朝。
掲示板に、
新しい紙面が貼られた。
生徒会長選挙・最新情勢
改革の会・東雲美久 六十%
改革の会・鷹宮澪 二十%
自治の会・成田旭 十%
未定 十%
ざわめき。
数字が、
一人歩きを始める。
「……これで、
学校は静かになる」
誰に向けてでもなく、
そう呟いた。
でも。
胸の奥に、
小さな棘が残る。
(あいつらが、
この数字を
“事実”として受け入れるとは
思えない)
選挙まで、
あと六日。
数字は、
嘘をつかない。
——ただ、
語らないことを選ぶだけだ。




