第二十四話 あと七日
選挙まで、あと七日。
校内の空気は、
もう曖昧さを許していなかった。
誰が正しいかじゃない。
誰が危険かを見極める段階だ。
⸻
「合同演説会をやりましょう」
そう言い出したのは、
鷹宮だった。
放課後の空き教室。
窓から差す夕日が、やけに赤い。
「……合同?」
思わず聞き返す。
「協力するって意味じゃないわ」
鷹宮は即答した。
「お互いを批判する」
「公開で」
一瞬、言葉を失った。
「それ、
俺にとっても
お前にとっても
得じゃないだろ」
「いいの」
視線が、真っ直ぐだった。
「このまま黙ってたら、
“裏で繋がってる”って
勝手に物語を作られる」
「あー......それなら」
一拍。
「正面から割れましょ?」
……覚悟、決まりすぎだろ。
「分かった」
俺も、頷いた。
「遠慮はしないからな」
「それでいいです」
⸻
大講義室は、
予想以上に埋まっていた。
立ち見。
廊下。
入口の外。
——野次馬じゃない。
判断しに来ている目だ。
壇上に、
俺と鷹宮が並ぶ。
それだけで、
ざわめきが走る。
「先に話すわ」
マイクを取ったのは、
鷹宮だった。
「私は、
成田さんのやり方はとても危険です」
いきなりだ。
「彼は、
正義感が強すぎます」
「言葉が鋭く、
配慮が足りないと思います」
ざわつく会場。
「実際、
彼の発言がきっかけで
混乱や事件が起きました」
「それは事実ですよね?成田さん」
逃げない。
彼はコクっと頷いた。
「だから私は、
彼を“危険な候補”だと
思っています」
完全に、
批判だ。
「ただし」
一拍。
「彼は、
自分の正しさを
“裏で通そう”とはしない」
「正面から言う」
「それは、
評価しています
以上です」
……複雑な拍手。
俺は、
マイクを受け取った。
「じゃあ次、俺な」
深呼吸。
「俺は、
鷹宮を信用できません」
どよめき。
「こいつは、
秩序を守るためなら
なんでもするやつです」
「実際、
俺も何度か
やられました」
鷹宮の眉が、
わずかに動く。
「確かに正しいですよ?」
認める。
「でも」
声を強める。
「正しさだけで
学校は回らないです」
「失敗を恐れて、
何も変えなければ」
「それは、
衰退じゃないんですか?」
一拍。
「俺は、
鷹宮の“守る姿勢”が
今の学校を
息苦しくしてると思ってる」
完全に、
批判だ。
会場が、
静まり返る。
「でも」
続ける。
「こいつは、
ズルを嫌う」
「それだけは、
本当だ」
「だから」
視線を向ける。
「俺は、
こいつと
正面から戦いたいと思います。
どちらに票を入れるかは明白なはずです。
以上です」
拍手が起きた。
賛同でも、
応援でもない。
納得の音だった。
⸻
その日の夜。
学校は、
動いた。
翌朝、
掲示板が更新される。
生徒会長選挙
新立候補者発表
名前を見て、
嫌な予感が的中する。
東雲美久
二年生/新聞部副部長
写真付き。
笑顔。
無難。
安心感。
「……なるほどな」
鷹宮が、
小さく呟く。
「私じゃ、危なすぎるって判断ね...」
新聞部。
情報。
世論。
最初から、
“管理できる正しさ”。
選挙は、
二人の対立から。
三つ巴になった。
選挙まで、
あと六日。
ここからは、
一筋縄じゃ行かない。




