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アサガオが咲くときまで  作者: 筑波みらい
第一章 ファーストアタック
22/71

第二十二話 偏向報道

あの事件から一週間後

貼り替えられた紙面を見た瞬間、

胸の奥に小さな引っかかりが生まれた。


生徒会長選挙

成田旭、支持率十五%へ


……十五。


前回は二十。

そこからさらに五も下がる。


数字としては、

「あり得なくはない」。


でも。


「……おかしい」


私は、小さく呟いた。


理由は論理的じゃない。

経験がそう言ってる。


風紀委員会として、

私は毎日校内を見ている。


廊下の会話。

教室の空気。

委員から上がってくる雑多な報告。


確かに、成田旭への風当たりは強い。

だが――


支持が消えてはいない。


沈黙している層がいる。

声を上げないだけの層が。


「十五%は……低すぎる」



放課後、

私は委員会室で資料を広げた。


・各クラスでの反応

・選挙の話題が出た頻度

・肯定/否定の比率


簡易的だが、

偏りのない数字。


「……やっぱり」


計算結果は、

私の直感を裏切らなかった。


約四十%。


上下に誤差はある。

でも、十五%とは比べものにならない。


「……切り取りね」


数字を捏造したわけじゃない。

でも、見せたい部分だけを集めている。


これは、

報道じゃない。


操作だ。



このまま独断で動くこともできた。


でも。


「……当事者を外すのは、違う」


私は、

成田旭を呼び出した。



「十五%?」


成田は、紙面を見て眉をひそめた。


「前より、下がってるな」


「下がりすぎよ」


私は即答した。


机に、

メモを置く。


「風紀委員会で拾ってる反応を

 加重して出した」


「沈黙層を含めると、

 支持は三五〜四五%」


「十五は、

 誤差じゃ説明できない」


成田は、

しばらく黙ってから言った。


「……つまり」


「新聞部は、

 反対派中心で取ってる」


「質問も、

 不安を誘導する形」


「意図的よ」


成田は、

短く息を吐いた。


「なるほどな」


怒りはない。

納得の声だった。


「……行こう」


「新聞部?」


「このまま黙ってたら、

 数字が事実になる」


「それは、

 俺の問題でもある」


私は、

一瞬だけ考えてから頷いた。


「分かった」


「二人で行く」


「当事者がいない抗議は、

 圧力にしかならないから」


成田は、

少しだけ笑った。


「相変わらず、

 筋を通すな」


「仕事だから」


「ありが——」


成田の声を遮って私は口を開いた。


「ちなみに言っておくけど、あんたのこと助けたいわけじゃないからね。感謝しないで」


「あ、はい...」


新聞部室の前。


扉一枚隔てた向こうから、

話し声が聞こえる。


「覚悟はいい?」


私が聞くと、

成田は短く答えた。


「逃げない」


ノックする。


「風紀委員会です」


返事を待たず、

ドアを開けた。


空気が、

一瞬で凍る。


柏原が立ち上がった。


「用件は?」


私は、

机の上の紙面を指差す。


「支持率十五%の記事について」


「調査方法と

 サンプルの提示を求めます」


柏原の視線が、

成田に移る。


「……本人まで連れてきたのか」


「当たり前でしょ」


私は言い切った。


「彼は、

 この記事の当事者」


成田が、

一歩前に出る。


「俺は、

 数字に文句を言いに来たわけじゃない」


静かな声。


「どう取ったかを

 知りたいだけだ」


沈黙。


逃げ場は、

もうない。


私は、

確信していた。


この瞬間から、

この選挙は変わる。


人気じゃない。

情報と権力の問題になる。


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