第二十二話 偏向報道
あの事件から一週間後
貼り替えられた紙面を見た瞬間、
胸の奥に小さな引っかかりが生まれた。
生徒会長選挙
成田旭、支持率十五%へ
……十五。
前回は二十。
そこからさらに五も下がる。
数字としては、
「あり得なくはない」。
でも。
「……おかしい」
私は、小さく呟いた。
理由は論理的じゃない。
経験がそう言ってる。
風紀委員会として、
私は毎日校内を見ている。
廊下の会話。
教室の空気。
委員から上がってくる雑多な報告。
確かに、成田旭への風当たりは強い。
だが――
支持が消えてはいない。
沈黙している層がいる。
声を上げないだけの層が。
「十五%は……低すぎる」
⸻
放課後、
私は委員会室で資料を広げた。
・各クラスでの反応
・選挙の話題が出た頻度
・肯定/否定の比率
簡易的だが、
偏りのない数字。
「……やっぱり」
計算結果は、
私の直感を裏切らなかった。
約四十%。
上下に誤差はある。
でも、十五%とは比べものにならない。
「……切り取りね」
数字を捏造したわけじゃない。
でも、見せたい部分だけを集めている。
これは、
報道じゃない。
操作だ。
⸻
このまま独断で動くこともできた。
でも。
「……当事者を外すのは、違う」
私は、
成田旭を呼び出した。
⸻
「十五%?」
成田は、紙面を見て眉をひそめた。
「前より、下がってるな」
「下がりすぎよ」
私は即答した。
机に、
メモを置く。
「風紀委員会で拾ってる反応を
加重して出した」
「沈黙層を含めると、
支持は三五〜四五%」
「十五は、
誤差じゃ説明できない」
成田は、
しばらく黙ってから言った。
「……つまり」
「新聞部は、
反対派中心で取ってる」
「質問も、
不安を誘導する形」
「意図的よ」
成田は、
短く息を吐いた。
「なるほどな」
怒りはない。
納得の声だった。
「……行こう」
「新聞部?」
「このまま黙ってたら、
数字が事実になる」
「それは、
俺の問題でもある」
私は、
一瞬だけ考えてから頷いた。
「分かった」
「二人で行く」
「当事者がいない抗議は、
圧力にしかならないから」
成田は、
少しだけ笑った。
「相変わらず、
筋を通すな」
「仕事だから」
「ありが——」
成田の声を遮って私は口を開いた。
「ちなみに言っておくけど、あんたのこと助けたいわけじゃないからね。感謝しないで」
「あ、はい...」
⸻
新聞部室の前。
扉一枚隔てた向こうから、
話し声が聞こえる。
「覚悟はいい?」
私が聞くと、
成田は短く答えた。
「逃げない」
ノックする。
「風紀委員会です」
返事を待たず、
ドアを開けた。
空気が、
一瞬で凍る。
柏原が立ち上がった。
「用件は?」
私は、
机の上の紙面を指差す。
「支持率十五%の記事について」
「調査方法と
サンプルの提示を求めます」
柏原の視線が、
成田に移る。
「……本人まで連れてきたのか」
「当たり前でしょ」
私は言い切った。
「彼は、
この記事の当事者」
成田が、
一歩前に出る。
「俺は、
数字に文句を言いに来たわけじゃない」
静かな声。
「どう取ったかを
知りたいだけだ」
沈黙。
逃げ場は、
もうない。
私は、
確信していた。
この瞬間から、
この選挙は変わる。
人気じゃない。
情報と権力の問題になる。




