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アサガオが咲くときまで  作者: 白石白
第一章 ファーストアタック
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第十八話 生徒指導

生徒指導室は、思ったより静かだった。


机が一つ。

椅子が二つ。

壁には、色あせた標語。


あの後、結局先生に呼び出された。


「座れ」


短く言われ、

俺は椅子に腰を下ろした。


正面にいるのは、宮本先生ではなく生徒指導主任。

名前よりも、

「話が通じない人」として有名な先生だ。


「……で」


先生は、書類を机に置いた。


「分かってるな?」


「……暴行事件の件、ですよね」


「そうだ」


一拍。


「お前が煽動したんだろ?」


いきなり、核心。


「煽ってません」


反射的に言い返す。


「殴れなんて、一言も言ってないです」


「言ってないな」


先生は、あっさり認めた。


「だが」


視線が、鋭くなる。


「“恐れるな”“戦え”

 これは言ったな?」


「……はい」


「誰に?」


「生徒に、です」


「何人?」


「おそらく二百人以上......」


「場所は?」


「……大講義室です」


一つ一つ、

逃げ道を潰してくる。


「つまり」


先生は、淡々と言う。


「半分公的な場で、影響力のある立場の生徒が、

 “戦え”と言った」


「それを聞いた生徒が、

 翌日、教師に暴力を振るった」


「ここまで、

 事実だな?」


「……はい」


喉が、

やけに乾く。


「じゃあ聞く」


先生は、身を乗り出した。


「お前は、

 止めたか?」


「……」


「暴力を否定したか?」


「……途中で」


「途中で、だ」


即座に切られる。


「止める気があったなら、

 最初に言え」


「……」


「“戦え”の前に、

 “暴力は許さない”と

 言えたはずだ」


「でも!」


声が、思わず大きくなる。


「俺は、言論の話をしてたんです!」


「知ってる」


先生は、即答した。


「だからこそ、

 罪が重い」


「……は?」


頭が、追いつかない。


「お前は、

 言葉の力を知ってるか?」


「はい。時には人を殺せるものです」


「......それを分かってて、責任を取らないつもりか?」


「取れって……」


俺は、言葉を探す。


「俺が殴ったわけじゃ――」


「じゃあ、

 誰が責任を取る?」


先生は、遮った。


「殴った生徒?」


「教師?」


「それとも、

 “恐れるな”と言ったお前か?」


沈黙。


心臓の音が、

やけに大きい。


「……俺は」


絞り出す。


「変えたかっただけです」


「何を?」


「この学校を」


「どうやって?」


「……」


答えられない。


「秩序を壊して?」


「混乱を起こして?」


「誰かが傷ついても?」


一つ一つ、

胸に突き刺さる。


「それは改革じゃない」


先生は、静かに言った。


「ただの無責任な破壊行動だ」


「……っ」


視界が、少し揺れる。


「お前はな」


先生は、椅子にもたれた。


「自分が矢面に立てる人間だ」


「でもな」


一拍。


「世の中には、

 矢面に立ったら折れる人間の方が多い」


「それを前に出した」


「守れる覚悟もなく」


……鷹宮の言葉が、

頭をよぎる。


『全員が、あなたみたいに強くない。』


「……俺は」


声が、震える。


「どうすれば良かったんですか」


先生は、

少しだけ黙った。


「黙れ」


その一言で、

体が硬直する。


「今は、

 答えを求めるな」


「お前はまず、

 自分が何をしたか

 理解しろ」


書類を、

俺の前に突き出す。


「これは、

 被害に遭った教師の報告書だ」


「これは、

 加害生徒の反省文だ」


「そしてこれは」


一枚、追加される。


「お前の発言記録だ」


「……」


文字が、

にじんで読めない。


「成田」


初めて、

名前を呼ばれた。


「お前は、

 正しいかもしれない」


「でも」


視線が、

真っ直ぐ刺さる。


「正しいだけの人間は、

 一番人を壊す」


その言葉で、

何かが、完全に折れた。


「……」


何も言えなかった。


泣くことすら、

できなかった。


ただ、

俯くしかなかった。


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