第十二話 ゴシップ
新聞部の部室は、今日もやけに明るかった。
蛍光灯の下、
ホワイトボードに書いた数字を、俺――柏原亮はもう一度見直す。
間違った報道は許されない。
「……一ヶ月後か」
生徒会長選挙まで、残り一ヶ月。
正直、今年は静かな選挙になると思っていた。
少なくとも、中央生徒評議会までは。
「で、現時点の支持傾向はこれ」
俺はボードを指で叩く。
•現生徒会系(改革の会):約四十五%
•成田旭(生徒自治の確立を目指す会):約三十%
•未定・無関心:約二十五%
「……思ったより、成田さん人気なんだな」
部員の誰かが言う。
俺も同感だった。
正直、俺は成田はもっと“泡沫”だと思っていた。
声は大きいが、支持は広がらないタイプ。
――でも、違った。
「中央会議での一件、かなり効いてる」
一年生からも反応がある。
それが何よりの証拠だ。
「ただし」
俺は、ペンを持ち直す。
「この数字は、今この瞬間の話だ」
部室が静まる。
「おそらく成田は、嫌われるのも早い」
これは偏見じゃない。
データからの推測だ。
正論を言う人間は、
支持も集めるが、反発も同じ速度で生む。
「“自治”って言葉、引っかかる人も多い」
「正論だけど、正論って面倒だよな」
誰も否定しない。
俺は、未定層の円を指す。
「問題はここ。二十五%もいる」
「多すぎじゃね?」
「高校生の選挙だぞ。むしろ少ないくらいだ。」
無関心。
でも、投票はする。
「この層が動いた瞬間、予測の数字は一気に崩れるだろうな」
「どっちに?」
「両方に、だ」
沈黙。
俺は、心の中で結論を整理する。
――今、有利なのは誰だ?
答えは簡単だ。
「現時点では、“何もしない側”が強い」
「現生徒会の”改革の会“か」
「そう。人は変化を嫌う」
数字は、正直だ。
「じゃあ、成田が勝つ条件は?」
俺は、ボードに三つ書く。
一.未定層をどれだけ拾えるか
二.「自治」が危険じゃないと示せるか
三.嫌われる前に、信頼を積めるか
「逆に言えば」
ペンを止める。
「一度でも“問題児”のラベルが貼られたら、
終わる」
そのとき、誰かが言った。
「……風紀委員会次第だな」
俺は、ゆっくり頷く。
「特に――」
頭に浮かぶ名前は一つ。
「鷹宮澪」
空気が変わる。
「彼女が止めに回ったら?」
「未定層は流れる」
「もし、成田の話を“制度の問題”として受け止めたら?」
俺は、正直に言う。
「この選挙、本当に分からなくなる」
そのとき、ドアがノックされた。
「失礼します」
一年の部員が顔を出す。
「あの!成田先輩、さっき廊下で真昼先輩と一緒にいました」
「……で?」
「顔、めっちゃ赤かくてモジモジしてました」
赤い?
俺は、思わず笑いそうになるのを堪えた。
――ああ、来たな。
「それ、関係あります?」
部員が首を傾げる。
「大アリだ」
俺は、ボードを消しながら言った。
「選挙は、数字だけじゃ決まらない」
感情。
噂。
誤解。
そういう“ノイズ”が、一票を動かす。
「特に、高校の選挙はな。...いやぁこれは面白いゴシップだ!」
(クックック...支持率下げてやる!)
窓の外で、夕日が沈み始めていた。
一ヶ月後。
この学校は、思ったより荒れるだろう。
そして――
それを記事にするのが、俺たちだ。




