第一話 疑問
生徒会。
それは“学校運営を任される強大な権力組織”――というのはアニメでの話だ。
現実の生徒会なんて、ただの先生の雑用係にすぎない。
しかもメンバーは、真面目なやつか、気が弱くて断れないやつが大半だ。
つまり何か新しいことをやろうとしても、先生の「それは無理」の一言で全部おしまい。
そんな組織、必要あるのか? 少なくとも俺はそう思っている。
……そう思うようになったのは、つい最近のことだ。
昼休み。いつものように幼馴染の白石真昼と弁当を食べていたとき、
「なぁ真昼。お前、生徒会メンバーだったよな?」
「うん。そうだけど、どうしたの?」
「いやさ。今の会長の公約って“靴下の色追加”だよな?」
現生徒会長の姫宮瑠奈は、選挙期間中それを大々的に掲げて当選した。
だが――。
「そうなんだけどね〜。でも先生に言ったら『お金がかかるから無理』って返されちゃってさ〜」
「まぁ、実際そうだよな」
真昼はため息をつき、箸を置いた。
「生徒会ってさ、イベント運営とか面倒な仕事だけ押しつけられるのに、公約の一つすらまともに取り合ってもらえないんだよねぇ……」
真昼がぼそっとそう言った瞬間、
胸の奥で何かが引っかかった。
「……公約、通らないのが普通ってことか?」
「うん。というか……通るわけない、って先輩たちも言ってたよ。先生に反対されたら終わりだし」
「じゃあ、生徒会長って何する職なんだ?」
「うーん……“先生の言うことを生徒に伝える係”?」
「それ、生徒会って言う意味ある?」
思わず眉をひそめる。
真昼は気まずそうに笑った。
「いやぁ〜...旭?うちの生徒会って“自治”とか言いながら、全然自治じゃないんだよ」
「自治じゃない……ねぇ」
口に出した瞬間、その言葉が妙に重く響いた。
ただの愚痴のつもりが、急に現実味を帯びる。
「旭? どうしたの? 急に黙って」
「いや……なんか、気になってきた」
「何が?」
「生徒会って本当に“生徒のため”に存在してるのか……ってさ」
真昼は目をぱちくりさせたあと、苦笑した。
「旭って、たまに真面目なこと言うよね」
「別に真面目じゃねぇよ。ただ――」
この学校の“当たり前”が、急に許せなくなってきた。
教師が決めて、生徒は従うだけ。
生徒会は雑用で、公約は形だけ。
それをおかしいと思わない風潮が、何よりも気に食わない。
「……なんかムカついてきたなぁ」
「えっ?」
「自治って言うなら、生徒が決められるようにすりゃいいだけだろ」
真昼はぽかんと口を開け、言葉を失っていた。
俺の頭の中では、まだぼんやりとした疑問が、形になり始めていた。
そんなこと、今まで考えたこともなかったはずなのに、
一度気づいてしまうと、もう元には戻れない。
「……なぁ、真昼」
「な、なに?」
「生徒会の規約とか、予算の決め方とかさ……そういうの、どこに書いてあるか知ってる?」
真昼は一瞬きょとんとして、それから首をかしげた。
「え? なんでそんなの知りたいの?」
「いや、別に。ちょっと気になっただけ」
そう言いながら、俺は自分でも分かるくらい、
胸の奥がざわついているのを感じていた。
“気になっただけ”で済むはずがない。
そんなことは、もう分かっている。
この学校の“当たり前”に、
初めて本気で疑問を持ってしまったのだから。
俺は知らなかった。
このときの何気ない昼休みが、
これから始まる面倒で、厄介で、
そして――少しだけ楽しい戦いの始まりになることを。




