悪役令嬢に転生したようですが、聖女の方がよっぽど悪役令嬢っぽいことしてくるんですが…
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した。
何を言っているんだと思われると思うが、本当に悪役令嬢に転生したのだ。
この世界は同人乙女ゲーム「きらわないで」の設定と全く同じ世界観で、周りの人も自分もその登場キャラクターと似通っているとなればもう…そうとしか思えない。
この乙女ゲームにおいて悪役令嬢は五人。
攻略対象も五人。
ヒロインは当然聖女様お一人。
聖女様は平民出身、悪役令嬢の誰かの家に引き取られて義姉妹となる。
そしてハッピーエンドルートでは義姉の婚約者を奪う。
ノーマルエンドルートでは他の婚約者がいない素敵な貴公子…いわゆるサポートキャラクターとくっつく。
バッドエンドルートでは聖女としての仕事に邁進して恋愛に興味を持たない。
ノーマルエンドルートの方がハッピーエンドじゃないかって?
それはそう。
私もそう思ってプレイしてた。
だってハッピーエンドルート以外の場合、悪役令嬢も婚約者を取られて悪役になる必要もなくて、ヒロインと仲良し義姉妹になるし。
ようは平民出身のヒロインが聖女様だからと貴族に引き取られて、調子に乗って義姉の婚約者に手を出すからいけないのだ。
「とはいえ、なぁ」
で、悪役令嬢仲間たちはそれぞれ前世の記憶持ちだった。
それぞれの反応は様々で、悪役令嬢ルートを断固拒否するため知識チートで家の役に立ちヒロインの引き取りを拒否したマリア、悪役令嬢ルートを断固拒否するため知識チートで国の役に立ちヒロインの引き取りを断固拒否したステラ、悪役令嬢ルートを断固拒否するため知識チートで教会の役に立ちヒロインの引き取りを断固拒否したルナ、悪役令嬢ルートを断固拒否するため知識チートで魔国の役に立ち魔国の後ろ盾を得てヒロインの引き取りを断固拒否したリリス。
そしてその四人の頑張りと幸せを邪魔しないため…あと単純な知識不足で知識チートもできなかったのが最後の悪役令嬢、私メアリー。
結果、ヒロインである聖女クリスティアナは私の義妹になった。
ちなみに悪役令嬢連合の婚約者との仲は様々で、マリアは気弱な婚約者をぐいぐい引っ張り回して笑顔を引き出している、ステラは婚約者を常に立てて婚約者を常に気分よくさせてラブラブ、ルナは敬虔な神の信徒である婚約者と共に神を信奉することで婚約者と仲良し、リリスは正直魔王に乗り換えてやろうかと思ったこともあったほど婚約者と拗れていたが…婚約者がそれに危機感を感じてリリスの尻に敷かれるようになって落ち着いてる。
そして私メアリーは、クリスティアナに婚約者を取られるのではないかと不安を感じている程度の関係しか婚約者と築けていない。
でも、一人で悶々としているのも辛くなってきてその苦しさを婚約者…ルイに相談したら。
「なにを今更。僕は君以外を娶る気なんてないよ。忘れたの?子供の頃、ちょっと木登りに失敗しただけで泣いて泣いて捨てないでって縋ってきたの。それ以来捨てられるなんて考えもつかないほど溺愛してきたつもりなんだけど?」
そういえばそうだった。
そんな失敗談もあった。
そしてそれ以降ルイは私に甘くなったのも事実だ。
ああそっか。
愛されてたんだ。
「ルイー…よかったよぉー…」
「はいはい、淑女が簡単に泣かないの。よしよし」
「ルイー、好きー」
「僕も好きだよ、愛してる」
額にキス。
その心地よさに、さらに涙が溢れた。
ちなみに悪役令嬢連合はみんな推しがちょうど婚約者になっていたりする。
なので私メアリーの婚約者ルイも当然私の推しだ。
よかった、きらわれてなくて。
「ねえ、お姉様。いい加減にして」
「え、なに?なんのこと、クリスティアナ…?」
「ルイ様を私に譲ってよ!ルイ様が好きになったのに、ルイ様ったらどれだけ誘惑しても『はしたない』『慎みを持て』『将来の義妹に恋するわけないだろ』って全然靡かない!お姉様が悪いのよ!」
ええ、そう来るかぁ。
どうしようかなと思っていたら、いきなり顔面にファイヤーボールをぶつけられた。
初級魔術で威力は低いとはいえ、いきなり顔面にぶつけられたので防げなかった。
顔が焼け爛れる。
このくらいなら自分の治癒魔術で癒せるけど。
「ふん、醜女になったわね!お姉様にお似合いだわ!ざまぁみなさい!」
そう言って走り去っていく義妹を見送ってから、治癒魔術で自分を癒した。
「お姉様!いい加減してよ!」
「今度は何?」
「ルイ様にあんまりしつこいとストーカーとして突き出すって言われたのよ!?あんまりじゃない」
「あー…」
「それもこれも全部あんたのせいよ!」
いやなんでそうなると思った瞬間、サンダーボルトに打たれた。
中級魔術だ、痛い。
まだなんとか癒せる程度だけど、痛い。
「あんたなんか死んでしまえ!」
そう言って走り去った義妹を見送ってから、私は自分を癒した。
ああ、怖かった。
段々とエスカレートしていく義妹が若干怖いが、さすがに本当に死ぬような上級魔術までは使ってこないだろう。
そう、思っていた。
「なんなのよ!ルイ様に本当にストーカーとして突き出されたんだけど!お父様とお母様にもお姉様を見習ってくれって叱られるし!全部お姉様のせいよ!あんたなんか生まれてこなければよかったのに!」
「ええ…」
「死んでしまえ!」
言うが早いか、ウォーターショットの魔術で全身びしょ濡れにされた後…サンダーボルトに打たれた。
あ、これは死んだなと思いつつ意識を飛ばした。
目が覚めると、今世の自室のベッドの上だった。
身体を起こすと、普通に動く。
全身鏡の前に出たが、身体に異常は見られない。
びしょ濡れの状態でサンダーボルトに打たれたはずなのに、どうして…?
そう思って鏡をまじまじと見つめていたら、婚約者であるルイが部屋に入ってきた。
「あ、起きた。よかった…身体は大丈夫?」
「全然平気だけど…なんでルイがいるの?そもそも今何時?」
「夜も夜中だよ。二時くらいかな。メアリーが倒れたって聞いて急いで駆けつけたんだよ。いつ起きてもいいようにそばにいたんだけど、ちょっとトイレに行ってる間に起きちゃったみたいだね。不安じゃなかった?大丈夫?」
「大丈夫だけど…なんで大丈夫なんだろう」
「それは…」
外からドタドタと足音が複数。
「メアリー!よかった、無事で!不甲斐ない父を許せ!」
「メアリー、ああ、私の可愛いメアリー!よかった、よかった!」
「メアリー、あなたこのわたくしたちに何故相談しないんですの!?わたくしたちは悪役令嬢連合でしょう!?」
「メアリー、治癒魔術は重ね掛けしまくったけど異常はない?平気?」
「ああ、神よ!メアリーを助けてくださり感謝致します!」
「ちなみに魔国産の回復薬も役に立ったんだからね!わたしが一番メアリーを助けたんだから!」
…なんとなく読めた。
あのサンダーボルトを喰らった後、タイミングよく悪役令嬢連合が私を心配して来てくれたのだ。
そして瀕死の私を見つけ、魔国自慢の回復薬を飲ませてくれて命が助かった。
ついでにみんなで治癒魔術を重ね掛けしてくれたおかげで、今ピンピンしてると。
「その…クリスティアナは?」
「ああ…何から説明したものか…」
「あの性悪聖女は…メアリーが助かったことと僕らの追及で今までの罪を自白したよ。だから治安部隊に突き出した」
「え、聖女なのに?」
「大丈夫、教会にはわたくしが圧力をかけておきましたわ」
ルナの一言で教会には同情しかなくなった。
ごめんよ、教会。
さぞ怖かったことだろう。
「それよりメアリー、なんで早く相談してくれなかったの。僕、そんなに頼りなかった?」
「え、ルイはいつだってかっこいいし頼りになるよ!えっと、そうじゃなくて…私一人が我慢すれば丸く収まると思って………」
「メアリー」
ルイに目を合わせられる。
そして、言われた。
「これからは、自分さえ我慢すればなんて言わずに何かあったらすぐに頼って。そうしたら僕は君を、君だけを守るから」
「ルイ…うん、ごめんなさい」
「僕こそそんなにも酷い目に遭っていたのに気付けなくてごめん。今度こそもう、辛い思いはさせない」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、ルイがどれだけ私を心配してくれていたかわかった。
「うん。本当に、ごめんなさい…」
「愛してるよ、メアリー」
「私も愛してる、ルイ」
「ああー…盛り上がってるところ悪いけど、話の続きいい?」
ステラの言葉に我にかえる。
「あ、ご、ごめん。それで、クリスティアナが治安部隊に突き出されて、教会もルナの圧力で黙ったのはわかったけど…どうなるの?」
「教会としては、わたくしの知識チートでの発明品やわたくしの国内外を問わない慈善活動…そしてわたくしの寄付金のおかげで十分回っているので問題ばかり起こす性女…失礼、聖女の存在は最早不要とされましたわ」
「そっか…じゃあ…」
「この父も、あの聖女を家には置いておけぬと貴族籍からも戸籍からも排除した。なのであの娘は今は聖女認定すら取り消されたただの平民。ただの平民が貴族の娘を害したのだから、死罪が当然…ではあったが、特別に聖女の力を他国への恩を売るために使うというところで手を打った」
つまり、無期限での無償の他国への加護等の奉仕を決定されたと。
「…そっか。死罪じゃなくてよかった」
「もう。君はこんな時でも人のことばかり優先するんだから。こういう時は相手を恨んでもいいんだよ」
「でも、可哀想だし…」
「君は本当にもう…」
またルイにぎゅっと抱きしめられる。
「はいはい、ごちそうさま」
「それよりもメアリー、お腹が空いたでしょう?遅めのご飯にしましょう?」
「そうだね、そうしようか」
ということで、その日はご飯を食べてゆっくり寝た。
後日、クリスティアナは本当に聖女認定を取り消された。
けれど他国に加護を与える役目も押し付けられて、怒りで発狂寸前らしいが本人ではもはやどうしようもなかったようだ。
私と悪役令嬢連合は相変わらず仲良し。
両親との仲も幸い壊れなかった。
そしてルイとも、これを機にさらに仲が深まったように思う。
「僕の可愛いメアリー。もう簡単に人を信頼したり許しちゃいけないよ」
「わかった。気をつける」
ちょっと過保護にはなったけど、それはご愛嬌かな?
でもそんなルイに幸せを感じるので、これはこれでよかったと思うのです。
「ルイ」
「うん」
「大好き」
「僕も愛してるよ」
こんな甘い日々が、どうかずっと続きますように。