芽吹いた場所で
陽菜は、あの感想を何度も読み返した。
「救われました」「ありがとう」「支えになりました」
一文字一文字が、心に染みて、胸の奥の柔らかい部分に触れてくる。
——この人は、どんな時間を生きてきたんだろう。
——どんな思いを抱えながら、私の物語にたどり着いたんだろう。
ただ感想を受け取るだけでは足りない気がして、
陽菜は返信欄に、そっと短いメッセージを綴った。
「言葉を届けてくれて、ありがとう。
あなたの中にそっと届いたのなら、それだけで、この物語に意味がありました。
いつか、あなたの中にも、あなたの言葉が芽吹く日がきますように。」
それから数日後。
返信が届いた。
「あなたの言葉に背中を押されて、私も少しずつ書いてみようと思いました。
自分の気持ちを外に出すのが怖かったけど、
あなたの物語が、私にとっての“始まり”になりました」
陽菜は画面を見つめながら、静かに微笑んだ。
物語は、いつの間にか一人きりのものではなくなっていた。
意味を信じられなかった言葉が、
誰かの言葉を生むための「種」になっていたのだ。
それから陽菜は、自分の中にある「書きかけ」のまま置いてきた思いや、
過去の自分が抱えていたけれど形にならなかった言葉たちに、
もう一度耳を傾けてみるようになった。
それは、
自分自身との静かな対話だった。
そして同時に、
未来の誰かに向けた、
まだ見ぬ手紙でもあった。
芽吹きは、いつも静かに、目に見えないところで始まる。
自分の想いも、誰かの想いも、
焦らなくていい。
意味は、きっと、
また誰かの中で、時間を超えて花開く。
——そう思えるようになった自分が、
少しだけ好きになれた気がした。