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とあるメイドの手記 〜 VRアトラクション#絶対に沈没する豪華客船 手記風体験談〜

作者:

Portulaでの生活も落ち着き、紙とペンが買えるくらいにはなった。

そこで、ここに来るまでの記録を残しておこうと思う。

これもお嬢様との大切な思い出なのだから……




ー-




事件が起こったあの日、お嬢様と私は船上デッキではしゃいでいた。

噂の豪華客船。

屋上にある煙突からはぼうと蒸気が立ち上り、空には星々が瞬いていた。


「ねぇメイド、私こういうのって大好きなの」


深い青に呑まれた海を見てお嬢様は笑っていた。

我々は船の中を見て回ったり、客室で休んだりして船旅を楽しんでいた。


途端、霧が深くなった。湿度の高まった香り。

それを皮切りに、周囲には異常が漂い始めた。

強い雨、緑の雷、そして……異界の生物。

黒く巨大なサメのような体、赤く光る目。


見つかった。


そう思うと同時に船が傾いた。


最初は非日常を楽しんでいらしたお嬢様だったが、辺りの変貌とともに興奮が恐怖に変わっているのが見てとれた。

最期までお嬢様をお守りしなくては。そう思ったことをよく覚えている。


「救命ボートを見に行きましょう」


気づけば走り出していた。

船の後部はどんどん浸水している。急がなくてはならない。


戸惑う乗客を背に、我々は船上デッキまで駆け抜けた。

船上デッキにもちらほらと他の乗客がいた。


「これが……」


救命ボートを調査しようと近づいた。

次の瞬間の出来事だった。


「メイド!」


海の中にいた。

どこまでも続く暗闇。

息ができない。

どうやら、足を滑らせてしまったようだ。


体にまとわりつくメイド服を抑え、どうにか海上に躍り出た。

目の前に見えるのは、沈みかけの豪華客船。

ああ、お嬢様を一人残して来てしまった。大丈夫だろうか。


後ろから声がした。

「あなたも落ちたのですか」


白髪を濡らした男性がいた。

二人で立ち泳ぎをする形となる。


「ええ……あなたも?」


「はい。友人を船に残して来てしまったので心配で。……って我々もそんなことを言っている場合ではありませんけどね!」


沈みゆく船を前に、どうすることもできなかった。

目の前で小さくなって行く船、そして……その塊は完全に沈んだ。


「メイド……」


お嬢様が流されてきていた。

よくぞご無事で。いや本当、よくそんな重そうなお召し物で生き残りましたね。


そんな冗談をいう余裕もなく、我々は波に流されていった。



気がつくと、港町についていた。

随分と洋風だ。果たして、日本の近くにこんな漁港があっただろうか?


……その後、探索してわかった。

どうやら、ここはAstraverreという国のPortulaという町らしい。


そうして、お嬢様との新生活が始まった。

お嬢様は慣れない暮らしにショックを受けるのではないかと心配したが、持ち前の好奇心で全てを楽しんでおられた。


今では二人で働き、二人で家事をして、二人で眠る日々だ。

いつか、日本に戻れたら……そんな気持ちがないわけではないが、今はこの暮らしを楽しもうと思う。




とあるメイドの手記

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