第4話 夢の残響
バチバチバチと何かが燃える音が響く。
鼻をつく焦げ臭さ。
「ここは……どこだ?」
俺は目を覚ました。
「な……火事!? どうなってるんだ!?」
周りは火の海。炎がゴウゴウと唸り、熱気が肌を刺す。
俺は混乱したまま立ち尽くす。
すると、後ろから怒鳴り声が飛んできた。
「おい! お前がいたのになんでこんな状況になってんだよ!!」
振り返ると、オレンジ髪の青年と緑髪の青年が立っていた。
オレンジ髪の奴は杖を握り、緑髪の奴は剣を構えている。
「どういうことだよ! 俺だって何が起きたか分かんねぇんだよ!」
火の海で頭がグチャグチャなのに、急に怒鳴られてもわけがわかんねぇ。
「お前のせいでたくさんの人が死んだんだよ!」
オレンジ髪の青年が叫ぶ。
俺のせいで人が死んだ? 何だそれ、意味わかんねぇぞ。
「なんで俺のせいにされなきゃなんねぇんだ!」
わけがわかんねぇ。なんで俺が責められてんだよ。
「もういい。その話は後だ。オムイス、とりあえず村の消火を。」
「分かったよ……カロイさん。」
緑髪の青年――カロイと呼ばれた奴が、オレンジ髪のオムイスを静止した。
オムイスが杖を振ると、水がドバーッと溢れ出し、火がシュウシュウと音を立てて消えていく。
「さて、なんでこんな被害が出てんだか、聞かせてもらおうか。」
カロイが鋭い目で俺を睨む。
俺は何も答えられねぇ。
何も分かんねぇからだ。
「見た感じ、相手の部隊は壊滅してるっぽいけど。」
オムイスが辺りを見渡してポツリと言った。
今気づいた。俺たちの周りには、何百もの死体が転がってる。
鎧を着た兵士も、村の住民っぽい服の奴も、ごちゃ混ぜだ。
血と焦げた匂いが混じって、吐き気がする。
「それならいいんじゃねぇか!? 相手の部隊を壊滅させたんだろ。多少犠牲が出たってさ……!」
俺が壊滅させたんだ。敵をぶっ潰したんだ。別にいいだろ、何が不満なんだよ。
「まず、今回の僕たちの任務は村人の救助と、敵部隊を退けること。壊滅させる必要はなかった。」
オムイスが淡々と説明する。
だから何だよ、ってしか思えねぇ。
「俺たちは敵部隊を退けてたさ。なんせ村人の救助はお前なら朝飯前だと思ってたからな。」
「だけどここに来てみれば、君は村人を助けるどころか、敵兵を蹂躙して虐殺してた。」
カロイが冷たく続ける。
任務違反って言いたいのか、こいつら。
「けど、俺がその兵士を殺さねぇと、村人の犠牲が増えたかもしれねぇだろ!」
そうだ、犠牲が増える前に俺が――
「君はさっき『多少の犠牲』って言ったけど、村人はもう誰も生きちゃいないんだよ。君は何もできてない。」
オムイスの声が静かに響く。
なんで……なんでだよ。
「なんで……そこまで言われなきゃなんねぇんだ……お前らが勝手に期待してただけだろ!」
カロイが口を開いた。
「で、敵部隊を壊滅させたんだろ? 大将の首はちゃんと取ったんだよな?」
大将の首……? そんなの……。
「知らねぇ。たぶんこの場に大将なんかいなかった。俺は雑魚兵を壊滅させただけだ。」
「お前はさぁ! 何もやってねぇんだよ!! お前には力があるはずだろ!? なのになんで――」
カロイが俺に怒鳴ってる最中、音もなく突然後ろから金髪の青年が現れた。
「俺の部隊、壊滅しちゃった?」
「誰だ!!」
カロイが叫び、カロイとオムイスは武器を構えて戦闘態勢に入った。
「ん? そこのお前。後ろの青い目の奴、ちょっといいか。」
金髪がこっちに近づいてくる。
こいつらは青い目じゃねぇ。たぶん俺のことだろ。
「こいつに何のようだ!!」
「これ以上近寄るな!」
オムイスとカロイが俺と金髪の間に立ち塞がる。
俺はそいつらを押しのけて、金髪の問いに答えた。
「俺に用があるのか? とりあえず聞こう。」
「おい!」
カロイが騒いでるけど、関係ねぇ。
「質問させてくれ。簡単な質問だ。」
「なんだ?」
「お前の家名は何だ?」
「ヴィサス……。」
俺は素直に答えた。
「やっぱりか……。」
金髪がボソッと呟いた。
「落ち着いて聞いてくれ。」
「耳を傾けるな!!」
カロイがまだ騒いでる。耳障りだな。
「俺は君の兄だ。」
「俺の兄? だからなんだ?」
「俺と一緒に来い……こんな無能共と一緒にいる必要はねぇ。」
一緒に来い、か。
今の俺にはめっちゃ魅力的な提案だ。
「ねぇ、行くわけないよね!?」
オムイス、お前もうるせぇな……。
「兄さん、ありがとう。ちょうどこいつらにはうんざりしてたんだ。いつも俺に期待ばっか押し付けてよ。」
「は?」
カロイが静かにキレてるな。
そんなことどうでもいい。
「だからさ、兄さん。俺をそっちに連れてってくれよ。」
これが俺の答えだ。
お前らなんかとは一緒にいたくねぇ。
「そうか……お前から良い返事が聞けてよかったよ。さぁ、一緒に行こうか。」
兄貴、嬉しそうじゃん。
「お前、裏切るのか……!?」
「どうしてだよ! 子供の頃から一緒にいたのに。一緒に肩を並べて戦ってきたのに……!」
カロイの反応は、まあ当然だろ。
けどな、オムイス、てめぇのその腐った認識を正してやるよ。
「オムイス、俺とお前が対等だと思うなよ。」
対等だなんて、心外だ。
「クソ……なんで俺たちは……。」
「僕たちは……。」
「仲間じゃなかったのかよ!!!」
カロイとオムイスの叫び声が耳障りすぎて、頭の中で何かがキレちまった。
「もういい、こんな奴らと一緒にいられるかよ!」って心が叫んでる。
「仲間? それはもう過去の話だ。」
「俺はお前らの敵……リオ・ヴィサスだ!」
そこで、意識がブツッと切れた。
まるで誰かが俺の記憶を無理やり引き剥がしたみたいに。
次から本格的に異世界です。