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黒と白の異世界物語  作者: 如月
第二章 ノルディア剣魔大会
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第25話 ノルディア剣魔大会開幕

 初めて訪れるノルディアの街は、想像していた以上に大きくて、そして眩しかった。


通りには色とりどりの布を張った露店がずらりと並び、どこからか香ばしい匂いが漂ってくる。焼き串、甘い蜜菓子、香辛料の効いたスープの匂いが混ざり合い、思わず腹が鳴りそうになる。


「わあ……すごい……」


隣でマユが、小さな声でつぶやいた。目を輝かせて見つめているのは、魔法具を並べた露店。小瓶に詰められた光る石や、風を纏う護符、ちいさな音を奏でる指輪まで――どれもが俺たちにとって、見たこともない品ばかりだった。


「……あんなの、村にはなかったよな」


俺が思わず口にすると、マユはこくりとうなずいた。


街全体が祝祭のような空気に包まれている。窓辺に飾られた布や花、通りに響く音楽隊の調べ――どれを見ても、胸が高鳴る。


ノルディア剣魔大会。それはただの大会じゃない。この国でも、周辺のどの町でも、ここに集まる者たちは皆、「力」を見せに来ている。


俺たちも、ついにその場所に足を踏み入れたんだ。


──さあ、まずは受付だ。


 

 俺たちは、人混みをかき分けながら、広場の奥に設けられた受付所へと向かった。


仮設とはいえ、木組みでしっかりと作られたその受付所の前には、すでに多くの参加者が列を成していた。


俺もマユも、その熱気に少しだけ圧倒されながら列の最後尾についた。


 列に並びながら、俺は周囲を観察した。


剣を背負った屈強な戦士、淡い光を帯びた杖を携えた魔術師、二刀を腰に吊るした俊敏そうな少年。皆どこか場慣れした雰囲気をまとっていて、俺たちのような田舎育ちの子どもとは、ひと目で違いがわかった。


「……すごそうな人たちばっかりだね」


マユが隣で小さく呟く。その声には不安と、でもそれ以上に好奇心が混じっていた。


「だな、まぁなんとかなるだろ」


そう答えながら、拳を軽く握る。剣も、魔法も、毎日欠かさず積み上げてきた努力がある。胸の奥に、少しだけ灯る自信があった。


やがて列が進み、受付の前にたどり着く。


「次の方どうぞー。名前と職業をお願いします。」 


 受付の女性が俺たちに声をかける。俺とマユは一歩前に進み、受付の前に立った。


「リオ・ヴィサスです。……えっと、俺、剣と魔法の両方使えるんですけど、職業ってどっちにすれば?」


俺の問いに、受付の女性が少し目を丸くする。


「両方、ですか? それは珍しいですね。では“魔法剣士”で登録しておきます。」


「……わかりました。お願いします」


「次の方、どうぞ」


「マユです。職業は魔術師です」


「はい、魔術師で登録します。おふたりとも、これが控え札になります。試合前に呼ばれたら、これを持って集合場所に来てくださいね」


木札を受け取りながら、俺は少しだけ緊張を感じた。けれど、ここまで来たからにはやるしかない。そう自分に言い聞かせて、マユと並んで受付所を後にした。

 


マユと並んで受付を済ませると、すでに見知った顔が視界に入った。オレンジの髪を後ろで束ねたオムイスに、軽装のカロイ。あの屋敷で出会った二人も、当然のようにこの大会に参加していた。


「おう、ちび助に……マユ、だったか? へえ、ほんとに出るんだな」


カロイが、にやりと笑う。


「久しぶりだね。あれから、ちゃんと鍛えてきた?」


オムイスがそう言って、少しだけ笑みを見せる。以前よりもどこか落ち着いた雰囲気になっていて、あのときよりもずっと強くなっていることを、黙っていても感じさせた。


「もちろん。あんたらに遅れ取るつもりはないよ」


俺はそう返し、自然と背筋が伸びる。言葉のやり取りの裏には、互いの力量を測ろうとする静かな火花が散っていた。


マユはといえば、カロイの視線にちょっとだけ身を縮めながらも、ちゃんと前を向いていた。


「マユも、あのときよりずっと魔法、うまくなってるよ」


俺の言葉に、マユは小さく頷いて、「……うん」とだけ答える。


「へぇ、そりゃ楽しみだな。またどこかで当たるかもしれねぇな?」


カロイがそう言い残して、オムイスと共に人混みに消えていった。


その背中を見送りながら、俺は拳をぎゅっと握る。あの二人は、強い。けれど、それでも——


「絶対に負けない」


小さく呟いたその言葉が、胸の奥に熱く響いていた。



 受付を終えた参加者たちは、それぞれ指定された控え場所へと案内されていく。俺たちも係に促され、広場の一角に設けられたテントの中へと足を運んだ。


 テントの中は、簡素な椅子と机が並ぶだけの殺風景な空間だったが、そこにはすでに何組かの参加者が待機していた。誰もが黙ったまま、集中した面持ちで、始まる戦いに備えていた。


 俺とマユも、隅の席に腰を下ろす。


 「……なんか、いよいよって感じだね」


 マユがぽつりとつぶやく。緊張しているのか、手のひらが少しだけ震えていた。けれど、その目はしっかりと前を見据えている。


 「大丈夫だよ。いつも通りやれば、きっと勝てる」


 そう言って、俺はマユの手に軽く触れる。マユは一瞬驚いたようにこちらを見たが、すぐに笑みを浮かべて小さくうなずいた。


 そのとき、テントの入口に係の人が現れた。


 「第七組の方、準備をお願いします。試合場へご案内します」


 俺たちの名前が呼ばれたわけじゃないが、すぐに自分たちの順番も近いとわかる。胸の鼓動が、少しずつ高鳴っていく。


 テントの中で待っていると、再び係のひとりが姿を現し、控えの参加者たちに向けて声を上げた。


 「これより、試合に関するルールの最終説明を行います。参加者の方は、よく聞いておいてください」


 声が静まり、係が手に持った紙を広げた。


 「まず、このノルディア剣魔大会は、二人一組でのチーム戦です。勝敗はどちらか一方の戦闘不能、または降参によって決まります。ただし、明らかに無力化された場合は審判の判断で即座に試合終了となります」


 周囲の参加者たちが真剣な表情で耳を傾けているのがわかった。


 「魔法・剣術のどちらも使用可能ですが、殺傷を目的とした攻撃は禁止です。過度な攻撃や、明らかに相手の命を奪う意図が見られた場合は、即時失格となります」


 マユが隣で小さくうなずく。


 「フィールドは仮設とはいえ、魔術師によって保護結界が張られています。安全は保障されていますので、全力で挑んでください。ただし、怪我をしても自己責任というのが建前です。無理はせず、限界を感じたら降参することも勇気です」


 「以上がルールとなります。質問のある方は控え室内で係までお声がけください」


 説明が終わると、控え室に再びざわめきが戻った。緊張と高揚が入り混じったような空気の中で、俺とマユは視線を交わす。


 「……ねえリオ。最初はどんな相手だろうね」


 「さあ?誰が相手でもやることは変わらないけどね」


 マユは小さく笑って、それから深呼吸をひとつした。


 「うん、私たちなら、きっと大丈夫だよね」


 その言葉に、俺も自然と口元が緩んだ。ここまで一緒に訓練してきた。どれだけ強い相手が来ようと、今さら怖気づく理由なんてない。


 そんなとき、控え室の入口に立っていた係が名簿を確認しながら声を上げた。


 「次の対戦組、リオ・ヴィサスさんとマユさん、準備をお願いします!」


 とうとう来たか、と心の中で呟いて立ち上がる。隣を見ると、マユも緊張を押し殺した顔で頷いた。


 「行こう、マユ」


 「うん、一緒に頑張ろうね」


 俺たちは肩を並べて、控え室を後にした。眩しい陽光の中、仮設競技場の入口がすぐそこに見えていた――。

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